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この作品には 〔ボーイズラブ要素〕が含まれています。
苦手な方はご注意ください。

この渇きを潤して

***BL*** 婚約者から逃げたルイシュは言葉を発しないアールバートと出会った。ハッピーエンドです。



 彼は言葉を発しなかった。



**********



 深い森を抜けた先、婚約者から逃げ出した僕は、一つの小さな小屋を見つけた。

 着の身着のまま逃げ出した僕は、川の水を飲み、森の木の実や果物を食べ、出来るだけ遠くに逃げて来た。

 ここまで来れば大丈夫、とホッとした所為か意識を無くした。

 目を覚ました僕は、布団の中だった。



 男が一人、食事をしている。スープの良い香りが堪らなかった。僕が目を覚ました事に気付いたのか、僕を指差し、スープを指差す。お腹が空いている、、、食べたい、、、。

 彼はスープを新しい皿に装り、僕の元に運んだ。

僕が半身を起こすと、スープを渡す。僕は、それを受け取るとゆっくりと飲んだ、、、美味しい、、、。涙がホロリとこぼれた。

 食べる事の有り難みを知る。

 彼は林檎を一つ剥き、僕の元へ持って来た。ずっとまともな食事が摂れなかった僕は、嗅覚が鋭くなっているのか、驚く程香りの良い林檎をそっと齧る。

 彼はニコニコと笑っていた。僕が勝手に小屋に入った事を怒りもしなかった。

「ご馳走様」

そう言うと、彼は食器を受け取りキッチンへ持って行った。

 片付けを終え、僕の元に戻ると布団を掛けようとした、僕はもう一度ベッドに横になり布団を掛けて貰う。

 温かい布団で寝られるなんて幸せだった。



 ずっと緊張していた僕は、布団に包まれ安心した。そして、深い深い眠りに着いた。

 朝、目が覚めると、彼が僕と一緒に寝ていた。身体を小さく丸めて、僕の横で寝ている、、、。彼の体温がもう一度眠りに誘う。



**********



 夢を見た



*****



 婚約者と初めて会った時、彼は優しく声を掛けてくれた。三つ年上の彼、ミハエル。一目で彼を好きになった。ミハエルも僕を好きだと言った。淡い恋だった。

 僕達はいつも一緒に過ごしていた。穏やかな彼が、声を荒げて怒る事は無い。いつも優しい彼が好きだった。


 年頃になるとミハエルは考え事をする様になった。


 そして、ある日、僕は見てしまった。ミハエルが女性と一緒にベッドにいる所を、、、。


 扉を開けた僕が馬鹿だった。返事が無いなら開けなければ良かったのに、具合が悪いのかも知れないと、扉を開けた。

 ベッドの上の二人はとても綺麗だった。雪の様に白い肌が、月明かりに照らされて美しい。

 ミハエルの背中は、天使の羽が生えて来そうな、綺麗な筋肉質の身体だった。そして、女性のスラリとした脚が見える。淫らな香りと声、、、。綺麗だと思った、、、。

 女性と目が合った。

 女性が急に息を飲んだのが伝わったのか、ミハエルが静かに振り向いた。


 僕は、何も言わずに扉を閉めた。


 そして、そのまま逃げた。



 いつかこんな日が来るとわかっていた。僕達は男同士だから、子供が出来ない。

 でも、それはもっと遠い先の出来事だと思っていた。

 ベッドの上の二人を見て、ミハエルが彼女を愛しているのがわかった。僕はもう必要無い。いつか捨てられるなら、いっその事、今すぐ消えてしまいたかった。



**********



 ずっと眠り続けていたのか、目を覚ますと部屋の中が明るい。疲れ果てた身体が起き上がるのを拒む。


 扉が開いて、彼が入って来た。名前も知らない彼。

 僕が目を覚ましたと気付いた彼は、嬉しそうに近付いて来た。僕は半身を起こし、彼を見た。綺麗な人だった。

「あの、、、ありがとうございます」

お礼を言うと、仕草で食事をするか聞いて来た。

 僕がベッドから出ようとすると、上着を取ってくれる。


 コトコトとスープが温まる音がして、良い香りがする。彼はパンと一緒にスープを出してくれた。

「あの、、、僕は、ルイシュと申します。貴方のお名前は、、、?」

彼は、僕の手を指差した。僕は何と無く手を開いて見せる。彼は僕の掌に指で名前を書く。

「ア、、、ー、、、ル、、、バ、、、ー、、、ト」

彼がにっこり笑った。

「、、、声が?」

アールバートは首を振り、僕の掌に

「ずっと、、、ひとり、、、」

と書いた。ずっと一人だったから?話し相手がいなかったから?僕は何だか悲しくなった。

 僕の言葉はわかるし、文字だけど会話は出来る、いつか話しが出来るようになるんだろうか、、、。



 食事を終えると、アールバートは着替えを持って来てくれた。彼の着替えだったから少し身丈が長かった。でも、ずっと同じ服を来ていたから、身体を洗い、新しい服を着ると気分も少し明るくなった。

 

 ここは、僕達以外誰もいない、、、。静かで、長閑のどかで、ホッとする。

 近くに畑があって、小川が見える。裏には、僕が歩き続けた森。目の前は広い広い原っぱ。遠くの方に街並みが見える、、、。

 アールバートは僕の洋服を丁寧に洗ってくれた。日の当たる場所に干された僕の洋服には、綺麗なボタンが沢山着いていた。


 夜、アールバートが僕の洋服を畳んでくれた。

 僕は、洋服の袖口からボタンを取って貰う。袖口だけでも、小さいけど左右三つずつ着いていた。両方から二つずつ取って貰うと

「アールバートさん、このボタンを街に売りに行けますか?少しはお金に換えられると思います」

アールバートはジッとボタンを見ると、静かに頷いた。

 翌日、アールバートはボタンを売りに行った。曲がりなりにも貴族の服に使われていたボタンだ。それなりの金額になるだろう。

 僕は一人、小屋の周りを眺めたり、空になった馬小屋や畑を見に行ったりして、アールバートの帰りを待った。

 アールバートは換金した後、僕の服と靴を買って来た。何か食料を買うか、お金を取っておけば良いのに、、、。何だか申し訳なかった。

 新しい服が手に入った僕は、着ていた服からボタンを全て取り除き、ボタンと服をアールバートに預けた。

「ボタンと服を差し上げます。こちらも街で売って下さい。今度は、換金したお金はアールバートさんが使って下さい」

そう言うと、アールバートはわかったと言う様に頷いた。



**********



 ある日、僕は森の中に小さなお墓を見つけた。少しひらけた、良く日の当たる場所だった。アールバートの家族のものか、、、。彼はいつから一人だったんだろう。誰もいない、この場所でずっと一人だったとしたら、きっと淋しかったと思う。

 アールバートは毎晩、僕の横で丸まって眠る、、、。僕が一度、この場所を出ようとした時、必死に引き留めた。一人が淋しかったのかも知れない。

 僕にも行く場所が無いから、とてもありがたかったけど、、、このまま、此処にいても良いんだろうか、、、。



 毎朝、アールバートは朝食の準備をして、今日の予定を身振り手振りで話す。大抵は、馬小屋の掃除と畑仕事、森に仕掛けた罠を確認する事だけど、僕達の時間は、ゆっくりのんびり過ぎて行った。



**********



 私は、ずっとルイシュを探していた。あの晩からずっと、、、。


 ルイシュを愛していた。それは本当だった。しかし、私は長い間悩んでいた。二人の子供が欲しかった。そして、彼女の事も好ましいと感じていた。だから、、、。



 まさか、ルイシュに見られるとは思わなかった。子供が出来てから話そうと逃げた罰だ。ルイシュはいなくなった。

 最初は仕方が無いと思っていた。ルイシュを傷付けたのは私だ。追い掛ける資格は無い。


 彼女と結ばれれば良いと思った。彼女も受け入れてくれたし、ルイシュがいなくなって、彼との婚約は無くなっていた。



 でも、私はルイシュを忘れられなかった。



 ある日、街で見た事のあるボタンと服を見た。ルイシュの物だ。店主に売主を聞くと、口の利け無い青年が持ち込んだと言う。二日続けて来たから、印象に残ったそうだ。

 私は、それからその青年を探した。街中にはいない様だ。

 何日も何ヶ月も探した。店主にも彼が来たら教えて欲しいと頼んだ。どんな小さな情報でも欲しかった。


 ルイシュがいなくなってから、彼の事が本当に好きだと気付いた。何故、あんな馬鹿な事を考えたのか、ルイシュだけがいれば、何もいらないはずだったのに、、、。



**********



僕は、この小屋の周りから出る事無く、生活を続けた。季節が一つ変わった。


*****


 アールバートは何でも一人で出来た。僕は、彼と一緒に僕の椅子を作った。今までそんな事をした事が無かった。聞けば、他の家具も彼の手作りの品らしい。沢山あるわけでは無い、しかし丁寧に作られた家具は頑丈で使いやすかった。


 僕は、アールバートが街に行く時、一人で留守番をしている。

 小さな小屋だった。キッチンとリビング、奥に寝室がある。ベッドは大きくて広かった。きっと、アールバートの他に家族がいた頃は、みんなで一緒に寝ていたんだろう、、、。二人で暮らすには狭過ぎず広過ぎず、丁度良かった。

 小屋の近くには畑が広がり、畑の側には川も流れていた。

 今日は馬小屋の掃除をしてから、畑に水をやり、裏に広がる森に果物を取りに行こうと思っていた。小川に水を汲みに行き、畑に水を撒く。何度も往復をしなければならない。しかし、時間は沢山ある。畑の様子を見ながら水を撒き、片付けをしてから森に行く準備をする。

 今日はアールバートが街に行っているから、果物を沢山準備しよう。



*****



 日が暮れる前に森から帰ると、アールバートが帰っていた。僕は、美味しそうな果物を選んでいたから、少し帰りが遅くなってしまった。

 小屋の中から灯りが漏れている。

 扉を開けると、いつもと違う空気が流れていた。


「ルイシュ、、、」

何故、ミハエルが此処にいるんだろう、、、。僕の心臓がドキドキしてくる。さっきまで軽かった果物の籠が、重たく感じる。

 此処から逃げたい。アールバートの顔を見る。

 アールバートが街から連れて来た様だ。

 僕は首を振り、涙を堪える。

 アールバートが僕の側に近寄って来た。

 僕は、アールバートに籠を渡し、少し後ろに下がる。、、、逃げたい。

 アールバートが僕の腕を掴み、僕の瞳を覗き込んだ。

「僕の婚約者、、、」

ミハエルが小さく笑った。

「ルイシュがいなくなって、婚約は無くなったよ。元、婚約者だ、、、」

僕はアールバートの手を握った。アールバートは、ミハエルを振り返る。

「ずっと探していたんだ、、、」 

僕は、アールバートの後ろに隠れた。

 アールバートは僕の肩を抱き、果物の入った籠を小脇に抱えた。部屋の中にある、食卓用の椅子に座る様に促す。

 籠をテーブルに置き、椅子を引いてくれた。僕が椅子に座ると、アールバートも椅子を引き寄せ、隣りに置く。

 アールバートはキッチンに向かい、包丁を取り出す。一瞬ギクリとしたけど、まな板とお皿も準備して隣りに座る。

 僕が森から取って来た果物を、籠から一つ取るとサクサクと皮を剥く。皮を剥いてから食べやすく切ると、お皿に乗せて、食卓では無くソファに座るミハエルの近くに置く。もう一つ皮を剥く。剥き終わると僕の前に置いた。また一つ皮を剥いて、アールバートは黙々と食べた。

 お腹が空いていた僕も食べる。あぁ、、、美味しい。僕の顔を見て、ミハエルも口にした。

 

「ルイシュ、、、。すまなかった」

ミハエルの声、、、変わって無い、、、。いつも優しかった。ミハエルの声が好きだ。

「あんな場面を目にして、ショックを受けただろう?」

「、、、はい」

涙が出そうだった。あの瞬間が鮮明に甦る。イヤだ、、、。瞼をギュッと閉じる。


 沈黙が続く。


「私は、ルイシュとの子供が欲しかった、、、」

僕の涙がこぼれた。

「無理なのはわかっている。それでも、二人の子供が欲しかった」

「、、、わかります。ちゃんとわかってます。、、、いつかはそうなると思っていました。覚悟もありました」

アールバートが僕の肩に腕を回して、抱き寄せた。

「ただ、結婚前だったので、、、ミハエル様に捨てられるんだと思ったんです。ミハエル様が彼女を愛しているのもわかりました。僕は必要無いと感じてしまった」

「、、、申し訳無い。、、、、、、私達はやり直せないのだろうか、、、」

「ミハエル様、僕はもう婚約者ではありません。それに、彼女と婚約されたのでしょう?」

ミハエルの手が強く握られている。

「ミハエル様が彼女を大切に思う様に、僕もアールバートとの生活を大切にしたいんです、、、」

僕は、肩に回されたアールバートの手を握る。

「私は何故あんな馬鹿な事を、、、」

ミハエルは泣いた。

「ルイシュ以上に、誰かを好きになる事なんて無いのに、、、」



 僕達は、お互い好きなまま、もう戻る事は出来なかった。



*****



 その晩、僕はなかなか寝付けなかった。布団の中でずっと考えていた。

 もっと、ミハエルと話し合えば、元に戻れたんだろうか、、、。でも、考えれば考える程、あの行為はイヤだった。きっと忘れる事は出来ない、、、。許したつもりで、やり直してもきっと無理だと思う。


 いつも丸まって寝ているアールバートが、モゾモゾと動き出した。

 僕の顔を見ると、そっと腕枕をしてくれた。僕は淋しかったのかな、、、。アールバートに腕枕をして貰い、彼の胸にそっと寄り添った。

 反対側の腕も回してくれて、全身で僕を覆ってくれた。僕は、アールバートの匂いと体温に包まれて、泣きながら眠った。



**********



 初めてアールバートに出会った頃、彼はまだ、あまり街に行かなかった。街に行く必要が無かったからだ。

 最近は週に一度程行く。森で取った果物や手作りの小物、頼まれて作った家具等を売りに行き、換金して帰る。


 川のほとりで佇むアールバートに声を掛けると、びっくりした顔をした。

 たまに考え込んでいる時もある。そんな時、僕は不安になる。

 ミハエルも、こんな風に考え事をしていた、、、その後、あんな事があったから、、、。


 街に出掛ける回数が増え、色んな人と会う機会が多くなった。

 アールバートは綺麗だ。女性に気に入られる事も多い筈、、、。

「アールバート、たまには僕も街に連れて行って」

と言うと、少し考えてから来週なら良いと返事をくれた。どうして今週はダメなのかな、、、。



 約束の日、アールバートは僕を街に連れて行ってくれた。僕はずっと小屋の近くから出なかったから、久しぶりに来た街中は新鮮だった。沢山の人、建物、お店。小屋の周りには無い物ばかりだった。

「アールバート!」

度々呼び止められている。彼の周りに人がいるのが不思議だった。

 子供までがアールバートに駆け寄る。彼が木で作った玩具の動物を握りしめている。

 年頃の女性も声を掛ける。アールバートは恥ずかしそうにしている。僕は少し離れた場所で彼を見ていた。


 目の前の飲食店の壁に、求人募集の貼り紙がしてあった。

 僕も何か仕事を始めた方が良いかも知れないな、と考える。アールバートに彼女が出来たら、僕はあの小屋を出た方が良いし、、、。

 僕はアールバートを頼り過ぎていた。彼の優しさに甘えている。一度引き留められけど、あの時、彼はあまり街中に出なかったし、独りぼっちだったからだ。今なら街に知り合いも多い様だし、僕も新しい仕事と家を探して独り立ちしないと。

 飲食店から出て来た人に

「あの、不動産屋はどこですか?」

と聞いてみた。

「不動産屋?」

「えっと、住む所を探していて、、、」

グイッ!と腕を引かれた。びっくりして振り向くとアールバートが怒っていた。

「あ、、、すみません、、、やっぱり、大丈夫です」

慌てて謝り、アールバートを見ると悲しそうな顔をしている。

「ごめん、アールバート。いつまでも君の所にお世話になるべきじゃ無いと思って、、、」

アールバートは首を振った。

「ほら、君に彼女が出来たら、僕はいない方が良いでしょ?」

あの事を思い出した、、、ミハエルと女性のベッドシーンだ、、、。

 自分でもびっくりした、今でもあの事を気にしているなんて、、、。

 アールバートがそっと抱き締めてくれる。背中をポンポンと優しく叩かれると、アールバートを抱き締めたくなる。

 少し身体を離して、肩を軽く叩かれた。目の前の飲食店に入ろうと誘ってくれる。お腹が空いているから、弱気になるんだな、、、。そう思う事にして

「お腹空いちゃった」

と微笑んだ。


 アールバートがお酒を飲もうと誘ってくれる。今日は大奮発しようと、肉料理を頼み、チーズがたっぷり掛かったパンも頼んだ。

 アールバートは僕にドンドンお酒を勧める。そんなに飲めないと言うのに、お酒を頼む。

 アールバートは身振り手振りで色々話す。今では、僕もすぐにわかる様になっていた。二人でほろ酔いになって、ご機嫌だった。


 アールバートの横に女性が来たのは、僕が大分酔っ払った頃だった。綺麗な人だ。

 二人は僕を見ながら何やら話している。でも、酔っている僕には、どうでも良かった。

 頬杖を着きながら二人を見る。アールバートも彼女も綺麗だった。大人の雰囲気が漂って来る。アールバートっていくつなんだろう?

 僕と二人きりの時は考えた事が無かった。少し年上かな?とは思っていたけど、夜、僕の横で丸まって眠ていた彼は、幼い子供の様だった。

 最近は、、、ミハエルの事があったから、毎晩アールバートに慰めて貰っていた。それが当たり前の様になって、彼に抱き締めて貰っている、、、。だって、安心するから、、、。

 ポヤポヤした頭で、アールバートに抱かれて眠る気持ち良さを思い出していた、、、。


 ふふふ。思わず口角が上がる。


 彼女とお酒を飲んでいるアールバートは、素敵な大人に見える。

 アールバートは彼女にお金を渡していた。何だろう、、、?

 ダメだ、、、眠くて、考えられない。瞼が重くなり始めると、アールバートが僕の手を握った。


 アールバートに手を引かれながら、飲食店の2階に上がる。2階は宿泊施設になっているみたいだった。一番奥の部屋の前で鍵を取り出すと、アールバートがドアを開けた。中に入って良いのかと、アールバートの顔を見ると微笑んでいた。

 ふふ、ふふふ

 何だか、すごく良い気分だった。アールバートがドアを閉める。

 ふふふ

 アールバートがベッドを使う様にと仕草をする。僕はアルバートにそっと抱きついた。彼は少し驚いた。

 アールバートの匂いがする。良い匂いだ、、、。僕の大好きな匂い。アールバートにも好きな人がいるんだろうか、、、。背中を二回優しく叩かれ、ベッドに促される。

 小さいベッドだった、、、このベッドに二人で寝るのかと思い、アールバートを見る。彼は仕草で、自分は隣の部屋だと言った。

 、、、本当はさっきの女性の所へ行くんじゃないかな?と思った。僕は、何だか淋しくて

「そっか、、、彼女と楽しんで来て、、、」

と意地悪を言いながら、上着とズボンを脱いで枕元の椅子に掛けた。

 肩を軽く叩かれた。

 振り向くとアールバートが

「どう言う意味?」

と仕草をした。

「彼女にお金を渡してた、、、。これから彼女と会うんでしょ?」

ふふっと笑いが出た。アールバートだって、健全な男だもの、、、。そんな事があっても可笑しく無い。

 アールバートの機嫌が悪くなった。怒っている。

「別に恥ずかしい事じゃ無いよ。誰でもしている事でしょ?」

僕はいそいそと布団に入って丸まった。アールバートが前にしていたみたいに、横向きで膝を折り、小さく小さくなる。そっか、小さく丸まっていると、不安な気持ちも小さくなるんだ、、、。

 アールバートが布団をめくってベッドに腰掛けた。

「彼女、待ってるんでしょ?」

酔っ払っているからって、何でこんなに意地悪な事を言うんだろう、、、自分でも、自分がわからなかった。イヤな僕、、、。

 アールバートが僕の肩を掴んで、仰向けにする。僕の顔を見て、口を小さく開いたり閉じたりしていた。

「ウ、、、」

アールバート?僕はアルバートの唇から目が離せなかった。

「ウ、、、。ル、、ゥイ、、、シ、、ュ」

僕は目を見開いて、彼の瞳を見た。彼の両方の瞳を交互に見る。アールバートはどんどん顔を赤くして、とうとう僕にしがみついた。

「ルゥ、イ、シュ、、、」

僕の名前を呼んでいる。嬉しくて、僕もアールバートを抱きしめた。

 彼は話しが出来ないわけでは無い。それは知っていた。ただ、長い間一人きりだったから、声を出すのが不安だっただけだ。

「ルイシュ、、、」

良かった、、、アールバートが話しをする様になれば、彼の魅力はもっと伝わる。彼を好きになる人がもっと増える。


 でも、アールバートが僕から離れて行く様な気がした。


「ルイシュ、好き」

「え?」

「好き、なんだ、、、」

そう言って、ゆっくり身体を離して僕を見る。

「でも、アールバートは女性が好きでしょ?」

「?、、、」

「さっきだって、お金を渡してた、、、」

「ならってた」

「ならってた?」

「声が出る様に」

「声?」

「名前、呼びたかった」

名前、、、僕の?

「好きって、言いたい、、、だから」

そっ、、、か、、、。そうだったんだ。

「いつも考え事してるみたいだった」

「、、、口の形、練習してた。ル、難しい」

「たまに、僕に気付いて慌ててたのも?」

「練習、知られたくなかった」

「、、、そっか」

「でも、ミハエルの事、今も好きなら、、、」

アールバートの瞳が少し潤んでいる。

「、、、何でも無い」

そう言って、僕に覆い被さった。

僕は、アールバートを抱き締めた。酔いが回っていた僕は、彼の匂いを嗅ぎ、力尽きた、、、。



 深夜、目が覚めたら一人だった。一人で寝るのは久しぶりだ。

 隣に誰もいない淋しさ、、、。どうして淋しいと思うんだろう、、、。

僕は鍵を開けて、隣に行く。僕の部屋は一番端だから、反対側がアールバートの部屋だ。案の定、鍵が掛かっている。

 ノックをしても反応が無い。僕は、そのままアールバートの部屋の前に座り込んだ。まだ、お酒が残っているのかも知れないな、、、。最初は、ドアを背もたれに座っていたのに、ズルズルと身体が動き、すっかり横になって寝てしまっていた。


 僕がドアの前で寝ていたのに、アールバートが目の前にいた、、、。一体どこにいたんだろう、、、。

「ルイシュ、、、」

名前を呼んで貰えるって嬉しいんだな、、、

「そんな格好で廊下にいたら危ないよ」

僕はアールバートの首に腕を回す。

「アールバートがいないから、、、」

アールバートは僕の腰に手を回し、立ち上がらせてくれた。力が入らない僕は、よろめいてドアに寄り掛かる。

 アールバートの顔が近い。頬に頬をくっつけて、スリスリと擦ると何とも言えない気持ち良さがあった。

「ああ、もう!」

アールバートが部屋の鍵をガチャガチャと開けて、ドアを開く。

 そのまま、僕を抱き抱えると鍵を閉めてベッドに連れて行ってくれた。

「ルイシュが悪いんだからね?」

悪い?何が?

 口付けをされた。甘い、甘い口付けだった。もっともっと欲しくなる、、、。フワッとアールバートが離れた。

「喉、、、乾いた、、、」

アールバートは、枕元の水差しから水をコップに入れると、一杯目をゴクゴクと自分で飲んだ。

 喉が動き、水が滴る、、、。目が離せなくなった。

「僕も、、、」

と言うと、もう一杯コップに水を注ぐ。

 アールバートはそれを口に含むと、また僕に口付けをした。

 少し開いた口から、水が少しずつ入り込んで来る。美味しい、、、。

「もっと、、、」

アールバートはまた水を口に含む。早く、、、早く欲しい。

 三度目の口付け、コクコクと水を飲む。口の端から水が溢れても構わない。渇きを癒す様に水を求めてしまう。

「はぁ、、、」

 アールバートは、もう一度水を含む。

 肩を押さえつけられ、口付けを待つ。薄く口を開きながら、アールバートを受け入れた。

 彼の口の中の水が無くなり、冷たくなった舌が入り込んで来た。気持ち良い、、、。アールバートと僕の何かが混じり合う。

「アールバート、、、僕も好きだよ」

僕達は、小さなベッドで抱き合って眠った。

 窓から大きな満月が見える。月明かりが、アールバートの顔を照らし、やっぱり綺麗だなと思った。



**********



 朝食を取りに行くと、昨日の女性がいた。彼女は、この飲食店と二階の宿屋のオーナーだった。それから、アールバートが話せる様に練習に来ていたのは、彼女の元だった。

 昨日のお金は、二階の部屋代で、酔っ払って帰るわけに行かず、急遽宿を取ったそうだ。


「昨日の夜は何処にいたの?」

僕がアールバートの部屋に行った時、彼は外から帰って来た。すごく気になっていた事だった。

「ルイシュの名前を呼べたら、嬉しくて眠れなくて、、、。月夜を堪能してたんだ」

「僕も、見たよ。アールバートのベッドの中で、すごく大きかった。夜なのに、明るくて、アールバートの顔が良く見えた」

アールバートは僕の手を握った。

「今晩も、きっと明るいよ、、、。帰ったら、夜が楽しみだ。ルイシュの顔を見ながら、、、」

そう言って僕の手にキスをした。



沢山ある作品の中から選んで頂いて嬉しいです。二人と、そしてミハエルと彼女、子供達が幸せになれます様に。

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