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久し振りに伝道師(マスター)に会いに行く

休みの日、奥さんと色々と日常の買い物をした後、少し疲れたのでコーヒーでも飲みに行こうということに。



街中から少し離れた山里にある古民家カフェに行くことにした、知り合いが始めたのだったのだけど、顔を合わせるたびに一度来てほしいと言っていたので、良い機会だったのだけど残念ながらお休みだった。



ということで、久し振りに自家焙煎珈琲店へ行くことにした。おしゃべり好きのQグレーダーのマスターがやっているカフェなのだから、ちょくちょく行けばいいのだけど、あまり便利じゃない場所にある割には休みの日は各地から訪れるコーヒー好きで賑わっていたので、ちょっと足が遠のいていた。



2台停められる駐車場は運よく空いていた。とりあえず、これでコーヒーが飲めるということでホッとする。店内に入ると5,6人のお客さんがいたが、割と静かで落ち着いた雰囲気だった。



マスターの近くに座ろうかと思い、テーブル席を断ってカウンターに座る。奥さんが何にしようかメニューを見ながらコーヒー選びに悩んでいるので、僕が今まで飲んだことのあるコーヒーとメニューにあるコーヒーの特徴を説明していると、マスターが声を掛けてくれた。



「お手伝いしましょうか?」



どんなコーヒーが好みなのか、酸味、風味、濃さ、バリエーションなどを聞いてくれたが、前にそのカフェの飲み比べセットを飲んだことがあるというのを聞いて、三種の飲み比べセットをお勧めしてくれた。



エルサルバドルのスペシャルティ三種で、ナチュラル、ウォッシュト、ハニープロセスの三種類。一つはダイレクトトレード、二つはトレーダーからものだったのだけど、その三種類を比べ、好みはどれなのかを答えたり、カッピングしてのスコアはどれが一番高かったかを当ててみたり、そういうエンターテインメント的な飲み方をさせてくれる。



大きさ(スクリーンサイズ)、センターカットの状態などを確認させるために、豆面を比較させてくれた。三種類のうち、ハニープロセスのものはパカマラ種だったため、非常に豆が大きい。僕がいろいろ勉強しているうちに覚えたことを、マスターは一瞬で奥さんに説明してくれた。



三種類を飲み比べ、二人とも自由な感想を伝えると、マスターは合っている合っていないではなく、それぞれの主観を大切にしてくれ、その感想からQグレーダーがする味の表現をそれに当てはめてくれる。僕がいつも感じる豆っぽい味というのはベジ感という言葉に置き換わり、ウォッシュトをナチュラルっぽいと答えた時も、ナチュラルに多いボディの厚さをそう言っているのではと翻訳してくれた。



2人とも、一番好みのウォッシュトが、三種の中でとびぬけたスコアだったから二人して少し喜んだのだけど、よくよく飲んでみれば全部スペシャルティなので、どれも美味しい。その風味の違いを感じながらマスターの講義に耳を傾ける。



「純喫茶は、古風な作り方をし続けているけど、豆の量をふんだんに使うから美味しさが凝縮していたりする。」


「都内にあるスタイリッシュなスペシャルティの浅入り専門店のコーヒーが、焙煎不足で浅すぎて綺麗な酸味が出る前に煎り止めになり、青臭く、普段残さない僕が残してしまった。」



とか、なるほど、そういうこともあるんだなと、面白おかしく話を聞く。コーヒーの飲み歩きも好きなマスターは、日本全国のカフェを巡るのが趣味らしい。豆のポテンシャルを引き出すための焙煎は、浅すぎても深すぎても駄目。



僕が、


「毎日色んなコーヒーをこだわって淹れて来たけど、最近もう全然良くわからなくなっちゃった。」


と、つぶやくと、奥さんとマスターは二人して、


「まあ、楽しんで飲むのが一番。」


と、ハッピーアイスクリーム状態。



「こんなカフェでも、パフェやラテアートなんかの映えるところに惹かれてくるお客さんも多いんですよ。でも、やっぱりそういうお客さんはそれほどリピートしない。やっぱり、マニアックな珈琲ファンの人が常連の多くなんです。」



そりゃあ、そうだよね。コーヒー一杯飲むのに、色々と考えて感じて対話してということが出来る人じゃなきゃ、ここにはたどり着かない気がする。普通の喫茶店ではあまり話せない事でもここならば聞ける。そして、そんな話をされた普通のお客は目を白黒させてしまうかもしれない。



「ただの黒い液体の中に、ロマンを感じるんでしょ?」



そう、映えるわけでもなく、カップが高級なわけでもなく、落ち着いた雰囲気なわけでもなく、ただただ黒い液体の中に何かを感じ、それを楽しくおしゃべり出来る場所。



「マスターにあってから、僕のコーヒー修業がはじまったんですよ。」


「そりゃあ、悪いことしちゃったかな?」



僕には、ベリー感も、柑橘味も、ナッツ感も、アーシーも、何もかもが分からなくなってきてしまった。飲み始めの頃に感じた鋭い感覚も感動も失われてしまった。



やっぱりまだ、僕には珈琲の味がわからない。



でも、こうやってこの珈琲という飲み物と、そこに集う仲間たちと、それを包み込むマスターのいるカフェで過ごすひと時というのは、何にも代え難い。



珈琲の話だけで話し倒した2時間余り。あっという間で、だけど、その後どっと疲れがやってきた。今まで抱えてた疑問や思いを伝えられ、心も頭もフル稼働したせいだろう。マスターも僕と奥さんの好奇心を見て、こっち側の人間だと思ってくれたからあれほど教えてくれたのだと思う。



また少し、自分なりに珈琲を研究して、伝道師たるマスターに会いに行こうと思う。

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