第37話 いざ!ビート領へ②
王都を出発したアーロン達の幌馬車が夜道を走っていた。
「ねぇ、シルフィー! ビート領まで、まっすぐ向かっても楽しくないからビート領までの間にあるいろんな街で観光しながら旅をしたいんだけど、どうかな?」
「いいわね!」
「わらわも賛成なのじゃ!美味しい物をたくさん食べながら旅するのがよいのじゃ」
観光はシルフィーやドーラも乗り気のようだ。
「後、街のギルドでクエストも受けてみたいから二人ともお願いね。」
「「了解!」なのじゃ!」
ギルドのクエストも大丈夫みたいだ。
アーロンは楽しくて仕方ない。
王の時に夢にも見た冒険者としての旅が出来るのが楽しくて笑顔が出っぱなしになっている。
アーロン達が出発してから数時間が経ち、太陽が昇り始めて辺りが少しづつ明るくなってきた。
街道にも馬車や旅人達の姿が確認できるようになってきた。
「ヒソヒソ・・・」
「なんじゃ!あれは?」
「!!魔獣が馬車をひっぱてる!・・・・」
アーロン達の馬車は、旅人やすれ違う行商人達などから注目を集めている。
エイベルから貰った幌馬車は見た目こそ普通だが、その大きさは通常の馬車の2倍もある大型のものだ。
しかも、引っ張っているのが伝説にもなっているバイコーン(二角獣)なので人の目を引くのはあたりまえだ。
「ねぇシルフィー!なんだかすれ違う人達からの視線を感じるんだけどなんでだろ?」
「・・あんた本気できいてるの!」
「わらわも気になってたのじゃ。シルフィー、おしえるのじゃ!」
シルフィーが幌馬車の天井を見上げながらため息をついて説明し始める。
「そんなのバイコーンのせいに決まってるじゃない!」
「確か人間達にとってバイコーンは神獣に近い生き物だったはずだから驚いてるんじゃないの!」
「まぁ~バイコーンに気付いてなくても4メートルもある馬なんて見たことないでしょうから、その大きさにビックリしてる人の方が多そうだけど。」
アーロンが【やってしまった!】みたいな顔をしている。
「シルフィー知ってたならもっと早く注意してよ!どうするのさ、目立ちまくってるじゃない。」
「しょうがないじゃない!わたしもさっき気付いたんだから。」
「見られたものはしょうがないからこのまま行きましょ!角を無くせばデカい馬って事で騙せるはずだからアーロン修正お願いね。」
「分ったよ!ほいっ!」
アーロンがバイコーンに意識を向け、二本の角を無くすイメージをするとあっという間に二本の角が消えてしまった。
「ほんと簡単にすごい事するわね。」
「すごいのじゃ。」
その後も、旅人とすれ違うたびに驚きの声が聞こえてきたが無視することに決めた。
バイコーンじゃなくただ大きい馬なので問題ないと思い込むことのした。
王都から離れるにつれ、馬車や旅人も殆どいなくなった頃、アーロン達の馬車を遠くから見ている集団が居た。
一人の男が遠目に見ても大きい馬車に驚いている。
「何だ?あのデカい幌馬車は!。」
集団の先頭に居る一番体格の大きい男がニタニタしながら呟く。
「あれだけデカい馬車なら金になりそうな物が沢山有りそうだな。」
どうやら盗賊のようだ。
十数人の男達が馬車の中のお宝に期待していると偵察に出ていた仲間の男が帰ってきた。
体格の大きい男が偵察に出ていた仲間に状況を聞く。
「どうだった?」
「お頭!とにかくデカい馬車でした。あの中一杯に物を積んでるとしたらかなりの金額になりますぜ。」
「しかも、馬車には男の子供と若いキレイな女が二人です。ありゃー高く売れますぜ。」
「後は御者はドワーフの老人一人だけだから問題ないと思います。」
「ただ・・やたらとデカい馬が引いているんで、暴れたら手が付けられなそうです。大丈夫ですかね?」
偵察の男は馬の大きさに少しビビっているようだ。
そんな男を叱りつける様にお頭が大声で檄を飛ばす。
「デカいだけで普通の馬なんだろビビんじゃね!久し振りの獲物だ必ずしとめるぞ!俺様に付いて来い」
「でも・・4メートル以上有りそうな馬ですぜ。」
「うるせぇ!いくらデカくても馬は馬だ魔獣じゃなけりゃどうとでもなる。黙って付いて来い!」
「野郎ども気合い入れて付いて来いよ!久し振りの獲物だ!行くぞーーーー!」
お頭と呼ばれていた男は偵察の男の意見を全く聞かない。
その様子を見て子分達は諦めたように何も言わなくなった。
盗賊たちはアーロン達の馬車を襲う事に決めたようだ。
男達はお頭の掛け声とともに馬にまたがり一斉に動き出す。
「アーロン!ちょっと良いかしら」
「どうしたの?」
「馬鹿な人間がこの馬車を襲う気みたいなんだけど、どうする?」
シルフィーは盗賊たちの事に気付いているようだ。
「どういう事?」
「風の精霊たちが知らせに来たのよ!【馬鹿な人間が子供と若い女の馬車だから襲っちゃおう!って言ってるよ!】ってね。」
この世界には、何処にでも精霊達が存在する。
特に風の精霊は空気のある所なら何処にでもいるのだ。
そしてその全てがシルフィーの眷属である。
だから空気が存在しない、水の中以外で起こっている事は全てシルフィーのに伝わってくる。
先程の盗賊たちの会話は全てシルフィーの耳に入ってきていると言う事になる。
「凄いね・・・。」
俺のプライバシーは無いに等しいのでは?とアーロンは思う。
「アーロンの魔法の実戦経験に丁度良いと思うんだけどどうする?面倒なら精霊たちに言って風魔法で全員バラバラに出来るわよ!」
「待つのじゃ!その遊び、わらわに任せるのじゃ、ブレス一発で丸焦げなのじゃ。」
ずっと馬車に乗っていて暇を持て余していたドーラが眼をギラギラさせながら手を挙げている。
この2人は殺す一択で話を進めている。
「いや!今回は僕が相手してみるよ。魔法も試したいし、人間相手に魔力の調整がしてみたいからさ。」
「解ったわ!後10分位で来ると思うわ。」
「しょうがないのじゃ!今回は我慢するのじゃ。」
「ドーラ悪いね。次、魔獣が出た時はお願いするよ。」
「任せるのじゃ。」
アーロンは冒険者らしくなって来た事が楽しくて仕方ない。
盗賊たちで何の魔法を試そうか色々と考えだすと笑みがこぼれてきた。
盗賊が到着するまでの10分がとても永く感じる。
「アーロンの顔が気持ち悪いのじゃ。」
「きっと凄い悪だくみをしているのよ!」
アーロンの横顔はマッドサイエンティストの様になっていた。
盗賊たちはアーロンにとってはモルモットに見えているだろう。




