1.衝突
最近、彼は毎日盗撮をしていた。通勤の時間帯に数駅の間、同じ電車に乗るお気に入りの女子高生がいたのだ。その容姿は、彼の性欲を掻き立てた。咀嚼したい団子鼻、耳掻きされたい爪、舐め回したい丸い膝。勃起は容易だった。
彼女を見つけて1ヶ月。彼は誰にも見つかることなく盗撮をしていた。そのために購入した数万円の小型カメラを使い、エスカレーターで後ろからスカートの内側を撮影する。毎日微妙に変化する、下着からの肉のはみ出し具合をあとから家で確認するのが楽しみだった。
彼は自分が満足するためなら出費や労力を惜しまない人間だった。だからスマートフォンではなく、わざわざ高価なカメラを使った。彼女が持つ価値、そして自身へのご褒美の質を最大化させるためには、それがふさわしい方法だと考えていたからだ。
朝撮った映像で、夜オナニーをする。それが彼の習慣だった。毎日、その日の尻を見ることに興奮した。他では感じられない新鮮さと、普通では見られない変化がたまらなかった。
「君さえ知らない君を、俺だけが知っている」
そう思うと、激しく射精できた。
今日も彼女を見つけた。いつもの時間、いつもの駅で。
乗車位置の先頭に並んだ彼女を見失わないように気を付けつつ、少し離れた場所に並んだ。いつも通り、数駅先の乗り換え時にエスカレーターで盗撮をする。そんな未来が、約15分後にはやってくる。彼はそんなことを考えていた。
無意識にポケットに仕込んだ小型カメラを確認した。すると、ない。なんと今日は、家に忘れてきてしまったのだ。彼は焦った。想定外のことだった。
プー。
「え、まじ。ここで途切れるのかよ。ずっと欠かさず続けてきたのに。毎朝の日課だったのに」
許せなかった。失敗をした自分に腹が立った。
プーー!
「昨日の夜も、君のおかげで最高に気持ち良くなれたんだ。すごく興奮したよ。今日もそのために、君のために、ここまで来たのに」
プーーー!!
電車が近づく。時間が経つ。後悔の気持ちは、どんどん大きくなっていく。
「今夜も君で満たされるはずだったのに。いやだ、いやだ。ふさわしいじゃないか。こんなに君を想っているのに。報われないなんて理不尽じゃないか」
プーーーー!!!
そんな彼女が今、ホームから飛び降りた。電車がそこを通る数秒前、彼女は線路の上に倒れた。全身が硬い鉄の狭間に巻き込まれ、肉は血と内臓を纏いながら剥がれるように引き裂かれた。
大勢の悲鳴が上がった。皆パニックになった。泣き出す者。嘔吐する者。過呼吸になる者。人々の体は恐怖と動揺で脱力し、立っていることすらままならない状態であった。場は地獄と化していた。
そんな中、彼はじっと立ったまま動かなかった。激しい焦燥に駆られる中、思いもよらぬ光景が広がった。頭の中で状況を整理するのに時間がかかっていたのかもしれない。
もちろん、こんな場に遭遇したのは初めてのことだった。テレビやインターネットのニュースで見たり聞いたりするのではなく、目の前で人が自殺した。しかも相手は自分が毎日盗撮をしていた女子高生。一瞬の出来事だった。
もう彼女はこの世にいない。毎日の当たり前だった彼女が。生活の一部だった彼女が。生き甲斐とすら思えていた彼女が。
そのとき、彼は思った。
「え、結果オーライじゃん。焦って損した。今日はなんだかツイてる気がする。駅前の宝くじでも買っていこうかな」