異説鬼退治⑤
桃太郎の助けにより、キジは丸焼きをまぬがれました。
ついでに
「俺様も鬼退治とやらに混ぜろ」
との意見で亀も鬼退治に同行させることにもなったのです。
「鬼退治に亀はいらん」
との桃太郎の意見を強引におしのけて、亀は元気よく出発の支度をしています。
宴会を強制的に終わらせると、亀は桃太郎たちを乗せて龍宮城から飛び立とうとしていました。
「亀さん~気をつけて!」
乙姫はハンカチを手に持って、のんきにバイバイしています。その後ろではお爺さんが
「乙姫タン、ハアハア」
とかセクハラまがいの行動を取っているのですが、誰も気付きません。おっと、お婆さんがやってきて、お爺さんの首に縄を巻きつけました。そのままお爺さんを愛用しているバイク『愚煉邪魅羅』にくくりつけます。お爺さん以外では死ぬ危険性が150パーセントあるので、良い子は真似しないようにね。
「東名高速逆走引き回しじゃあ!」
お婆さんは気合一発叫ぶとそのままどこかにお爺さんを引きずって行きました。
「うぼげあ@せいんがえ;えんごあえn」
お爺さんのコーラスが響きます。金星語でしょうか。とりあえず、冥王星を食べたとかいう、ある国の首相の嫁さんあたりが話してそうな言語です。
ところで、一体何をしたかったのかは神様とお婆さんくらいしか分からないでしょう。お婆さんの奇天烈な行動を理解できるなら、ちょっと人間終わってる感じがします。
さて、盛大なお見送りを終えて、桃太郎たちは海から陸に戻ってきました。
「おっと、そういえばキジにまだ名前つけてなかったね」
桃太郎が思い出したように呟きました。
「そうだ、利口そうだし、『ポアロ』でどうだろう?」
キジは気に入ったように鳴きました。
桃太郎は仲間たちを引き連れて、一度家に戻ることにしました。お約束のきび団子が鬼退治には必要だからです。どう使うかはさておき。
家に戻ると何故か、家があった場所に城が建っています。しかも、ロココ式のサンスース宮殿そっくりです。確か、世界史Bで習いました。
桃太郎は何があったのか即座に理解しましたが、仲間が理解できていません。無理もない話ですが。
「お婆さん、時空転移でサンスーシ宮殿を日本に持ってくるの、やめようよ」
「おお、帰ったか桃太郎」
お婆さんの声が遠くの方からします。いつの間に戻ったんだとか突っ込んではいけません。どこにでも現れる人間ですから。
桃太郎たちは入り口のドアを開けると、豪奢な赤じゅうたんが敷き詰められた廊下を歩き、白のシャンデリアの見下ろす中を歩きました。そして、フライパンやら金属バットやらが置いてある大きな台所でげははと笑いながら鍋をかき混ぜるお婆さんを見つけました。どこかの邪教徒のようですが、これが日常です。
ところで、お婆さんがかき混ぜている鍋からはもくもくと紫色の煙が立ち昇っています。台所で化学実験を行うなんてエクセレントですね。
「いくら、配下のNOBUNAGAがいるからって、家を宮殿に変えるなんて無茶苦茶だよ」
桃太郎はお婆さんを探し当てて、言いました。
「乙女の夢じゃったからの」
これはお婆さんの弁。
「どこが乙女じゃクソババア」
どこからか戻ってきたお爺さんの突っ込み。地雷を踏みました。テポドン級です。いやもう、かなり手遅れなんですが。
お婆さんは無言で特攻服を着込みました。背中の文字プリント『邪乃災怒』が素敵です。どう見ても、賊です。本当にありがとうございました。
「一辺死んでこぉい!!!」
どこかで聞いた台詞とともにお婆さんはバイクをふかすと、お爺さんを引き倒してどこかに消えました。
「と、とりあえず、きび団子持って行こうか」
桃太郎は夫婦のどつき漫才を無視して、本来の目的であるきび団子回収に取り掛かりました。もしかしたら、きび団子で鬼が島㈱を無血開城できるかもしれません。争う必要がなければ、争わないのが一番です。
しかし、きび団子はありませんでした。冷蔵庫にあったきび団子は既に誰かに食べられてしまったようです。
「仕方ないね。お婆さんのレシピ見て作るしかないか」
桃太郎は城の台所らしき場所で発見したレシピを見て、作ることにしました。ダイゴロウとポアロが手伝います。ホームズはソファに寝転んで、みたらし団子を頬張っています。亀は何故か城で働いているメイドをナンパしています。
「えっと、何々……まずは砂糖と小麦粉を混ぜて……次にニトログリセリンと青酸カリをいれて……」
これを食べたら話のジャンルがコメディからミステリーに変わること確実です。桃太郎を名探偵にするわけにもいきません。
「最後にティラノサウルスの牙を混ぜて終わり、と」
桃太郎はダイゴロウとポアロの助けを借りて、何とかきび団子を完成させました。ところで、きび団子って紫色でしたっけ。
お婆さんのレシピをよく見ると、最後にこう書かれてありました。
『きび団子は暗殺用の武器である』
桃太郎とダイゴロウとポアロは固まりました。
(……これで鬼が島㈱を倒せと?)
困惑しながらも桃太郎たちはこれを持って、いよいよ鬼が島㈱に乗り込むことになりました。
こんばんは、Jokerです。
この話は師匠から駄目だしがあったので一部修正してお届けします。
ではまた次回お会いできることを祈りつつ……