うちのカレンダーは毎晩家を抜け出して散歩に出かける。
田中家のリビングには、毎年同じメーカーの柴犬写真カレンダーが飾られている。
お散歩する柴犬、お昼寝する柴犬、どの月の柴犬も可愛くてちょっとした癒やしアイテムだ。
でも、このカレンダーには秘密がある。
夜になると、勝手に壁から降りて器用に歩き出し、散歩に出かけるのだ。
「お父さん、またカレンダー出かけてるよ!」
田中家の小学三年生の子、翔太が叫ぶ。
「ちゃんと戸締まりしたはずなのに!」
田中家のお母さんが溜息をつきながらリビングの壁を見る。
普段カレンダーがかかっているところは毎年同じ位置。今は何もない。カレンダー型の日焼けあとが丸見えだ。
「いつものことだろ。朝には戻ってくるさ」とお父さんはロックの焼酎をあおる。
翔太は不思議でならない。
「なんで散歩するんだろう? カレンダーは壁にかかるのが役目だろ!」
お母さんは乙女のように夢見がちなことをいう。
「カレンダーとはいえワンコだから、他のワンコのように散歩したいんじゃないかしら」
「いや、そんなこと言ったら世の中の写真やカレンダーが全部散歩に出かけることになるぞ」
とお父さんが突っ込む。
翌朝、戻ってきたカレンダーを翔太はじっくり観察した。ちょっと土がついているけれど普通のカレンダーだ。
「ねぇ、カレンダー。お前は毎晩どこに行ってるんだ?」
カレンダーに口はないから答えるはずもなく。
翔太は行く先を確かめたくて、夜更かしを決意した。深夜、リビングでソファの影に隠れて待っていると……カレンダーがもぞもぞと動き出した。
「おおお!」
翔太は驚きながらも、そっと後をつけた。
カレンダーは玄関からスルリと抜け出し、街灯の点々とつく夜道を歩き始める。
まるで近所のおばあさんの家のハスキー、太郎の散歩コースのようだ。
公園を通り、川沿いの遊歩道をのんびり進んでいく。
驚くべきことに――他の家からもいろんな動物カレンダーが集まってきた。
どの家のカレンダーも、壁に貼りついているだけじゃ退屈なのか、くるくる追いかけっこをしている。ある程度遊ぶと満足したのか来た道を戻りはじめた。
お母さんの推理が正しかったと証明された形だ。
田中家では、今ではカレンダーが散歩するのは家族全員の楽しみになっていた。
「ねぇ、お母さん、来年のカレンダーも犬のやつにしよ。きっとまた散歩するよ!」
お母さんは笑って答える。
「それはいいわねぇ」
田中家の奇妙だけど平和な日常は、今日明日も続いていく。