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なろうラジオ大賞6参加作品たち

うちのカレンダーは毎晩家を抜け出して散歩に出かける。

 田中家のリビングには、毎年同じメーカーの柴犬写真カレンダーが飾られている。

 お散歩する柴犬、お昼寝する柴犬、どの月の柴犬も可愛くてちょっとした癒やしアイテムだ。


 でも、このカレンダーには秘密がある。


 夜になると、勝手に壁から降りて器用に歩き出し、散歩に出かけるのだ。



「お父さん、またカレンダー出かけてるよ!」


 田中家の小学三年生の子、翔太しょうたが叫ぶ。


「ちゃんと戸締まりしたはずなのに!」


 田中家のお母さんが溜息をつきながらリビングの壁を見る。

 普段カレンダーがかかっているところは毎年同じ位置。今は何もない。カレンダー型の日焼けあとが丸見えだ。


「いつものことだろ。朝には戻ってくるさ」とお父さんはロックの焼酎をあおる。


 翔太は不思議でならない。


「なんで散歩するんだろう? カレンダーは壁にかかるのが役目だろ!」


 お母さんは乙女のように夢見がちなことをいう。


「カレンダーとはいえワンコだから、他のワンコのように散歩したいんじゃないかしら」

「いや、そんなこと言ったら世の中の写真やカレンダーが全部散歩に出かけることになるぞ」


 とお父さんが突っ込む。



 翌朝、戻ってきたカレンダーを翔太はじっくり観察した。ちょっと土がついているけれど普通のカレンダーだ。


「ねぇ、カレンダー。お前は毎晩どこに行ってるんだ?」


 カレンダーに口はないから答えるはずもなく。

 翔太は行く先を確かめたくて、夜更かしを決意した。深夜、リビングでソファの影に隠れて待っていると……カレンダーがもぞもぞと動き出した。


「おおお!」


 翔太は驚きながらも、そっと後をつけた。

 カレンダーは玄関からスルリと抜け出し、街灯の点々とつく夜道を歩き始める。

 まるで近所のおばあさんの家のハスキー、太郎の散歩コースのようだ。

 公園を通り、川沿いの遊歩道をのんびり進んでいく。


 驚くべきことに――他の家からもいろんな動物カレンダーが集まってきた。


 どの家のカレンダーも、壁に貼りついているだけじゃ退屈なのか、くるくる追いかけっこをしている。ある程度遊ぶと満足したのか来た道を戻りはじめた。


 お母さんの推理が正しかったと証明された形だ。

 田中家では、今ではカレンダーが散歩するのは家族全員の楽しみになっていた。


「ねぇ、お母さん、来年のカレンダーも犬のやつにしよ。きっとまた散歩するよ!」


 お母さんは笑って答える。


「それはいいわねぇ」


 田中家の奇妙だけど平和な日常は、今日明日も続いていく。

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― 新着の感想 ―
たとえカレンダーであっても、やはり動物としての本能は健在なのですか。 確かに室内犬も全く散歩しないと身体を壊すらしいですし、カレンダーの犬も一日中屋内で閉じこもっていると落ち着かないのでしょうね。
ほのぼの…!(*´艸`*) 妖怪的ホラー系かと思ったら(笑)
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