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まがいもの。

私は授業終わりによく颯の家に遊びに行く。颯は大学が指定しているアパートに一人暮らしをしているのだ。泊まりに行くことなんてしょっちゅうで、月の半分は遊びに行くほどだ。

特に何をするでもなく、私は床に座って彼はベットに座って壁にもたれながら、お酒を飲みつつ映画を見ることがほとんどだ。そして、一服しては隣人やアパートに住むスポーツ科の男達とおしゃべりする。おかげで私もすっかり見かけては声をかける程にアパートの住民と仲良くなった。仲良くなったのは4人の男達である。

このアパート以外に同じ敷地内にもう2つアパートが立っている。全て大家さんが管理しているらしい。

1人は隣人の田中。もう2人は別のアパートで彼らは三階建ての一階に大我と二階の角部屋に住む亮太、もう1人はさらに別のアパートだ。

元は田中の友達で、次第に颯とも仲良くなったらしい。そして、私にもそれが伝染している。初めは背の高い田中に威圧感を感じていたが、案外話しやすくて気さくな人だと知ると、ゲームの話や好きなアーティストの話をするようなった、

それからというもの、田中の家にも泊まりついでに遊びに行くようになった。

田中たちにとっては初めの頃の私の印象は最悪そのものと言っていい。それは4人で颯の家に男女で泊まったとき、私たちはお酒を飲んで正気なんてなかったからだ。そんな状態で隣に突撃すると、スポーツ科3人が集合しながらゲームをしていた。その場にいたのは田中と大我、亮太である。

そこに泥酔状態の私。私は酔うとお喋りになって、人肌恋しいのか誰彼構わずに近づきだす。夏だったせいで、私の服装はブラキャミソールに薄い羽織が1枚。

こんな状態で人に近づくなんて、今思えば痴女だ。

こんな最悪な第一印象であったが、みんな今でも私と仲良くしてくれている。本当にありがとうとごめんなさいが混合している。

それは1年の夏休み入る少し前の事で、元彼と別れた日の1ヶ月後の話である。


私は颯が、土日は必ず家にいることを知っているので、今日もまた私は手土産として夕飯の材料を掲げ訪れる。彼はバイトをしていて、平日しか出勤しないことを知っている。それは土日くらいは家でゆっくりしたいという気持ちの表れである。

「聞いてよ、バイトでキモい客がいてさ、そいつめっちゃ命令してくるの。まじでキモいよね。」

「ガチか、そういう客はリアルで出会いない奴らなんだよ。気にすんなよ。」

「逆にリアルにいたら引くけどね。そんなおっさん達笑。」

私が飲みに誘う日は大抵バイト終わりで、嫌なことがあった日に限られる。今日もまた床に座りながら、客の愚痴大会が始まる。私はいわゆるキャバクラで働いている。大金欲しさに始め、目標金額を稼いだら辞めてやるつもりだったのだが、お得意の愛想を振りまいているうちにそこそこ人気が出て、これ以上手っ取り早く稼げる仕事なんてないと、抜け出せなくなってしまった。このことは颯以外には話しておらず、親にも秘密にしている。だからなのだろう。バイトの愚痴を話せるのは颯しかいないので、毎度こうなってしまうのだ。

「またいるの?」

一服しに外へ出ると、タイミングよく皆も駐車場の円石に座りながら一服していた。

颯の家に行きすぎて、もはや第2の家みたいになっている。田中たちも半笑いだ。

「みんらぁだぁ〜。私がいちゃいけらいってゆぅ〜ろぉ〜。」(「みんなだ〜。私がいちゃいけないっていうの。」)

呂律が回らなくなるくらい酒に呑まれた私は、毎度恒例のようにダル絡みをしてしまう。肩を組んだり、近くまで寄り添って座ったりと行動はさまざまである。どうにもお酒が入ると気分が良くなってしまって気持ちいい。呂律はやばいが正直意識はあるので、次の日になると後悔する。記憶が残っているタイプ。それでも酔っている時は甘えたいのが本音なのだ。

「がち迷惑だよね。」

「ほんとにね、呑んでもいいけど、呑まれるなよ。」

これは男特有のノリだということも理解している。だってみんな二人きりだと優しいの知ってるから。でも迷惑かけてるのは本当だし、少しは反省しようかと思ったり、思わなかったり。


外に出るとつい話し込んでしまって、颯やみんなは盛り上がっている。もう何十分座り込んでいるだろうか。酔いが少し冷めてきた私はみんなに聞いてみた。

「みんな彼女作らんの。」

本気なのか、ふざけているのか、マッチングアプリで好みの女の子にライクを送っている田中達に聞いてみた。

本当は彼女を作りたいようだが、なかなか現実では出会いがないらしい。前にみんなの恋愛遍歴を聞いたことがある。基本的に颯含め全員1年以上付き合っていたようだが、彼らは皆他県からの学生で遠距離恋愛になったことが別れるきっかけだったらしい。中には一人まだ付き合ったことがない童貞もいるようだが。

「この子タイプなの?」

私がそう尋ねたのは三階建てに住んでいる亮太だった。

「この子かわいいね。さっきの子はあんまりかな。」

この男はとても顔がいい。故に何を言っても許されると思っているのだろうか。初めの頃はそんなことも思っていたっけ。正直好みである。こんなイケメンと付き合えたら楽しそうだななんて考えながら、私は彼の隣に座った。顔が直視できないけれど、酔った勢いでイケメンに甘えたい。なんて下心丸出しな感情は殺して、私は彼に彼女を作ることを勧めた。

しかし、顔がいいイケメンにドキドキするのは女性なら誰でもすることだ。これも恋ではない。第一深く知らないし、本性も掴めない。でもイケメンと仲良くしたいのも女性特有である。癒しというべきだろうか。亮太はかっこいいよりも笑うと少しかわいい顔をする。心の中でそう自分に言い聞かせる。

本当は人にたくさん甘えたい。甘やかされたい。でも友達以上に踏み込んではいけない。私の心はいつもその感情に支配されている。それがルールだから。ルールは守らなければ。

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