↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
PR
6/13

第6話 狩る理由



「今日は殺しません。」


少年の言葉が、静かな住宅街に残った。


そして彼は、何事もなかったかのように背を向けた。


「待て。」


低い声。


黒崎だった。


ナイフを構えたまま、一歩前に出る。


「お前が、全部仕組んだのか。」


少年は立ち止まる。


振り返らない。


少しだけ考えるような間があった。


「全部、ではないです。」


それだけ言って、再び歩き出す。


暗闇の中へ、音もなく消えていった。


沈黙。


風の音だけが残る。


美咲が小さく息を吐いた。


「……何あれ。」


「気持ち悪い。」


私は何も言わなかった。


黒崎も動かない。


ただ、少年が消えた方向を見ている。


その目には、明確な殺意があった。


 


「黒崎。」


私が呼ぶ。


「何だ。」


「お前、ああいうのを追ってるのか。」


黒崎は答えなかった。


しばらくしてから、ナイフを下ろす。


そして静かに言った。


「……違う。」


「違う?」


美咲が聞く。


黒崎はゆっくりと振り返った。


その目は、どこか遠くを見ていた。


 


「俺は、殺人鬼を殺している。」


 


その言葉は変わらない。


だが、その奥にあるものは——


少し違っていた。


 


「理由がある。」


 


夜の空気が重くなる。


黒崎は、ゆっくりと話し始めた。


 


——五年前。


あるアパートで、連続殺人事件が起きた。


被害者は三人。


全員、同じ部屋で見つかった。


犯人はすぐに捕まった。


若い男だった。


どこにでもいそうな、普通の人間。


 


「動機は?」


当時、刑事だった黒崎はそう聞いた。


男は笑った。


 


「なんとなく。」


 


それだけだった。


 


「理解できなかった。」


黒崎は言う。


「人を殺す理由が、それだけだったことが。」


 


だが、それで終わりではなかった。


 


取り調べの中で、男はこう言った。


 


「でもさ。」


 


「最初にやったのは、俺じゃない。」


 


黒崎は眉をひそめた。


「どういう意味だ。」


男は笑った。


 


「ネットで見たんだよ。」


 


「“人間は簡単に壊れる”って。」


 


沈黙。


 


「誰が書いた?」


黒崎は聞いた。


 


男は答えた。


 


「知らない。」


 


「でも、面白そうだったからさ。」


 


「試してみた。」


 


 


黒崎はそこで話を止めた。


美咲が小さく呟く。


「……最悪。」


 


黒崎は続ける。


「その後も、似た事件がいくつも起きた。」


 


「動機が曖昧な殺人。」


「理由のない暴力。」


 


「まるで」


少しだけ間を置く。


 


「誰かが、試しているみたいだった。」


 


沈黙。


 


私は言う。


「だから殺すのか。」


黒崎は頷く。


「放っておけば増える。」


「そういう連中は。」


 


「だから、消す。」


 


その言葉には迷いがなかった。


 


美咲が笑う。


「正義の味方ってやつ?」


黒崎は首を振る。


「違う。」


 


そして静かに言った。


 


「ただの後始末だ。」


 


風が吹く。


 


私はあの少年の言葉を思い出していた。


 


——観察。


 


黒崎の言う事件。


そして、あのノート。


 


全部が繋がっている気がした。


 


そのとき。


 


黒崎がふいに言った。


「……妙だな。」


 


「何が?」


美咲が聞く。


 


黒崎は住宅街を見回す。


 


「この場所だ。」


 


「三年前の事件現場。」


「さっきの少年。」


 


「そして」


 


少しだけ目を細めた。


 


「俺が追っていた事件。」


 


沈黙。


 


黒崎は低く言った。


 


「全部、同じ線上にある。」


 


 


そのころ。


 


少し離れた場所。


 


暗い路地の奥で、少年は立ち止まっていた。


 


ノートを開く。


 


ペンを走らせる。


 


観察記録 No.32


 


少年は静かに書いた。


 


「被験者C(黒崎)」


 


「過去の動機:正義感による選別行動」


 


「予想通りの反応を確認」


 


 


少年は小さく笑う。


 


「やっぱり。」


 


「人間は、理由がある方がよく壊れる。」


 


 


ページをめくる。


 


そこには、すでに次の項目が書かれていた。


 


次の実験段階


 


少年は空欄に、ゆっくりと書き込む。


 


 


「相互干渉による崩壊実験」


 


 


夜の街は静かだった。


 


だが確実に。


 


何かが動き始めていた。


 

そしてそれは。


 


もう止まらない。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。