ゲーテ
笑みを深めて手を握り合う二人の男。
ミーヤが着替えて一階に下りたミーヤが見たのはそんな少し不気味な光景だった。
その後ろで兄が戸惑っている。異世界人だからか、湊は変だ。ミーヤは慣れたが兄はまだ慣れていないのだろう。
よく考えたら二年ほど実家に帰っていない。今日も明日の朝になったら戻らなければいけない。親不孝かもしれない、と自分を反省する。
「ミィ、明日離陸は9時三十分な」
「了解」
「良い所だな。老後に隠居するならこういう所が良い」
「隠居?まだ若いのに?」
湊は苦笑する。苦笑される覚えは無いし、普通に湊は変だ。とりあえずスルー。
爆音が聞こえてくる。思わず皆止まって上を見上げるのは仕方が無い。魔獣かもしれないんだから。
「ん?軍用機じゃない……」
外にでた湊が呟く。外に出て空を見上げると、下半分が緑色に塗装された双発飛行艇。
「ゲートさん達だ」
「ゲートさん……って誰だ?」
「あぁ、ゲートさんって言うのは」
父が話し始める。
ゲーテさん、【ゲーテ・ゲート飛行行商隊】は、払い下げの飛行艇【ティーサ】改造機に乗って大陸中を周る商人だ。
ドワーフの洞窟、フェアリーの里、エルフの森etc……。最高級の品々は大都市ではなく、辺境、秘境で作られる。自然の放出される魔素が多いからとか言われているけど、本当の所はよく分からない。だけどそれを望む人は産地とは遠い所にいる。そこまで製品を運ぶのが【飛行行商】という職業だ。
そこで使われる飛行機は様々。短距離離陸機や飛行艇、珍しい所では飛行船を使ったいる所もあるという。
「へぇ。なんというか、今の世界だから成り立つ職業だな」
「?」
「前の世界だと大量じゃないと生計が立たないからな。行商レベルでできるってのは凄い」
「それに、着陸しない限り関税は掛からないから国を跨ぐこともあるね」
父が付け加える。母がキッチンから出てきた。
「あらあらあらあらゲーテさん?」
「あぁ。今日もここに止まりそうだ」
「そのゲーテさんはこの村の常連なんですか?」
湊が聞いてきた。まさか。彼女は……
「ゲーテさんはこの村の村長よ」
母が言った。
ゲーテ・ステクル。この村ダウンフォレストの村長……だけどほぼ殆どの仕事を補佐官である父に投げて行商だと村を飛び出した……。
「ちょ、ここに降りてくるぞ!?」
湊の混乱した声。(飛行機では)すぐ近くに空港があるのにここに降りるという暴挙。
村の未舗装の通りに足を下ろした双発飛行艇が着陸する。少しでも左右にずれたら家に突っ込むだろう。
「おぉぉい!帰って来たぞぉぉ!!!!」
大きな声が響く。そう、ゲーテ・ステクルは……、
……頭に【超】が付きそうなほど、豪快で、勇敢な、大馬鹿野郎だ!
飛行行商……秘境への旅客輸送も兼ねたら生計を立てられる……かも。
『※エルフの森滑走路に進入するためには事前にフライトプランを提出する必要があります。
※エルフの森に入れる人は事前に話を通した人のみです。』(引用・「はじめての飛行行商~空飛ぶ商人になるために~」コルガラ出版 より)




