改良
固定ピッチにフィレットなし、アドバンス・ヨーを起こしそうな舵角、適当にとってつけたとしか思えないカウル、タブさえない、クラークYらしき翼型、出しっぱなしの主脚、思わず馬鹿が作ったの?と言いたくなる様な悲惨に尽きる機体、お前ら馬鹿なの?それとも馬鹿なの?……。
落ち着いた湊は言った。よし、飛行機を作ろう。
……負けず劣らず馬鹿な湊であった。
それでひと悶着あったが、とりあえず飛行機をいじれる。なぜなら、なぜなら……。
開けたシャッタの先には未使用の予備機、スプリクトがあった。
青灰二色の上面塗装と白い下面。そこに置いといた牽引車を繋ぐ。棍棒みたいに重い牽引棒を接続し、キーをひねってエンジンを掛ける。キーをひねる時に魔力を流すことも忘れない。サスペンションは板ばね。大分心地悪い。確かにこれで街を走ろうとは思わないな。
魔素は地脈から吸い上げている。異世界人クラスなら魔力を流しながら飛べなくも無いが……お勧めしない。
車両通路に入りそうなのを抑えて誘導路に入る。ここの管制塔では誘導路は管制外。自己判断ということだろう。いつものハンガーの隣を割り振られたのでそこに入れる。所属上第一実験整備飛行班ということになる。班長、パイロット、整備士全部湊。だが異世界人のネームバリューはそれぐらいある。少なくともハンガー一個借りれるぐらいは。今までその発明が金になってきたのだ。襲われる危険が無いわけではない。襲われて困るような戦闘力でもないが。
シェルターからいままで作ってきた試作部品を持ってくる。干渉テスト、強度テストもばっちり。金属疲労も元の部品と変わりは無い。引き込み足、ファウラー・フラップ、フィレットなど。これが今回の変更内容だ。すべて交換部品で専用工具さえあれば簡単に取り替えられる。魔法様々だ。
* * * *
夢中になりすぎてエンジン音が聞こえなかったようだ。慌ててミーヤの機体のハンガー・インさせる。
「不具合は?」
「何してたの?」
「軍事機密。不具合は?」
ミーヤの顔がむっとなる。耳はピンと立っている。苛付いてます、ってのが凄くよく分かる。便利な耳だ。
「ない。そんなわけが無いでしょ」
ミーヤが返事を返した。前の返事が僕の質問への答えで、後ろは僕の返答に対する不満だ。同時に二つの会話をするあたり公私混同が無くていいといえる。
「そりゃあ良かった。あとで見せてやる。」
意図的に会話を打ち切ってスプリクトにワイヤを繋ぐ。好奇心の強い猫獣人のミーナのことだ。夜中にこっそり見に来るだろう。人間に比べて猫獣人の夜間行動力は比べ物にならない。一度たらいを落とす罠を掛けておいたら掛からなかった。二人ともそれについては触れなかったし、そのたらいは吊り下げたままだった。通りかかった人間のパイロットが掛かった。三ヶ月ほどそのままだったことになる。
分解はもうできた。あとは取り付け。
ミーナ機は魔力を抜いて一通りチェックをするだけ。
フィレットから取り付けよう。
前からどこに穴を開けてもいいか調べたから大丈夫。でもその前に付ける所の外板を剥がしてしまおう。
主翼は三重構造だ。外板、骨組み、芯材。中央部の強度が必要な所にはハニカムが採用されている。今回は骨組みを付け足す。
六角を魔導ドライバにつける。差し込んで、横についているネジを締めたらおわり。
外板はある程度剥がせる。芯材の所は取り替えることが出来ないので上に新しい骨組みを付け足して外板を張る。
スイッチを逆転に入れて魔力をこめる。
回転したあとはちゃんと位置が戻るというすぐれものだ。
一本ずつ外していく。力加減が必要な取り付けと違って外すだけだから楽でいい。
勿論、全ての外板が外れるわけではない。3分の2だ。
黙って黙々と作業する。里犬に火で黙るだがどこからそうなったのか理解できない。
少しずつ外していくというのは好きな人にはたまらない作業だろう。残念ながら湊は苦手だ。建設的なんだろうか。違うと思う。
湊の後ろには加工した新しい外板と麻袋に入ったフレームがあった。ここの設備では作れてもラダーのリブが限界だろう。
外板をやっと一枚外す。やたらにでかい。湊の上半身位はありそうだ。これが後縁分。後は外せない。芯材部と一体なのだ。
芯材は中央部からハニカム、トラスになっている。
一番小さいフレームを取り出す。細い三角錐状で、ここからフィレットが始まる。三角錐の後ろの方に窪みが二つついている。ここからスパーを伸ばす。
フレームを取り付けていく。外板がある部分とない部分のためにつくった段差が小さい。仕方が無いので削る事にする。
壁にかけた防塵グラスを取る。
ベルトグラインダに固定治具を固定する。ボルトで締めた。ワンタッチでは強度が足りなかった。治具にフレームを固定し、グラスを頭から下げてかける。
視線を低くして、不具合がないか確認する。大丈夫だ。
スイッチを入れて少しづつ下げていく。
僅かに当たる。すぐに力を抜くようにバーを上げ、部品を見る。曲がってもいないし、変な傷もない。
次は少し長く押し付けた。もうOK。スイッチを切り、グラスを上げる。
固定治具はそのままでいいが、フレームは外して刷毛で切り粉を掃く。隙間にでも入ったら大変だ。
ミスリルはアルミみたいにねばる金属だ、バリをヤスリで落とす。
ぴったりとはまった。そろそろミーナが来るだろう。
他のフレームを持ってベルトサンダーの用意をする。まだ右のフレームを三つつけただけだ。
フレームを三つずつ三組に分ける。ミーヤ機でやることは無い。
三つのフレームをそろえて固定治具に固定、スイッチを入れる。こういうのは普通の人は嫌いかもしれないが湊は大好き。