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この作品には 〔残酷描写〕が含まれています。

並んではいけない列について

作者: 米中毒
掲載日:2026/03/21

これは、私が列から戻ってきた記録です。


もし、ホラーが苦手な人であったなら、逆に読んでおいて欲しいと思っています。



私がその噂を聞いたのは、西暦2027年5月2日で日曜日の朝。


たまたま早く起きてしまい、めざましテレビをぼーっと見ていた時だった。


行方不明となる人が各地で発生している。


規模は様々で、数十人が消えることもあれば、二人消えることもある。


だが、規模でいえばそこまででもない。


日本において、行方不明者数は数万人。


だが、異常なのは分からない事だ。


・理由が不明

・場所が不明

・生死が不明


ほとんどは数日で見つけ出されることを考えれば、この半年の現象は不気味だった。


コメンテーターが持論に花を咲かせている中で私はスマホを立ち上げる。


臆病な性格だから、まずネットを開いた。


ChatGPTへ質問を投げて待っている間に、Xを開き”行方不明”で検索する。


だが、Xはあまり当てにならなかった。


ニュースでは触れていたのだが、その話題以上に、行方不明者は多かった。


災害で消えた者の情報や、数年前に消えた子供の情報提供とか。


あまり言ってはならないが、他人事の通常事態があふれていた。


ChatGPTもそんな私には深くかかわらない事件を挙げた。


だが、AIの良い所は細かい条件を足せることだ。


『この半年での行方不明者を教えて。

ただし、その理由が分かっている者は除き、成人男性に関わる事例を。』


成人男性と言及したのは安心したかったからだ。


私には関係ないと知りたかった。


その上で、もし私にも危険が及ぶなら対処法が知りたかった。


大抵の怪談には逃げ道がある物だ。


トイレの花子さんなら、トイレに行かなければいい。


人を埋めれば金がなる木には、人を埋めなければいい。


墓場で幽霊に襲われるならば、その墓とやらに近づかなければいい。


だが、チャットGPTとの会話の結論はこうだった。


『関連性のある報道は見つかりませんでした

あなたも危険を感じたらその場を離れることをおすすめします。』


やはり、謎だった。


私はチャットを切り上げ水を一杯飲み干した。



その日は久しぶりに外へ出た。


普段は行かない近所のショッピングモールへ足を運んだ。


田舎の中では活気があって、気分転換に良いかと思ったからだ。


発生した行方不明者は全国各地。


関係ないだろうと割り切れないので、喧騒で気を紛らわせる。


そこには様々な人の流れがあった。


スーパーのレジ前の列。


本屋で歩く人の動き。


めざましテレビで紹介された化粧品が作った人だかり。


いつもと変わりはしないそれに安堵する。



私はその中の一つに目を止めた。


何の行列か分からなかった。


エレベーター近くの広いスペースに何故か人が並んでいる。


その終点は何故か電気屋へと続き、見えない。


何の列かは気になるが、今朝のニュースを思い出した。


私は、”並びたくない”と思った。


私は列に並んでいた。


前は灰色の上着を着た中年男性。


普段なら話しかけて何の列か聞くか、立ち去っていた。


何故か、私は列に加わっていた。


列は数十人で構成されている。


それ自体に違和感はない。


人に偏りがあるわけでも無く、前後で話している人も居る。


途中で飽きて抜ける子供も見えた。


だが、私は固まっていた。


その時点で恐怖によって口を固く閉じていた。


携帯で調べたが、イベントなんかは検索には引っ掛からなかった。


数階上からの照明から、電気屋のやけに明るい照明へと変わる。


列は店内にも連なり、レジの辺りで邪魔になる。


恐怖とまでは言わずとも異物感がヒシヒシと感じられた。


終端がどこなのかを見ようとしたが、今度は扉に続いていて見えない。


従業員通路に一人一人飲み込まれていった。


見物人からの視線を受けつつ、私は進んでいく。


列はどんどん人が抜けていく。


だが、この異様さを見て、店外へ出た人も多い。


恐らく、列に加わってしまったのだろうか。


私も何故か、両開きの扉を開いていた。



従業員通路を進むと、一本道に続く。


店員は何故か居ない。


白い壁は無機質で私の恐怖をさらにあおる。


逃げたいのに、何故か逃げられない。


この時点で私は恐れていた。


逃げようと何度思っても、足を止められるのは数秒。


後ろのおばあちゃんが進んで来るので、私も前に進まざるを得ない。


私以外の列から抜ける人も減っている。


前の人に話しかけようとも思った。


静寂で無機質な通路では前の人すら不気味に感じて話しかけられなかった。


消火器や手荷物をしまうロッカー。


店員の痕跡を横目に見つつ、列は進む。


端は見えない。


後ろは人が多く、扉で毎回閉じられる。


前は曲がり角に差し当たっていて全く見えない。


少し暗い照明の下で、私は進む。


そして、曲がり角に出てしまった。


その先は異質な空間だった。


黄色く塗られたトンネル。


複数の入り口から列が自然に合流していく。


数は分からない。


だが、私は恐怖で唾を飲んだ。


行方不明だと報じられた少年が遠目で見えた。


私の五人前。


顔は確実に見えたし、服装もテレビ通りだった。


二か月前に理由もなく消えた16歳。


私は”信じたくない”と思った。


だが、指が勝手に動き、グーグルを立ち上げていた。


履歴を遡り、記事の一つをスワイプする。


緑の上着は今の時期に合わない分厚いもの。


靴は母親に買ってもらった新品の青のスニーカー。


私は不安を紛らわせるよう携帯を握り締めていた。


次の瞬間にはそれを投げ捨てていた。


画面を見続けるのが無理だった。


私は前を向く。


少し前に見えるおっさんが列からはみ出した。


その服装は今の時期に合わない夏用のTシャツ。

胸元には見覚えのない企業ロゴがある。


帰宅後に調べたが、その会社名は検索に出なかった。



だが、彼も列からは逃れられない。


数歩戻ったところで動きが止まる。


そして、恐怖に顔を歪ませたまま俯いた。


列に歩いて戻っていく。


延々と続く通路の中で私はただ歩いていた。


黄色の照明に黄色い壁。


カーペットの感触がずっと続く。


黄色い床に無臭の空間。


熱くもなく、寒くもない。


ただ列は進み続ける。



背後から子供の声が聞えた。


舌っ足らずのその声に私は反応する。


列を乗り出し、出所を覗く。


どこからともなく合流してきた白いスカートの女性に手を引かれている。


母親らしき彼女は顔を引きつらせているというのに、少女はケタケタ笑う。


事情も知らずはしゃぐ、その姿に少しだけ癒された。



その時、私は列を一歩飛び出せていることに気が付いた。


”列に並びたくない”


そう思い続けていたのに、列に並んでいた。


だが、気を取られた瞬間に私は列を抜けている。


恐怖が途切れて私は戻れていた。


周囲からの視線を感じる。


全員が顔に恐怖を浮かべたままだ。


私は関係の無いことを思い浮かべ続けた。


恐怖が戻らないように、列を連想しないように。



私は行きよりもずっと短い時間でショッピングモールに戻っていた。


列の横を歩いている途中、あの親子含め数人が私について来ていた。


大体が澄ました顔を作って無言で歩き続けた。


口元だけが引きつっている者もいた。


時々、わざとらしく鼻歌を挟む者もいた。


たまに曲を口ずさむ者もいた。


あの母親の様に、無邪気な子供に手を引かれる者もいた。



時々、足を止める者がいた。


足音が止まった瞬間。


顔から大汗を流し始め、次第に絶叫していた。


私は耳を塞ぎながらシャーペンで足を刺していた。


恐怖が噴き出しそうなたびに傷口を抉る。


恐怖を浮かべたら、列に並びたくないと思ったら。


私は生きて帰ってこなかっただろう。




あの後、私は帰って一人で寝た。


会社へ休みたい旨を伝え、ただ家の食糧を数日食べて過ごした。


外に出ることが、列に並ぶことが恐ろしかったからだ。



5月5日。身の安全を確保した上で神社に向かう。


壊した携帯の代わりにノートパソコンを携えて。


ウェブを開き、調べる。


『行方不明者、依然見つからず。

理由すら分からない行方不明者は増加し、388名。』




これは事件ではなく、説明のつかない何かです。


ブログとして残すのは、この列に加わってしまったら早く抜けてほしいからです。


これを嘘だと信じてくれるなら、忘れてしまってください。


これを本当だと怖がってしまったなら、その恐怖を克服してください。


私が救えた人は十にも満たないはずで、犠牲者は数値より多いかもしれません。



私から言えることとして、


『あの空間では恐怖に抵抗できません』


これはあくまでフィクションだということにしておきます。


出来れば、列を怖がらないことをおすすめします。


怖がった瞬間、列の最後に辿り着いてしまうかもしれないので。

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