第2話 狩人たち
夜の路地に、しばらく沈黙が落ちていた。
遠くでパトカーのサイレンが鳴っている。
美咲は壁にもたれながら、私を見ていた。
「神崎さん。」
「なんだ。」
「信じてませんよね。」
「何を。」
「三人目の話。」
私は答えなかった。
代わりに言う。
「証拠がない。」
美咲は少し笑った。
「ですよね。」
それからポケットからスマートフォンを取り出した。
画面を操作する。
「じゃあ、これ。」
スマートフォンをこちらに向けた。
ニュース記事だった。
【連続失踪事件】
過去半年で七人の男女が行方不明。
全員に共通しているのは、過去の犯罪歴。
私は画面を見る。
確かに奇妙だ。
「偶然だ。」
そう言うと、美咲は首を振った。
「偶然にしては出来すぎてる。」
「しかも」
画面をスクロールする。
「全員、同じエリアで消えてるんです。」
地図が表示された。
私はそれを見た。
確かに集中している。
半径二キロほどの範囲。
この街の中心部だ。
「つまり。」
美咲は言う。
「この辺にいるんですよ。」
「三人目が。」
私は黙っていた。
そのとき。
遠くの通りで、何かが倒れる音がした。
金属のような音。
美咲と私は同時に顔を上げた。
「聞きました?」
「ああ。」
音がした方向を見る。
暗い通り。
人影は見えない。
だが。
「……」
美咲が小さく言う。
「血の匂い。」
私は歩き出した。
美咲もついてくる。
通りを曲がる。
その先で、街灯が一つだけ点いていた。
そして、その下に。
男が倒れていた。
背広を着た中年の男。
腹を押さえている。
地面には血が広がっていた。
まだ生きている。
「……くそ……」
男は苦しそうに呻いた。
美咲はしゃがむ。
「誰にやられました?」
男は震える手で指をさした。
路地の奥。
「……黒い……コート……」
それだけ言って、男は意識を失った。
美咲は立ち上がる。
「どうします?」
私は路地を見る。
暗い。
だが。
奥で何かが動いた。
人影。
背の高い男。
黒いコートを着ている。
男は立ち止まり、こちらを見た。
街灯の光が、わずかに顔を照らす。
無表情だった。
そして静かに言った。
「……二人。」
低い声。
「面倒だな。」
男はゆっくりとナイフを構えた。
美咲が小さく笑う。
「ほら。」
「言ったでしょ。」
そして楽しそうに言った。
「三人目。」
男は一歩前に出る。
冷たい声で言った。
「違う。」
「お前たちが、二人目と三人目だ。」
風が吹いた。
静かな夜の通り。
そのとき私は気づかなかった。
この出会いが。
すべての始まりになることを。
そして。
この街のどこかで。
私たちを見ている人間がいることを。
その人物はノートに書き込む。
観察記録 No.28
「被験者三名、接触を確認。」
ペンが止まる。
そして、次の一文が書かれた。
「実験は順調に進行している。」




