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風と共に。  作者: フラップ
第二章 田舎的森林
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到着

 湊は目の前の木箱の中身を見た。緩衝材に包まれたミサイルだ。


 後部は殆ど原形をとどめていない。後部の部品は三分の一しか回収できなかった。幸い、民家の少ない場所を選んだお陰で人に被害は出ていない。


 赤く塗られた弾頭。フィンは一つなくなっていた。持ち上げてみてみる。まるで、鋭利な爪で切り裂いたような痕。


 持ち上げたミサイルを机の上に置く。一つ一つ、緩衝材を取り除いていく。藁のようだ。それをもとの箱に戻す。元の箱の中には、泥だらけの破片が入っていた。フィンは無い。


 自分の設計したものがぼろぼろになっている。椅子に腰かけた。重量を支える義務を放棄した。


 引き出しの中からキセルを引き出す。火をつけ、吸う。煙を吐く。目を瞑る。


 「原因は?」


 誰もいない、と思っていたから驚いた。椅子ごと振り返るとミーナがいた。制服だ。今までで私服のミーナを見たことがない。実家でも制服だった。


 前世界の制服がある程度儀式向けだったのに対して、現世界の制服は実用性が高い。まあ、着やすい、という意味でもある。パイロット装備を全部つけたら重くなるだろうが、ミーナはごく一部しかつけていな

 い。規則で禁止されていたはずだ。


 そもそも脱出装置という概念がない。母(笑)が初装備だろう。


 黙っていたので、ミーナの表情が僅かに変化した。明確な感情の変化はなく、ただ寝返りのように表情が極僅かにずれただけ、という感じだ。


 「単純かつ明快」


 「?」


 「フィンの強度不足だ。軌道修正時にどれ位の力がかかるかよく分かっていなかった」


 「改善は?」


 「難しいな」


 そう。難しい。重くなると困るし、強度がないのはもっと困る。


 それに、単純に強くしても意味がない。もっと根本的な解決が必要だ。


 目を瞑って考える。


 思考の海、という言葉がある。あまり正しくないだろう。


 考えろ。想像しろ。想定しろ。解析しろ。


 ある種の焦燥が湊をせっつく。


 「湊?」とミーナが見つめてくる。


 だが湊はほとんどその二つを無視していた。


 思考に空間は存在しない。


 思考に時間は存在しない。


 空間からも時間からも乖離(かいり)する。


 湊は息を吐く。


 目を開けても、焦点は合わない。


 その水に滲んだ絵の具のような視覚を湊は破棄。


 思考の糸口を掴む。


 その糸が切れないようにゆっくりと、しかし確実に手繰っていく。


 「纏めればいい」


 「纏める……?」


 「纏めればいい……二つのフィンを。ロールは後部でやる」


 「?」


 三軸……すなわち、迎え角のピッチ、横滑りのヨーは今まで通り前のフィンで行う。


 湊はプロではない。前世界のミサイルは再現できなかったようだ。


 そこで、今回は追尾はピッチ・ヨーに任せ、ミサイルの傾きであるロールは完全に補助に回す。


 ピッチ・ヨーの二つずつのフィンをそれぞれつなげてしまえば、強度は飛躍的に向上する。


 要するに、今まで四つの機構を四つの固定で支えていたが、二つの機構を二つの固定でつなげてしまう、ということだ。


 そうすれば、必要な強度も、かかる重量も減る。


 シンプル・イズ・ザ・ベスト。


 構造を単純化し、もう一つの補助機構を取り付ける。前半が精巧で、後半が力ずくだ。

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