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第4話 白髪の理由

 

「──そうだ。どうして髪を白く染めてるの?」


 僕と彼女が初めて出会ってから一週間ほどが経過した今日。

 梅雨の始まりを予感させる雨が降っており、客のいないレジの前で久々に彼女とシフトが被った僕はそんな質問を彼女にぶつける。

 彼女は、僕の急な質問に一瞬驚いたような反応を見せるけど、すぐにその白いポニーテールを揺らして右手の人差し指を顎に当てながら考えるような素振りを見せる。


「うぅん、そうだなぁ……先輩なら、本当の意味を教えてもいいかなぁ」

「本当の意味って?嘘ついてるの?」

「まぁ、そんな感じです。でも、先輩になら教えてもいいですよ。本当の意味」


 勿体ぶる彼女は、何を隠しているのだろうか──そう思ったけれど、僕にだけ教えてくれそうな理由は見当がついている。


「それは、僕が同じ『英雄』嫌いだから?」

「ご明察。私が髪を白く染めてるのは、『英雄』が嫌いだから、少しでもの対抗です」

「──そういうことか」


 きっと、僕と彼女の頭の中に、そして母が不機嫌になった時に頭に過った顔は同じだろう。

「20世紀最大のマッドサイエンティスト」とも「犯罪史の転換点」とも呼ばれる『英雄』とは対を成す白髪の男──荻谷啓二(おぎやけいじ)

 アンパンマンとバイキンマン、シャーロック・ホームズとモリアーティ。そして、『英雄』と荻谷啓二。

 その2人は、水と油のように分かち合えない関係であるのにもかかわらず、一方を語るにはもう一方が不可欠というなんとも不思議な関係性であった。


「わかってくれましたか?私は、少しでも『英雄』に反発するために荻谷啓二と同じ白い髪にしているんです」

「でも、荻谷啓二は白く染めてるわけじゃなくない?」

「いいんですよ、細かいことは。大学デビューしたら染めたいな~と思っていたけど、具体的な色は決めてなかったから白にしたってわけです」


 彼女が白髪にした理由も、白髪であることを口にしたら不機嫌になった理由もこれで理解できた。

 まさか母が、荻谷啓二が白髪だったという理由で、白髪の人を嫌いに思っているとは思いもしなかった。

『英雄』の永遠のライバルのような存在だったとはいえ、最終的には『英雄』が捕まえて逮捕されているのだからそこまで気にしなくてもいいと思うのだが、『英雄』の大ファンである母の荻谷啓二嫌いはそんなとこまで根付いているらしい。


 ──と、そんな話をしていると店の中にお客様が入ってくる。そのため、僕と彼女のお喋りは一時中断となった。

 沈黙がどこか気まずいように思えてしまうが、本来であればこれが普通だった。


「2人もここにいるのもあれだから、品出ししてくるね」

「あ、はい」

 僕は彼女にそう告げて、バックヤードの方へ移動する。お客様は1人しかいないから、彼女に任せても大丈夫だろう。

 入荷したばかりの商品を段ボールからバケットの方へと移動していると、PCの前に座っていた店長が「おい」と声をかけてくる。

「どうしました?」と、僕が店長の方へと見ると「ちょっとこれ見てくれ」と後ろのパソコンを親指で突き指す。そこに映っていたのは、防犯カメラを介して見られる店内の様子だった。

 先程のお客様がそこには映っており、どこかソワソワしたような様子で店内の商品を見ている。


「店長、これって」

「俺は万引きを疑ってる。お前の目にはどう映った?」

 あまりお客様を疑うようなことはしたくないが、僕の目にもこのお客様は異常に映ってしまっている。


「──品出しをしつつ、怪しいと思ったら見てみようと思います」

「よろしく頼んだ」

 僕と店長はお互いに頷き、僕はバケットを持って店内の方へ戻る。彼女は、何も気付いていなさそうなのほほんとした顔をしていた。教えて警戒させるよりは、何も伝えない方がいいだろう──そう判断した僕は、彼女には何も伝えずに品出しに動く。


 お客様を視界の端に収めながら、お客様からは疑われないように商品を陳列していく。

 すると、向こうもこっちをチラチラと見ながら僕の見えないところの方へと動いているようだった。

 この人はきっと万引きをする──そう思った僕は、バケットをそのままに立ち上がりお客様の方へと歩いて行く。

 そして、彼の方へ向かっていこうとすると、お客様はそのまま僕から逃げるように店の中を縫って歩いて行く。この動きは、確実にクロだ。もう盗ったか、それとも盗るのを諦めて帰るところだろうか──。


 ──これは、盗った後だ。

 お客様の歩いた道を通りながら、レジで見た覚えのない商品が1つ減っていることに気が付く。

 たかが100円の商品だが、客の少ないこの店にとってはそれでも大きなダメージにはなるだろう。

 追いかけっこをしているうちに、お客様が出口の方へと向かう。出口の近くにレジもあるが、そっちに足を運ぶ確証はない。


 テンポの速い足音と共に、自動ドアが開く音が聴こえてくる。万引きだ。

 僕が、店内を進む速度を早歩きから走りに変える。店内にいた場合であればレジの方へ行く場合があったから走ることはできなかったが、店内を出たならもう別だ。


「お客様、お待ちください!」

 僕がそう声を張り上げるけど、店の外に出た万引き犯は止まらない。開いた自動ドアの奥から、しとしとと雨の音が聞こえてくた。

 僕がレジに立つ彼女の方を一瞥すると、驚いた顔で僕の方を見ている彼女の姿が飛び込んでくる。僕は、そんな彼女に何も伝えることなく一直線に万引き犯の方へ走っていく。が、追い付けない──。


「──お客様。お支払いの済んでない商品があるように思われます。少しお話、よろしいですか?」

 追い付けない僕の代わりに、万引き犯に声をかけたのは1人の中年。

 バックヤードでいつもパソコンと睨みあっている馬面の男──店長が、万引き犯の肩を掴んでいた。

 どうやら、物を撮ったのを防犯カメラから確認した後すぐに、店の前に回っていた待機していたのだろう。


 ──こうして、店長の活躍によって万引き犯の逃亡を阻止したのだった。

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