第10話 『英雄』の死んだ日
2カ月程前に万引きをして捕まった青年が、仕返しと言わんばかりに強盗をしにやってきた。
万引きは店長が脅しただけで警察沙汰にもならず穏便に終わったのだから、報復なんか考えずに店に関わらなければいいのに、どうしてこんな暴力的な手段に出てしまうのだろうか。
僕には到底理解できなかったが、彼女を護るためにも僕はこの強盗に立ち向かわないと行けない。
「お前らのせいで、お前らのせいで俺は恥をかいたんだぞ!ママ──母親にも父親にも怒られた!どうしてくれるんだよ!」
全部お前が万引きしようとしたことが悪いだろ──と言いたいが、そんなことを言ったら激昂して手にある刃物を振り回すだろう。
僕は、万引き犯から強盗犯にグレードアップした目の前の男をどう対処しようか考える。
普通にお金を上げてもそのまま逃げられてしまうだろう。店の売り上げのほとんどはバックヤードの金庫の中に管理されているから、取られるのはレジの中にある10万とちょっとくらいになるが、それでも100均からしてみると結構な売り上げだ。ましてや、客足の少ないこの店なら尚更だ。
──チラリと彼女の方を見ると、顔を真っ青にして引きつった顔をしている。
きっと、告白の後の強盗で頭の中がいっぱいになっているのだろう。彼女の脳みそに無理を強いているから、ここは一歩下がってもらう。
「──わ、かりました。少々お待ちください」
僕はとりあえずそう返事をして、レジを開ける。強盗を変に刺激させないためだ。
頭の中ではどうすればこの強盗を捕らえることができるだろうかを必死に考える。
強盗からバレないように、チラチラと店内を見回す。何か使えるものがあるかもしれない。
探せ。使えそうなものを探せ。
「──おい、早くしろ!早く詰めろ!」
「は、はい!」
少し震える手で刃物を突きつけられ、僕は間抜けな返事をする。
だけど、使えそうなものは見つけた。問題は、それをどう手に取るかだ。この前見たところ、この強盗犯の逃げ足はそれなりに速かった。
今回は店長もいないし、僕1人で捕まえる必要がある。僕は、頭の中で犯人を捕まえる段取りを考える。
どのタイミングが一番油断しているかを考え、最上のタイミングを探る。
──と、そうこうしている内に、時間稼ぎとして行っていたお金の積み込みの作業が終わってしまった。
「これでレジの中のお金は全部だな?随分と売り上げは少ねぇな。この前、俺を必死に捕まえようとしていた理由がよくわかる。ショボい店だもんなぁ!客も少なくてみすぼらしい!」
強盗犯は、お金を手に入れたことで愉悦に浸っているのかそんなことを口にする。僕は、絶好のタイミングを探るためにそれを聴き逃した。が──
「──そ、そんなことない!アンタの方がよっぽどみすぼらしい!」
そう口にしたのは、先程まで青い顔をしていた彼女だった。僕も強盗も、何が起こったかわからず口を開けて彼女の方を見る。
そしてすぐに強盗が、顔を真っ赤にして激昂した。
「──誰が、みすぼらしいだってぇ?舐めた口聞くんじゃねぇ!ぶっ殺してやる!」
短絡的な強盗が、そう怒って彼女の方へと刃物を振ろうとする。
──このままでは、彼女が指されてしまう。形振り構っていられない、今だ!
「させるかぁぁぁぁ!」
僕はそう叫んで、レジ台を飛び込んで強盗にタックルをする。刃物は、彼女の方へと向けられていたため僕の体を傷付けることは無い。
「──んなッ!」
強盗は驚いたような声出して、僕の方を向く。そして、2人で一緒に店の床に転げる。
その一瞬後に、刃物が転げて金属音が鳴る。
「──クソッ!」
強盗は、こぼしてしまった刃物方へ手を伸ばすけれど、僕はリュックから出ている肩紐を引っ張って動きを止めた。
そしてそのまま、ナイフとは反対側の店の奥の方へと放る。強盗は、床を引きずられるようにして店の奥へと引きずられる。
「──よくもぉ!」
ガバリと立ち上がった強盗は、そんな声をあげながら僕の方へと覆いかぶさろうとしてくる。
僕はそれを横にずれることでなんとか回避する。そして、そのまま僕は商品棚にあった商品に手を伸ばす。先程取ろうとしていたもの──そう、縄跳びだ。
「これでッ!」
僕は、丸腰状態の強盗に再度タックルして体に縄跳びを巻き付ける。強盗は抵抗するけれども、僕が足をかけたことによって転ぶ。
僕は、強盗に馬乗りになってから縄跳びを使って強盗の背中の方で手を縛り、彼女にもう一本縄跳びを取ってもらって足も縛った。
──誰も怪我無く、強盗を捕らえることに成功した。
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その後、警察に通報したことによって100均強盗事件は解決に漕ぎつけた。
まだ色々と調査があるらしいが、夜も遅くなってきたので僕や彼女への追加の事情聴取は明日に回されるようだった。
「先輩、カッコよかったですよ」
100均で事情聴取を受けた帰り、僕の彼女となった彼女はそう口にして僕の腕に体重を預けてくる。
少し歩きずらいけど、そんなことよりも幸せが勝っていた。
「流石にビックリしたよ。前回は逃げてるだけだったけど、今回は襲い掛かって来たしさ」
「惚れ直しちゃいました。先輩は、私の──私だけの英雄です」
彼女はそう口にして、少し恥ずかしそうに笑みを浮かべる。『英雄』嫌いの彼女だけの英雄というのも、悪くない。
「──それにしても、どうしてあの時犯人に言い返したりしたの?ビックリしちゃった」
「それは……」
僕が、彼女が犯人に反駁した理由を尋ねると彼女は僕の肩に顔を埋める。
そして、そのまま僕にだけしか聴こえない声でこう口にした。
「先輩との思い出の場所がみすぼらしいなんて言われて悔しかったんです。先輩との思い出は、私が護らなきゃって思って……」
僕は彼女を護るために戦ったけど、彼女も彼女なりに僕を護るために戦ってくれたようだ。
僕は立ち止まり、道の真ん中で彼女を強く抱きしめる。そして、
「ありがとう。僕も君のことを永遠に護るよ。君だけの英雄だから」
だなんてことを口にした。
『英雄』の死──即ち、僕と彼女が生まれてから20年が経過した今日、『英雄』嫌いの2人の想いは結ばれる。
──世界のために戦い続けた『英雄』の死んだ日に、たった1人のためだけに戦う英雄は生まれたのだった。
ハッピーエンドの恋愛作品を書いたのは久々です。2年ぶりとかかも?
元より恋愛作品を書かない人間だから、そうなるのも仕方ないですね。
『英雄』嫌いの2人の話はこれにて終了です。
──って、母親との関係性も『英雄』がどんな人かも解決・判明していないって?
これは障害無く2人が付き合っていく物語ではなく、彼が彼女だけの英雄になるまでの物語です。
だからこれにて完結です。
最後までお読みいただきありがとうございました。




