第35話 いざ!ビート領へ①
エイベルに報告をした次の日アーロンは旅に出る準備をしていた。
旅に必要な物は昨晩エイベルが準備してくれていた馬車の中にほとんど揃っていたので新しく準備するものは何もない。
アーロンが準備しているのは、旅の間自分の代わりをしてもらう為の魔力クローンである。
いくらアーロンが現代日本の記憶や王様だった頃の記憶が有るとわいえ、現在のアーロンは4歳児だ。
ジルやシーラに内緒で外出などしたら大問題になってしまう。
ジルやシーラにとってはかわいい幼児なのだからとうてい無理な話になってくる。
そこで、遠隔操作が可能な魔力クローンを造りアーロンの代わりをしてもらうつもりでいる。
「クローンの進化が止まらないぜ!魔法っておもしろいな!」
アーロンが独り言を言っているとシルフィーが話しかける。
「何?どうしたの。」
「新しく造ったクローンだけど遠隔操作しなくても動いたり話したり出来るようになったんだよ!もちろん複雑な動きや、多くの会話は難しいけどな!」
アーロンはこの数日でAI並みの魔力クローンを造り上げていた。
「どういう仕組みでそんな事になっているの!ただの魔力の塊が自分で話したり行動するなんて意味が分からないんだけど」
「面白いのじゃ。話しかけてみるのじゃ。」
シルフィー魔力クローんを見て不思議に思っているがドーラは面白がって魔力クローンに色々話しかけている。
「実は俺もよくわかってないんだけど、動いたり話したり出来たら良いなってイメージしながらクローン作製してたら出来ちゃったんだよね。てへぺろ」
どうやら偶然出来てしまったようだ。
シルフィーが諦めたように肩を落としてアーロンを見つめてため息をついた。
「はぁ~あんたのやる事だから考えるのをやめるは!でも、それが居れば、もう何時でも出発できるわね。」
「そう!だから今日の夜には出発しようと思っているのでシルフィーとドーラよろしくね!それと旅の間は僕の付き添いという事で、カフェ巡りの時の大人の姿でお願いするね。僕の付き添い冒険者って事で」
「なんだか楽しくなってきたわね!」
「わらわに任せるのじゃ!バッチリ護衛してみせるのじゃ。」
シルフィーもドーラも人間みたいに旅をするのが楽しみのようで興奮しているようだ。
数時間後
アーロン達3人は、ジルとシーラが眠りについたのを確認してから、魔力クローンを身代わりに部屋に置いてこっそりと家を出た。
馬車はドーラの収納魔法で収納してもらっている。
この3年間で4属性の魔法をマスターしたおかげで、シルフィーと同じように風魔法を使って空を飛べるようになっているので3人で王都の門の外まで飛んでいく。
「やっぱり自分で空を飛べるのは楽しいな!」
「そうでしょ!私の指導に感謝しなさい!」
「わらわにもじゃ」
この2人に魔法の使い方を教えてもらっていたのだ。
なにせ風の大精霊と竜神という、この世界では神格化されてるぐらいの2人に教わって上達しないはずがない。
「そうだね。2人ともありがとう。」
素直にお礼を言ったアーロンを見て2人が少し照れている。
話をしていると、あっという間に王都の門の外まで来ていた。
門から少し離れた所に降りてドーラに馬車を収納魔法で出してもらうことにした。
「ドーラ、馬車を出してくれるかな。」
「解ったのじゃ!今から出すから少し離れるのじゃ。」
目の前に、かなり大きい幌馬車が出てくる。
「見るのは2度目だけどかなり大きいな、十分馬車の中で寝泊まりできそうだから宿で泊まらなくてもよさそうだね。」
「馬鹿な事言わないでよね!街が無い所なら我慢するけど、ちゃんとした宿屋には泊まるわよ!」
「そうなのじゃ!野宿なんてしたら美味しい物が食べられないのじゃ。嫌なのじゃ!」
シルフィー達は野宿が嫌みたいだ。アーロンはキャンプみたいだし冒険者に憧れていたので野宿がしたかったがシルフィー達に合わせる事にした。
「解ったよ。・・・でも街が無いとこもあるだろうからその時はキャンプするよ!」
「解ったわ!」
「解ったのじゃ!」
「じゃあ!馬車に乗り込むぞ!」
アーロンとシルフィー達は馬車に乗り込んだ。
「・・・・・・・・・・・。」
馬車は全く動かない。
「馬の事忘れてた!馬がいないのに動くわけないよな、困った・・・・・・!」
アーロンは馬車を引く馬の存在を忘れていた事に気付いて少し戸惑ったが、あっさり解決策を思いつく。
居ないなら造れば良いやと魔力クローンで馬を一頭造り出す事にした。
アーロンは大きい馬車に負けないくらい大きく力強い馬をイメージしている。
アーロンが造り上げたのはバイコーン(二角獣)というユニコーンの亜種で伝説にさえなっている馬だ。バイコーンは漆黒の身体に2本の角が生えていて体長も4メートルを超える巨馬で、決して馬車を引くような馬ではないがこの3人は気付いていないようだ。
続けてアーロンは強面のドワーフのおじさんのクローンも造り出した。
旅の安全面も考えて体格の良い筋肉質のドワーフにしている。
「御者も必要だからドワーフのおじさんも造ったから二人とも馬車に乗って大丈夫だよ。」
アーロンが当たり前のように非常識な事をしているのを、シルフィーとドーラが冷めた目で見ていたがアーロンは一切気にせずに2人に馬車に乗るように促す。
「・・・・・・・・・・・。」
「シルフィーよ諦めるのじゃ!・・・・」
「「はぁ~」」
2人が馬車に乗るのを確認したアーロンは自分も馬車に乗り込んだ。
アーロンの造り出したバイコーンは大人しく馬車を引き。お爺さんは御者台に座り馬車を操作しだす。
クローンを造り出すときにビート領までの旅をイメージしながら造ったのでクローンが自分で行動しているようである。
もちろん遠隔操作も出来るので緊急時でも問題ない。
「いざ!ビート領へ!」
アーロンの声だけが暗い夜の空に響いていた。
真っ暗な街道を黒い馬が引く馬車が進んでいく。




