第33話 エイベルが来た。
昨晩エイベルと会うことが出来たアーロンは自分の部屋のベットで横になっていた。
シルフィーとドーラはアーロンの横で眠っている。
すでにかなり日が昇っているが昨晩は遅くまで起きていたので眠くてしょうがないようだ。
「シーラ!居るか?早く出てくるんだ!」
ジルの声がした、朝、門番の仕事に出かけて行ったはずのジルが帰ってきたようだ。
しかし何だか慌てているような声がする。何かあったのかな?とアーロンが思い隣の部屋に歩いていく。
「すみません!女房が居ないみたいで。とにかくお入りください狭い所ですが、すぐにお茶をお出ししますのでかけてお待ちくださいませ。」
ジルが使い慣れていない敬語で誰かと話しているようだ。
アーロンが隣の部屋に入るとアーロンを見たジルが。
「アーロン寝てたのか?今、お偉い方が来られてるから大人しくしていろよ!父はお仕事中だからな。」
「偉い人?」
アーロンが部屋の中をよく見るともう1人見覚えのある人物が椅子に座っていた。
「!」
「やぁ、君がジルの子供のアーロン君だね。こっちに来て一緒にお話ししないかい?」
エイベルが1歳のアーロンを見て話しかけてきた。顔が笑っているように見える。
ジルが普段しない家事をしながらこちらを見てかしこまって言う
「エイベル様に子供の相手をしてもらうなんて滅相もないです。」
「良い!僕はこう見えても子供が好きなんだよ!しかも親友アーロンと同じ名前だ。何かの縁であろう。」
「ありがとうございます!アーロンご迷惑を掛けるなよ!・・お茶は何処だ?」
ジルが台所の奥にお茶を探しに行った隙にアーロンはエイベル所に走っていく。
「エイベル!何でここに居る!」
「本当にアーロンでしたか!ビックリしましたよ。しかし、プップププ 本当に子どもって!」
やはり笑っている。先程エイベルの顔が笑って見えたのか勘違いじゃなかったようだ。
「笑えばいいさ、この姿じゃ仕方がない!だが何か用があって来たんだろ。でなければ、わざわざ平民の家に王様がくることなどないからな。」
「すまんすまん!アーロンの子供姿につい笑ってしまった。」
そしてエイベルがアーロンの家に来た理由を話し始めた。
①朝目が覚めた時は夢だと思ったがアーロンからの手紙が有ったので夢じゃなかった事を理解した。
②手紙には『又会いに来る』と書かれていたが、フローラ様達の事を早く知らせたくて、王都視察といって出てきた事。その際、門番のジルを案内役として随行させたらしい。ここには休憩と言って無理やり来たらしい。
③フローラ達カミラと共にフローラの父であるアドルフ辺境伯の下で安全に守られているらしく、ビート領で力を蓄えている。
④国の状況は詳細は後日しっかり教えてくれるようだが、今のところ何とかエイベルが治めているがヒルダ達の力が徐々に増して来ていて永くはもたないかもしれないとの事。
簡単にエイベルが話してくれた。
「そうか、フローラ達は安全なんだな!安心したよ。ありがとうエイベル。」
「いえ、逃がす事しか出来なくてすまない。」
「いや十分だ。生きていてくれるだけで良い。」
そこに、眠りから覚めた神様2人がふわふわと飛んできた。
「おふぁよ~。」
「おはようなのじゃ!」
「シルフィー様にドーラ様おはようございます。昨晩は命を救ってくれてありがとうございます!それにとても貴重な精霊眼を授けてくださり感謝いたしております。」
「別に良いのじゃ」
「やっぱりあんた出来た人間ね!気に入ったは何でも言ってちょうだい。」
エイベルが二人にお礼を言う。
どうやらシルフィーはエイベルが気に入ったようで大盤振舞な約束をしている。
「シルフィー様ありがとうございます。」
エイベルが二人に対してとても丁寧なのには理由がある。
朝起きたエイベルの眼にはある変化が起こっていた。視界の中に今まで見えなかった精霊たちが見えるようになったのだ。
この世界には精霊魔法といって精霊の力を借りて魔法を放つ魔法がある。
しかし、精霊を見ることが出来るのは精霊と同じ属性を持つ者だけで、しかもその精霊に好かれなければ姿を見ることが出来ないから直接見れる者は少ない。
しかも6属性すべての適正を持って生まれてくる者はいない上、精霊に好かれることなどあまりない。そういった条件があるので精霊を視認出来る者は少なく、たとえ視認出来たとしても1精霊か多くて2精霊である。
しかしシルフィーから精霊眼を貰ったエイベルは全ての精霊を視認でき、会話もできるようになっていたという。
しかも精霊眼から大精霊シルフィーの魔力を感じるので精霊たちが友好的に接してくれるらしい。
中でも風の精霊達からは絶大な人気があるようだ。
今朝は起きてから何人もの精霊が話しかけて来てシルフィーとドーラの事を聞かされたようで、お礼もかねて来ることにしたのだという。
「まだ、話し合いたい事も沢山ありますが、今日は本物のアーロンの顔を見に寄っただけですから詳しい話は又執務室でしましょう。夜は大体いますので何時でも来てくださいねアーロン君」
大体の話が終わる頃、台所からやっとお茶を持ったジルがアーロン達の所に帰ってきた。
「エイベル様お茶をお入れしましたのでどうぞ。」
「ご苦労!頂こう。」
エイベルは先程までと違い威厳たっぷりな言葉使いでジルに答え、ジルが入れたお茶を一口飲んだ
その後少しゆっくりしてからエイベルが席を立つ。
「ジル!この後の案内はもうよいぞ!奥方もおらぬようだし、アーロン君の世話をするが良い。この後は外で待つ護衛に任せるとする。」
エイベルはアーロンに【逢う】という目的は完了しジルの役目が終わったのでアーロンの世話をするように伝える。
「しかし・・。」
「良い、今日は助かったぞ!又頼むことも有ろう。その時はよろしく頼むぞ。」
「はい!畏まりました。」
ジルがエイベルに敬礼をして答える。
エイベルはアーロンに少し視線を向けた後、家から出て行き外で待っていた数人の護衛と一緒に鍛冶エリアの方に歩いて行った。
エイベルが居なくなるとジルが大きく息を吐いた。
「ふーーーーー。マジ緊張した!いきなりエイベル様に話しかけられたと思ったら街の案内をさせられるとは思わなかったぜ。」
息を吐いた後、今までエイベルが座っていた椅子に腰かけてお茶を飲みながらアーロンの方を真面目な顔をして言う。
「アーロン、今の方がこの国の王様で、俺が日々お守りしている方だ。よく覚えておくんだぞ!」
椅子にもたれかかり全身の力が抜けたようになっている態勢なので偉そうに言っても全然かっこよくないなとアーロンは思った。




