フォレスト
ミーナの実家、二階建てのごく普通のお家。
迎えてくれたのは温和な笑みを浮かべる優しげな中年男性だった。
「やあ。よくおいでなすった。どうぞごゆっくり」
「…(なあ、この方お父さん?叔父さんとかじゃなくて)…」
「…(いや、家の父です)…」
ガイスと耳打ちを交わす。嘘ぉ!?あの殺人鬼がこの温和なおっさんと同一人物?!
地面が割れんほどに踏み込んでくる影。
スパナが折れ曲がるほどの怪力。
浮かぶ怒りの形相。
あれがこのステッキを持った温和な獣人とは思えない。間違っても杖持ってる人がする動きじゃねぇ!
「ああ、そうだ。家には年頃の娘がいるから、済まないが一回の客間で寝てくれないかね?」
「え、えぇ」
「夕食はうちの家内が腕を振るうから楽しみにしておいてくれ。うちの娘が世話になっているようだね。また迷惑をかけるかもしれないが、どうぞ宜しく見てやってくれ」
……………………猫をかぶるという言葉がある。しかしやはり本職の猫獣人には敵わない様だ。
肩越しに暖炉が見える。その上に長剣と猟銃。一目で分かる。あれは飾りなんかじゃない。長剣も、猟銃も、ちょうど手が当たる部分が擦れている。作りも実践的。飾りの一つも無い。
それに気付いた瞬間、男の目が一瞬暗く光る。笑みも、仕草も、立ち振る舞いも一切変わらない。唯眼だけが光っている。
「……宜しく。フォルス・モーガンだ」
「えぇ。宜しくお願いします。遠井湊と申します」
日本で先生に向ける顔を貼り付けて返事をする。失礼と思われない、薄めた笑い。
「……」
「……」
「……いや、済まない。君と似た人間をずいぶんと前見たのでね」
「……?」
「君と同じ異世界人。性根は腐り落ちているのにやたら頭の回る奴だった」
「……」
「君は……」
如何かな?声に出さないフォルスの思い。手を出して握手する。ヤスリみたいにザラザラした手。
「明日出るそうだね。明日は迎えられないから先に行っておくが、いつでもおいで。君は【面白い】人だ」
「【面白い】かどうかは分かりませんが……」
一旦区切る。二階からミーナが降りてくるのを視界の端で確認。
「世界を跨いで変人呼ばわりされますからね。【楽しい】人であることは保障しましょう」
【面白い】と【楽しい】。その言葉の差に込めたニュアンスは十分に伝わったようで、彼はますます笑みを深めて手を握り返した。
「……何があったの?」
ミーナ、そこは黙って背景に徹して欲しかった……!
わあ!湊が男らしい……!




