異説鬼退治④
ダイゴロウとホームズを連れて向かったのは大江戸港町です。
「いや~海はいいね!」
桃太郎は背伸びをしながら言います。
快晴の空。絶景の海。晩夏の太陽が空から眩い光を大地に注いでいます。
これだけなら、素晴らしい一日になりそうです。
しばらく、桃太郎が歩くと、亀と子どもが砂浜で何やらもめています。いや、いじめられているようです。
よくよく見ると、子どもが亀をいじめているのではなく、亀が子どもをいじめているというシュールな光景だということに気付きました。
「オラオラ、金出さんけえ!」
下品な河内弁です。亀さん。
「うわーん! 誰か助けてよぉ」
子どもは涙を流して助けを求めます。
それを見た桃太郎たちは固まりました。いや、笑いを堪えるのに精一杯でした。
(これは一体何のギャグなんだ? お爺さんの差し金?)
お婆さんが何か亀にクスリを盛ったのかもしれません。
「おいコラテメエ」
亀さんが綺麗な日本語で桃太郎たちに話しかけます。育ちの良い亀のようですね。
「な、何だい?」
桃太郎は少しびくりとしました。頭に「や」のつく自由業の方々に捕まった時のような心境を味わっていました。
「今からテメエらを龍宮城に拉致してやるからありがたく思え」
まさか『誰も頼んでねえよ』なんてこと言ったら、酸素ボンベなしで海中デートに誘われそうだったので
「はい……」
とだけ答えました。
「よっしゃ、そうと決まれば行くぜ!」
亀は強引に桃太郎たちを背中に乗せると、海へと豪快にダイブしました。
それから桃太郎たちは意識がありませんでした。気付くと、絢爛豪華な城が目の前にありました。
「ここが龍宮城だ」
亀が自慢げに言います。
桃太郎たちは豪奢な門の前に立ち、その風景に驚いていました。
「お~い、乙姫! 今帰ったぞ。メシの準備は出来てるか?」
亀が怒鳴ると、城の門がゴゴゴと大きな音を立てて開き、そこから若く美しい女性が出てきました。きらびやかな衣装を纏った女性は
「お帰りなさいませ、ご主人様」
と艶やかな声で言いました。
よく見ると、この乙姫、メイド服を着ています。実は日本には大昔メイド服という大衆文化があったことを証明する歴史資料として、今日本歴史学会で審議されているところです。実はこれが亀の趣味だったなんてことは口が裂けても言えません。
「す、すごい女の人だね」
桃太郎は驚きました。
「ワン」
「うき」
二匹も同意します。
「あまりの可愛さに声も出ないか? まあそうだろうなぐふふ」
亀はにたにたと笑っています。
「それじゃあ、今日は客を連れてきたからたっぷりもてなしてあげてくれ」
亀はそれだけ言うと、龍宮城に入っていきました。
「では、皆様。今日は蒸し鶏を用意しています。どうぞ」
柔らかな笑みで乙姫は桃太郎たちを城へと導きます。
城の中に入ると、美女たちがかなりきわどい衣装で舞台上を踊っていました。歓迎のためだそうです。
「ここにお爺さんがいたら、大変なことになってただろうね」
桃太郎はここにお爺さんがいないことに心底安堵しました。セクハラまがいのことをやりかねません。間違いなく
「ふぉぉぉ! ぎゃるじゃあ! ぴちぴちギャルじゃぁ!」
とか言って襲い掛かるでしょう。
「ふぉぉぉ! ぎゃるじゃあ! ぴちぴちギャルの大漁じゃあ!」
出てきやがりました。どうやって龍宮城を探し当てたのか疑問ですが、お爺さんならば出来るのでしょう。
「ワシの嫁になってけれえ!」
「いやぁ!」
乙姫は両手を広げて近寄ってきたお爺さんにきついビンタを一撃放ちました。
「ほげ!」
お爺さんは珍妙な声をあげると、どこかにすっ飛んでいきました。さすがは乙姫、天下一の強さです。
「もし、そこな娘」
今度はお婆さんの登場です。このままじゃ、『異説鬼退治』じゃなくて『爆裂ジジババ列伝』にタイトル変えたほうがよさそうです。
「何でしょうか?」
乙姫は応えます。
「ここにセクハラジジイが来なかったかの?」
「来ましたよ、さっき」
乙姫様がビンタで張り飛ばしたのですが。
「ほう、そうか」
「しかも、私に求婚までする始末で」
お婆さんの額の青筋がはっきりと見えました。
「ほう……一度冥府まで送ってやらねばならぬようじゃの。配下のNOBUNAGAに命じて、宇宙からの空爆撃滅暴走特攻掃討作戦を実行するべさ」
と宇宙語レベルなわけのわからん台詞を残してどこかにワープしていきました。
もはや人間業ではありませんが、そこは突っ込んでは駄目です。
一同は唖然としています。亀さんだけはそのことを知りませんでした。
さて、宴が始まります。
乙姫をはじめとした美女は宴会場に設けられた壇上で踊り始めました。
それを見ながら、桃太郎たちは亀と食事をしています。これもまたシュールな風景です。
「おい、次は鶏の丸焼きだ!」
亀が威勢良く声を上げます。
すると、料理されてはたまらんと鳴く鳥が厨房へと運ばれていきます。あれは鶏ではなく、どう見てもキジでした。
「待って、かわいそうだよ」
桃太郎が声を上げます。
「何だと? 俺様のもてなしが受けられねえってのか?」
ほろ酔い気味の亀がちょっとガラ悪く言いました。
「そうじゃないけど、殺しちゃうんでしょ。だったら、僕たちの仲間にして鬼が島㈱を倒しに行くほうがいいかなと思って」
ダイゴロウが桃太郎の意見に賛成します。サルは出されたご馳走を平らげるので夢中になっています。
「そういうことかい。なら、俺も混ぜな」
亀はあることを提案しました。
こんばんは、Jokerです。
ほぼ修正なしです。
ではまた次回お会いできることを祈りつつ……