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処刑回避で女装入内したのに、暴君殿下の「人間クーラー」として採用されました〜冷たい体が気持ちいいと、毎晩抱き枕にされて逃げ出せません!〜  作者: 九条 綾乃


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第6話 淑媛(スグォン)様の優雅なティータイム

「——本日より、そなたを従四品『淑媛スグォン』に封じる」


「……はぁ、ありがたき幸せ(棒読み)」


 俺、ヨンの宮廷生活は、予想の斜め上を爆走していた。王様であるヨムの不眠症を解消した(ただ添い寝しただけ)功績により、俺は入内(じゅだい)してたった数日で、見習い女官から側室の位である「淑媛スグォン」へと飛び級出世してしまったのだ。


 新しい部屋は広い。調度品も豪華だ。だが、そのぶん「敵」も増える。


「ごめんあそばせ」


 現れたのは、これでもかってくらい装飾過多な女の人。

 胸元で大きなリボンを揺らし、これ歩くの無理だろってレベルでパンパンに膨らんだ派手なスカート。金キラの刺繍がこれでもかと詰め込まれたその姿は、歩く高級デパート。その後ろには、いかにも「私ら、取り巻きです!」って顔をした女官たちがゾロゾロと控えている。


(うわぁ……出たよ。お約束のライバルキャラだ)


「あら、あなたが噂の『田舎娘』ね?」


 彼女の名は禧嬪ヒビン。この国でNo.2の権力者・左議政チャイジョンの娘であり、側室の中で最も位が高い「正二品」の女性だ。魔力属性は【雷】。性格は見ての通り、ビリビリと高圧的だ。


(うわ、ラスボス候補が来たよ……)


 俺は心の中で溜息をつきつつ、表面上は殊勝に頭を下げた。


「お初にお目にかかります、ヒビン様。……ヨンと申します」


「ふん。礼儀は知っているようね」


 ヒビンは俺を上から下までジロジロと眺め、鼻で笑った。


「殿下が何を気に入られたのか知らないけれど、その貧相な体つき……まるで子供ね。色気の欠片もないわ」


(悪かったな、男なんだよ!)


「まあいいわ。せっかくお目にかかれたんですもの。お茶でもいかが?」


 ヒビンが合図をすると、女官が盆を持って進み出た。そこには、湯気を立てる茶器が置かれている。


「これは南方から取り寄せた、美容に良い高級な薬草茶よ。……熱いうちに飲むのが作法なの。さあ、どうぞ?」


 ヒビンがニッコリと笑う。目が笑っていない。差し出された茶碗からは、明らかに「異常な熱気」と、鼻を突く「刺激臭」が漂っていた。


(……これ、ただのお茶じゃないな)


 俺は直感した。まず、沸騰しているレベルで熱い。飲めば口内が大火傷だ。そして微かに混じる魔力の匂い。おそらく、下剤か、皮膚がかぶれる毒草でも入っているのだろう。


「あら、どうしたの?まさか、私が淹れたお茶が飲めないというの?」


 ヒビンが扇子で口元を隠し、挑発する。断れば「不敬」で罰せられる。飲めば「自滅」する。典型的なイジメの手口だ。


(……へぇ、そう来ますか)


 俺の負けず嫌いスイッチが入った。俺はニッコリと微笑み返した。


「とんでもございません。ヒビン様の貴重なお茶、喜んで頂戴いたします」


 俺は茶碗を手に取った。指先が焼けるように熱い。だが、俺には通用しない。


(——凍れ)


 俺は茶碗を持った手に、【氷】の魔力を一瞬で走らせた。ヒビンに見えないよう、カップの底から内部へ。


 ジュッ……パキパキパキ……。


 微かな音と共に、茶碗から上がっていた湯気が一瞬で消滅した。煮えたぎっていた液体は、急激な温度変化によって「シャーベット状」へと凝固する。混入されていた毒成分も、結晶化して無害な成分へと分解された。俺の【氷】の魔力は、いろんなものを【中和】できるが、王宮に来てから、能力がパワーアップしている気がする。


(……あ。これ、あいつのせいだわ)


 頭に浮かぶのは、俺を抱き枕にした熱すぎ暴君イ・ヨムの顔だ。


 あいつの体温は、マジの火災現場並みに熱い。それを全力で冷やし続けたことで、【氷】の魔力は、いつの間にか超高温の熱源にも負けない冷却力を持ったようだ。


「……?」


 ヒビンが眉をひそめる。俺はスプーンも使わず、茶碗に口をつけた。


「んっ!」


 俺は口の中に流れ込んできた「氷の塊」を、ガリガリと噛み砕いた。シャリ、シャリ、という小気味よい音が響く。


「……え?」


 ヒビンの目が点になった。


「ふぅ……。おいしい!」


 俺は満面の笑みで言った。


「これは素晴らしい!熱いお茶と見せかけて、中はキリッと冷えたフローズン・デザートになっているとは!さすがヒビン様、流行の最先端をご存知で!」


「は、はい……?デ、デザート……?」


「ええ、シャリシャリして甘くて最高です。この季節にはたまりませんね」


 俺は残りの氷もバリボリと食べ尽くし、空になった茶碗を掲げた。


「ごちそうさまでした。……あ、もしかしてヒビン様も召し上がりますか?私が冷やして……いえ、作法通りに飲みますか?」


「なっ……ななな……!」


 ヒビンの顔が、怒りと混乱で真っ赤に染まった。熱湯のはずが氷菓子になった意味が分からないし、毒も効いていない。何より、涼しい顔で完食されたことが屈辱だったようだ。


「……覚えてらっしゃい!田舎娘風情が、調子に乗るんじゃないわよ!」


 バチチッ!ヒビンの体から青い静電気が弾け、彼女は嵐のように去っていった。取り巻きの女官たちが、慌てて後を追う。


「ふぅ……」


 嵐が去った部屋で、俺は肩をすくめた。茶碗に残った氷が、キラキラと溶けていく。


「まあ、味は悪くなかったな」


 魔法があれば、熱湯地獄もただのかき氷だ。俺はとっくに悟っていた。この宮廷での俺の武器は、色気でも権力でもない。「圧倒的な温度管理能力(エアコン機能)」だと。


 しかし、ヒビンがあれで諦めるとは思えない。次なる手は、もっと派手なものが来るだろう。


(……次は物理攻撃か?呪いか?)


 俺の予想は的中する。数日後、宴の席で俺を陥れるための「呪いの衣装」が届くことになるのだ。


(第6話完)

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