異説鬼退治⑧
「面白いことを言う男じゃ。お主とワシが戦う以外の解決策だと?」
鬼が島権兵衛は豪快に笑いました。
「そうです。僕は鬼が島㈱を倒す理由がありません。ただ、そこにいるセクハラジジイの願望ですから。僕の願いや目標ではありません」
桃太郎はまっすぐな眼差しを鬼が島に向けます。
「桃太郎、ワシのぎゃるがかかっておるのじゃ! 戦って鬼が島㈱をぐぼあ!」
お爺さんがお婆さんに轢かれました。
「というわけですから、僕は失礼します。このお爺さんは煮るなり焼くなりしてください。鬼が島㈱の女子社員にセクハラまがいのことをしていたみたいですから」
それを聞いて鬼が島は豪快に笑いました。
「よかろう。珍しい桃太郎よ、お主の願いを聞き届けよう。これからは我らは友好的に接していこうではないか。ワシも今のお主に敵意は持てぬ」
こうして、鬼退治は鬼が島㈱を攻略することなく終わりました。
桃太郎が帰った後
「うちの女子社員が随分と世話になったようじゃな」と鬼が島はお爺さんの方を向きました。
「ぎゃるが……ボインが……」
聞いていません。
「貴様はすぐに立件して脱税総理と同じく大江戸警察の豚箱にぶち込んでやるから覚悟せい!」
こうしてお爺さんは大江戸警察に再び捕まり、平穏が戻ってきました。
桃太郎は今日も大江戸高校に通います。舞姫という彼女もでき、毎日がとても楽しいとmixiに書いています。
そんな平和なある日、鬼が島権兵衛が桃太郎の家を訪れました。スーツでびしっと決めているあたり、鬼が島㈱の代表者である貫禄がにじみでています。
「やあ、桃太郎。舞姫と仲良くしているようだな」
「はあ」
桃太郎は鬼が島の言葉の真意がつかめません。
「舞姫はワシの娘なのじゃ。そこで時期鬼が島グループ総帥に、君になってもらいたいのだ」
「ええええっ!」
お茶を出していたダイゴロウがびくりとしました。ポアロは読みかけの推理小説『緋色の研究』をぼとりと落としました。ホームズはみたらし団子をのどに詰めてのた打ち回っています。
「と、突然過ぎませんか? それに僕は高校生ですし」
「まあ、時期総帥じゃな。良い後継者が社内にいないのでな、君に帝王学を仕込んで、跡継ぎをしてもらおうと思っているのだ」
お爺さんが窓ガラスを突き破って家に戻ってきました。玄関から入れといっても多分無駄でしょう。
「おのれ桃太郎、そんなハーレムを爺は許さんぞ!」
桃太郎と来訪者は鬱陶しそうに家の主を見ました。
「そういうことなら、ワシを取締役ぐらいにせんか! そしたらぎゃるとセクハラし放題じゃぐへへ」
「いい加減悟ったら?」
桃太郎がため息をつきます。お爺さんの背後には核ミサイルをよっこらせと片手で運んでいるお婆さんがいました。
「ワシが世界のぎゃるを手にいれてウハウハになるのは定めなのじゃ!」
鬼が島権兵衛は目を点にしています。
「……言い残すことはないか?」
恐ろしい声でお婆さんがゆらりと現れました。
「……こ、これは何かの間違いじゃ」
お爺さんは笑顔でミサイルを持ち上げているお婆さんを見ました。
「金星までドライブするがいいべさ!」
お婆さんは手際よくミサイルにお爺さんを縛り付けると、庭にそれを片手で運び、火炎瓶で点火して打ち上げました。
「しょええええええ!」
情けない声が空から降ってきましたが、桃太郎は完全に無視して
「すみません、鬼が島権兵衛さん。これが我が家の日常なんです」と話を戻しました。
「すさまじい家庭で育ったのだな。ともかく、後継者の話は君が学校を卒業してからにしよう。それでいいかね?」
「はい、お爺さんはそれまでに躾けして、人畜無害にしておきますから」
「多分無理だと思うが、頑張れ」
「努力はします」
ということで鬼退治は完全に終わりを告げました。
これ以後、桃太郎は『鬼』たちとの関係改善に努めました。ようやく、鬼が島㈱との因縁もなくなったかと思いきや、お爺さんが手榴弾を鬼が島㈱本社にばらまくという事件が起こりました。ついでに、お婆さんが暴走族『集英組』を率いて鬼が島㈱本社前でカツあげを行うという事件が起こりました。
「お爺さんや、このままでは桃太郎が主役になってしまうべさ」
「うむ。婆さんや、ここはひとつワシらが主役ということを思い知らさねばならん。世の中にジジババが主役になってはいかんというドップラー効果はないんじゃけえのお」
この事件によって、鬼が島㈱は桃太郎たちとの関係を断ち切ることを決定。最後まで鬼が島権兵衛は反対していたものの、全社的な意見を曲げることは出来ませんでした。そして、桃太郎は鬼が島㈱の次期総帥の道は途絶え、結局大学へと進学することになりました。
今日も平和な一日が始まります。
お爺さんは盗撮用のカメラを手に、都内大江戸線に。お婆さんは川へ洗濯に行きました。
すると、川上からどんぶらこ、どんぶらことお爺さんが流れてきました。
当然の如くお婆さんがそれを無視します。
しばらくすると、川上からどんぶらこ、どんぶらことホームズが流れてきました。仕方ないので、お婆さんはサル鍋にしようとそれを捕まえて家に戻りました。
「桃太郎や、今日はサル鍋にするぞい」
「食材ならスーパーで買ってきたから、これ使ってよ」
桃太郎は鍋に放り込まれそうになっているホームズを助け出しました。
「今帰ったぞ」
お爺さんが戻ってきました。全身に矢が突き刺さっています。一体何があったのかは誰にも分かりません。
「今日は猪鍋かのう」
ダイゴロウとポアロが手伝いに入ります。
「さあ、美味しいご飯を作ろう!」
桃太郎は美味しいご飯を作り始めました。変わりない、けれどもかけがえのない毎日がずっと続いていきました。
END
こんにちは、Jokerです。
これまでお付き合いいただき、ありがとうございました。
これにて異説鬼退治は完結です。
続き等も考えていますが、別の話に力を入れたいので
異説鬼退治続編はしばらく出しません。あしからず。
そしてありがとうございました。
ではまた次の機会にお会いできることを祈りつつ……