宴
「お、ミーナ男連れてんじゃん。何々?どこで作ったん?え?姉ちゃんに話してみ?」
あ、ミーナが震えてる。怯えじゃなくて、怒りだな。アイコンタクトして、例のスパナをミーナに渡す。もう使えないから存分にやっちゃえ。
「家の娘がそんなに奔放に見えるかね?」
ミーナ父がヤバイ。黒いオーラが出ているのはきっと体内魔力循環が加速したからだろう。確か、血液よりも早く周ったらそうなるはず。どんな鉄人だ、父ちゃん。ミーナと二人で飛行艇ににじり寄っている。もしかして猫獣人って戦闘種族だったりしますか?
「え?マジ?ちょいちょいちょい待ちーや。いやいや、やばいってちょっと」
だんだん声に焦りが混じってくる。エンジンのニードル調節みたいだ。大体乾いた音が一番いい。彼女も乾いた声を絞り出すようになるまで開放されないだろう。科学的根拠の伴っていない予想。
「湊さんはどうぞ家の中でくつろいで。夕食まで少しありますからお茶を入れてスコーンでも食べましょう」
ミーナ母が茶に誘ってくる。それはこれから起こる拷問もとい質問もとい問い合わせもといお話もといご歓談を見せたくないからだろうか。
ミーナ母は笑っている。その笑みに混入している物質は何?!ふりかけでもトッピングでも無いその混合した物質名は?怒り?恐喝?それとも……。
「ささ、どうぞどうぞ」
包丁もって言うと脅迫にしか聞こえん。いや、実際そうなんだろうけどね。
どこぞの神話宜しく振り向いたら殺されそうだ。一族の恥かも。
* * * *
この前フィレットのフレームが入っていた袋の十分の一程の麻袋が部屋の隅で放置されているにこやかな食卓。時々ピクリと動くのは気のせいだろうか。
いいにおいだ。これが故意に香りの立つものをセレクトしたということを知らなければもっとおいしかっただろう。
行商隊の方のお話によると彼女は10時間何も食べていないらしい。その状態で通気性のいい麻に閉じ込められるわけだ。……えげつなっ!ミーナ母マジ怖え。
「……それで湊さんは整備士でミーナの上司なのか?珍しいね」
「実験隊なので。調整する側が上なんです。発足したばかりで二人ですが後少しで数人入るでしょう」
「ふむ。その若さで隊長か。失礼だが、家はどこだね?」
「異世界です」
「!……ほう。そういえば言っておったな」
「ええ」
麻袋は精神衛生上危険なため視界に入れない。
「さて。もうそろそろ定期の狩に出なければいけないので。送れないのが残念だが」
「いえ。御気になさらず。では」
「ああ。また」
夜だというのに彼は狩に出るという。ゲーテさん達が持ってきた鉛と火薬を買ったそうだ。威力営業妨害にならないのか。
少しアルコールが周ってきた。獣人にしてはきつめの酒。余り酒には強くない。




