第20話 抵抗!
フローラ達を見送ったエイベルは執務室に来ていた。
周りの部下たちはとても忙しくしている。
昨夜、亡くなったアーロン王の葬儀を執り行う為の準備で、皆大忙しである。
「エイベル様、国民への知らせはどういたしますか。」
「国民には20日後、国王の死亡報告と国葬の日時を知らせる!」。
「今日はすべての貴族達に魔法通信で国王の崩御の知らせと国葬を執り行う旨連絡を送れ!加えて速やかに登城するように伝えるのだ!」
「はい!了解しました。」
エイベルは王国のすべての貴族達を王城に呼び寄せるように指示をだす。
指示を受けた事務官が自分の机に戻り全貴族のリストを確認して国王の崩御と登城の宣旨を作成し始める。
「宣旨ではなく令旨として知らせよ。」
「令旨ですか!?しかしそれで・・は。」
事務官の反論を聞かないまま指示を出す。
「早くするのだ!」
事務官は戸惑いながらも令旨として作成し始めた。。
宣旨とは国家で国王や王族以外の最高権力を持つ者が出す文書で、令旨とは王太子が出す文書である。
すでにダーメンという王太子がこの国には存在しているのでありえない話であった。
あえてエイベルが令旨に拘ったのには意味があった。
それは自分が王太子と同等の権利を有していると貴族達に思わせる事だ。
エイベルが令旨を全貴族たちに送ることでダーメンと同じ王位継承権1位にエイベルがいると思わせることが出来る。
それにより、ヒルダ達にとって一番の邪魔者がフローラ達だったのが、目の前にエイベルという王の座を狙う存在が現れる事で、フローラ達に向けれれている意識を自分に向る作戦だ。
その日、魔法通信によってすべての貴族達のもとにエイベルからの令旨だ届けられる事になった。
令旨を受け取った貴族達は差出人の名がダーメンでないことを知り様々な反応をする。
怒り狂う者や安心の顔を浮かべる者そして頭を抱えて一晩中悩む者などだ。
この令旨はもちろんヒルダにも届いていた。
ヒルダの顔が溶岩のように赤黒くなるほど熱を持ち怒りで体を震わせている。
ダーメンも怒りを抑えきれずにメイドに八つ当たりしている。
「あの男、やってくれましたわね!アーロンの前で従順な忠臣で良き親友の振りをしていたようですが、アーロンが死んで遂に本性を現したということですね。許せません・・・・・。」
「あの野郎、フローラを守るふりをして上手く城から追い出しやがったな!なんて姑息な奴だ。だから下級貴族上がりなど信用してはいけないのだ。父上の人を見る目の無さが招いた事だというのに何故、我が迷惑を掛けられねばならんのだ。」
「父上は死んでまで迷惑を掛けるのかーーー!くそがーーー!」
二人ともどうやらエイベルの作戦にまんまと騙されたようでエイベルをどうしたものかと考えていた。
ヒルダが部屋に宰相と財務大臣を呼びつける。
「ヒルダ様あのふざけた連絡は受けましたか?まるで次期国王が自分であるかのように!どうされるのですか?いっそ殺してしまった方が良いのでは?」
ダリルが馬鹿なことを言い出す。
「落ち着けダリルよ!馬鹿なことを考えるな。あの者はすこぶる頭がきれるのだ下手なことをすればこちらが不利になるぞ!」
兄のドリルが弟が暴走しないように止める。
落ち着いた様子のドリルを見てヒルダが質問する。
「で、どうするつもりなのだ?ドリルよ、何やら落ち着いているようですが何か良い方法があるのでしょうね。」
「ヒルダ様も何を不安になっておられるのですか?今まで我らがどれだけの金を貯めこんできたのかお忘れになりましたか?しかも、多くの貴族達は、弟の言いなりも同然です。ダーメン様を国王にするのも少し金を投入すれば問題ない事です。ご安心を。」
ドリルが自信満々に答えた。
「ダリル!お前の専売特許でしょ!金を扱わせればお前の右に出る者などおるまい。お前がコツコツ荒稼ぎした金の使い時は今ですよ!」
「そうでした兄上、ちょっと貧乏貴族どもの頭に金の雨を降らせて来るのも良いかもしれませんね。」
「ふふふふぁふぁははははははははははは!」
ダリルは大笑いしながら部屋から出て行った。貴族達のもとに行くようだ。
ダリルは、貴族たちが借金漬けになるようにいろいろな策略をして、その借金を肩代わりすることで恩を売り抵抗できないようにしていた。
借金の肩代わりする代わりに、その貴族の夫人を差し出させたり、娘を奪うなど、やりたい放題であった。
ヒルダはドリルを見ながらあきれて様に言った。
「貴方達兄弟はいったい幾ら国の金に手を出しておるのだ!ダーメンが王になった後はひかえるのだぞ。良いな!」
「ヒルダ様の仰せのままに!」
ドリルがワザとらしくヒルダに向かって膝をついて答える。
ダーメンはヒルダの後ろでドリルを睨みつけていた。
ダーメンは国の金を横領している事が許せないらしく自分が王になった時はドリルとダリルの兄弟を殺す気でいた。
(我の金を横取りするとはふざけた兄弟だ。用が済めば殺してやるから覚悟しておけ!)
この国の貴族の多くは自分の領地を持ち治めている。
王都から離れた領を持つ貴族達のほとんどが、自領に弟や代理を置き領の仕事をさせている。
貴族家当主達は王都の貴族エリアの豪邸に住んで遊んで暮らしていた。
当主本人が、自領を収めているケースはとても少ない。
エイベルが令旨を送ってから3日後には殆どの貴族が登城して謁見の間に集合していた。
謁見の間の玉座を空けその横の席にエイベルが座って貴族たちを見下ろしている。
そこに、ヒルダ達がはいってきた。
「エイベル!どこに座っているのだ!その席は王太子である我の席であろう!下級貴族が図々しいぞ。」
ダーメンが大声でエイベルを怒鳴りつけた。エイベルはダーメンの声など聞こえていないかのように肩肘を付いて座っている。
「聞こえておらぬのか!無礼だぞ!くそがーー!誰でもよいこの物を引きずり下ろすのだ!」
喚いているダーメンを一瞬見てエイベルが話始める。
「ダーメン様来られていたのですね。こちらの席がダーメン様の席だったのですね。すみません。」
そう言ってエイベルがダーメンに玉座の隣の席を譲った。
「そうだ!初めから素直にいう事をきいていれば良いものを。馬鹿な奴だ。」
ダーメンが勝ち誇った顔で自分の椅子に座ったと同時にエイベルが玉座に腰かけた。
エイベルの行動を見た貴族達がざわつく。
「では!私はこちらの玉座に座らせていただきますね。せっかく玉座を空けて待っていたというのにダーメンが譲るというのですから仕方ないですね。仕方がないで・す・ね。」
その瞬間ダーメンとエイベルの立場の優劣が付いたことになる。
王太子であるダーメンがエイベルに玉座を譲ったように見えたのだ。
ヒルダ達が助け舟を出すことが出来ない程あっという間の出来事だった。
すべてエイベル戦略通りに進んでいた。
「私の呼びかけに答えてくれた事をまずは感謝する。我が親友アーロン王が崩御なさった事は令旨にて確認いただけた事と思う。今日はアーロン王の国葬について話し合いの場を持ちたくて貴公達に登城してもらった。皆も目撃したと思われるがダーメンが玉座を譲ったゆえこのまま話をさせてもらうが問題があるか?」
貴族達は誰も発言できない。
ドリルとダリルさらにヒルダすら何も言葉を発することが出来ないでいる。
王太子のダーメンが全貴族当主の前で玉座をエイベルに譲ってしまったのだ。
王位継承権を譲ったのと同じである。
ドリルとダリルはダーメンの無能ぶりを甘く考えていた。
少なくない金を使って貴族達を仲間に引き入れていたのにすべてがダーメンのせいで無駄になってしまったのだ。
その怒りはただ事ではない。ダーメンを殺したいぐらいである。
ヒルダも同様である。
息子でなければ即刻首をはねていただろう。
悔しすぎて涙目になっている。
事の重大さに気付いていないダーメンがエイベルに近づき胸元をつかむ暴挙に出た。
もはや今のエイベルは国王そのものである。
周りの兵士に即刻取り押さえられてしまった。
「何をしている!我はこの国の王太子だぞ。無礼であろう。たかが兵士の分際で我を押さえつけよって処刑してやる。お前の家族も全員だぞ。離せ!離すのだ!」
まだ理解が出来ないダーメンが吠える。
エイベルが呆れた顔でダーメンを見た後、兵士に告げる。
「離さなくてよいぞ。お前もお前の家族も罰を受ける事など無い安心するがよい。その無礼な男を地下牢に入れておいてくださいね。」
ダーメンは数人の兵士に連れられ地下牢に連れていかれた。
「くそがーーーーー!殺してやるぞーーーーー!覚えていろエイベルーーー!」
ヒルダとドリル達は連れていかれるダーメンを見送ることしかできないでいた。
今はタイミングが悪い何か反論すれば一緒に地下牢に入れられる可能性が高いと考えていた。
「さぁ静かになりましたので、アーロン王の国葬の話を始めましょうか。ヒルダよろしいですね。」
「はい・・・問題ございません・・・・。」
返事をするしかないヒルダである。
顔は下を向き唇を噛みしめ鬼の形相を隠していた。
その後話が進み、国民に国王崩御の知らせを出した日から10日後に国葬を執り行う行う事が決定した。
この時点でアーロンの死亡から1カ月という足止めの時間を作ることに成功する。
1カ月あればフローラ様がビート領のアドルフ様の保護下に入るのに十分な時間が出来た。
エイベルは一先ず胸をなでおろした。
エイベルの活躍によりフローラ達は特に問題なくビート領までたどり着くことに成功する。
この後、正攻法でダーメンを王に就ける事が難しくなったヒルダ達は、強引な手段に打って出るようになる。
エイベルの暗殺を企て始めるのだった。
幾度となく命を狙われるようにるエイベルの前に・・・・・・。




