第11話 門番の男との出会い
次の日の早朝、太陽が昇る前にアーロンの部屋の前にカミラの姿があった。
カミラは楽しみすぎて昨日はほとんど眠っていない。
朝まで待ちきれなくなったカミラはアーロンの部屋の前まで来てしまったのだ。
『コンコン』
アーロンの部屋の扉がノックされる。少ししてもう一度カミラがノックしようとした時。
『バタン』
部屋の扉が勢いよく開くとアーロンが着替えも済ませており準備万端の様子で出てきた。
アーロンも今日の休みが楽しみ過ぎてほとんで眠れなかったのだ。
二人とも遠足の前日の小学生のようである。
眠れなかったアーロンは、エイベルに用意してもらっていた変装用の服を着てカミラが来るのをずっと待っていたのだ。
変装用の服は、街の住人が普段来ているような服であったが、元現代人だったアーロンは王族が着るような堅苦しい服よりもこちらの方が楽で気に入っていた。
もう数着エイベルに用意させて部屋着にしようと思っている。
「わぁー!」
いきなり扉が開いたのにカミラがビックリして一歩下がる。
「遅いぞカミラ。早く城から出て街に行くぞ。休みが終わってしまうぞ。」
「そうですね。早くしないとお休みが終わってしまいますね。早速行きましょう!」
アーロンのその姿を見たカミラの口角が上がった。
満面の笑顔でアーロンと一緒に部屋を後にしようと歩き出す。
カミラはとても楽しくて仕方ない、最近のアーロンが学園時代のように人生を何者にも縛られる事なく自由に楽しんでいるように見えたからだ。
第一王妃と婚姻したぐらいから自由とは程遠くなったアーロンの生活。
王の座に就いてからは、王という重責や第一王妃達の怪しい動きにいつも周りを警戒して、日に日に笑顔も減ってきていた親友を、ずっと見守っていたのだ。
そんなアーロンが昔のように我儘を言ったり、弱音を吐いたり、自由に行動しているのを見ていると、とても嬉しくて自然にテンションが上がってきていた。
「あ!そうでした。アーロンこのマントを着てください。」
カミラが真っ黒なマントをアーロンに渡した。
「ん?なんだこのマントは。」
「姿くらましのマントです。我がエルフ族の秘宝的なやつです。」
カミラが物凄いお宝を当たり前のように出してきた。
「アーロンの顔を見られると、色々と面倒臭い事になるから王城を出るまでは付けておいてね。城を抜けて街に行けば顔がばれることはほとんどないと思いから。もしアーロンの顔を知ってる人がいても、街中に王が居るなんて誰も思わないでしょうからね。」
「俺だけでいいのか。お前もばれるとまずいんじゃないのか?」
「大丈夫よ。私は何時でも城を出られるし、街だって頻繁に出かけてるもの。」
アーロンと違ってカミラはかなり自由にできるみたいだ。
一応この国で一番強い剣士で剣聖とまで言われているカミラが、街に出て騒ぎにならないというのがいささか不思議に思ったがスルーした。
二人は王城の長い廊下を歩きだした。
王城はまだ日の出前だというのにある程度の人数が働いている、メイドや料理人や庭師などがいる。
10代の人族のメイド・年配で大柄な獣人族の庭師の男・人懐っこそうな小人族の料理人の順に、カミラにあいさつをしてきた。
「カミラ様おはようございます。」
「おう!カミラの嬢ちゃん、今日は随分と早いな。」
「カミラ様!又、調理場の方に来てくださいね皆に内緒で美味しいもの準備しときますんで。」
「わぁーー。しー静かにしろ!」
カミラが慌てている。
口に人差し指をあてて料理人に向かって必死で『シーー!』とやっている。
料理人の男は最初驚いていたが、何か理解したようでニコリと笑って手を振りながら調理場の方に走っていった。
カミラは必死に隠していたが、アーロンにはバッチリ聞こえていた。そして、理解した。
カミラが調理場に行ってつまみ食いを普段からしている事に。
どうりで前回一緒に調理場からバームクーヘンを盗み出すとき何の迷いもなくアーロンについてきて素早く風呂敷を見つけて準備できたのはこういう事だったのだ。
「何やってんだカミラ?別に隠すことじゃねえだろ。美味しいものはしょうがねぇよ、食べたいときに食べる事を隠す必要なんてないじゃん。本能には逆らえないしな。」
「人を理性の無い獣のように言うな!」
アーロンはフォローしたつもりだったのだが、逆効果だったようでカミラは拗ねてしまった。
このままではせっかくの休日が台無しになってしまう。
「でもカミラは凄いよ、沢山の人が、親しみを持って話しかけて来ていたろ。立場や種族なんて関係なく皆が対等な関係でいられるって凄い事だからな。俺が目指している国はまさにそんな国だからな。そんな関係を目の前で見れてとても嬉しいよ。カミラ!」
アーロンに褒められたカミラは別人のように元気を取り戻した。
このエルフっ子改めチョロ子としようとアーロンは思った。
アーロンとカミラは城門近くまで来ていた。
「よう!今日もよろしく頼むぜ。荷物の量はいつもと同じだぜ。」
「今日も早いな、ちょっと待ってくれ!すぐに確認するからな。」
門の所で門番の兵士二人と商人の男達が何やら話している。門の所には荷馬車が止められていた。
門番の一人が荷物の数と帳簿を見あわせて確認しているようだ。もう一人は馬車の中に問題がないか確認をしている。
その様子を見ながらカミラとアーロンは静かに馬車の横を通り過ぎようとした時、馬車の中の確認を終えた兵士が馬車から飛び降りて来てアーロンにぶつかった。
『ドン』
「痛い。何だ?何かにぶつかったかな・・・・!」
兵士もアーロンも地面に転んでいる。しかも、ぶつかった時にアーロンが着ていた姿くらましのマントが外れてしまい、尻もちをついた二人が目を合わせている。
「へ・陛・・!ウグッウーウーフガフガ・・・・。」
アーロンの姿を見てしまった兵士が声を上げそうになってしまったので、後ろからカミラが口を塞いで拘束している。
そのまま、アーロン達は門を抜け出し、人目のつかないまで兵士を連れて行った。
アーロンが声を出すなと兵士に言うと、ブンブン頭を動かして返事をしたのでカミラに合図を出して拘束をとく事にした。
「すまんな、手荒な感じになってしまって。」
アーロンが兵士に向かって話しかけた。
「いえ、大丈夫です。でもどうされてのですか陛下?カミラ様までご一緒で。」
兵士が質問してきたのでカミラが説明を始めた。
「ジル!手荒になってしまってごめんね。陛下は今からお忍びで街を視察に出かけるところでな誰にも知られる訳にはいけないの。だから内緒にしておいてほしいのよ。」
「カミラ様そういう事でしたら、了解しました。私の命に誓って内緒にしておきます。」
ジルという兵士はアーロンとカミラの方を向いて敬礼して答える。
「おぬし、ジルというのだな。迷惑をかけたな、夕方には戻ってくるのでその時はよろしく頼むぞ!」
もう一度ジルに話かけたアーロンはカミラと一緒に街の方に歩き始める。
「あ!そうだジルよ迷惑をかけた詫びとして土産に良いものを買ってきてやるから楽しみにしていろよ。」
アーロンは振り返ってジルに向かってニコリと笑った。
その言葉を聞いたジルはすごく感動していた。
一国の王様がただの兵士一人に優しく話しかけてくれ、しかもお土産を買ってきてくれるという。
普通では考えられない状況だ。
「さぁカミラ今度こそ本当に出発だ。街を思いっきり堪能しよう。」
「そうですね、お腹もすいてきましたし、楽しみですね。」
ちょうど朝日がでて明るくなった道を二人は急ぎ足で街の方に歩いて行った。




