第10話 王は休日を獲得する
あれから数日経つが未だに休日を貰えていないアーロンは、今日も不満の言葉をエイベルとカミラに訴え続けている。
「エイベルさん?そろそろマジで限界なんですけどー。ねえ、聞こえてますかー?」
「王様ですよー!王様のお言葉はだいじですよー」
王様の威厳などもうどこにも無い。皆無である。こんな所を家臣にでも見られたら大事である。
エイベルはそんなアーロンを見て、ため息をつきながらこたえる。
「仕方ないですねぇー。とは言え確かにこの最近はずっと仕事をして頂いたので大分余裕もできましたし、明日一日は自由にしてもらって大丈夫ですよ。ただ、そこの脳筋を護衛で連れて行ってくださいね。」
「本当かエイベル!」
「本当ですよ、お・う・さ・ま!」
アーロンは机から立ち上がりガッツポーズを決めている。
「脳筋とは私の事なのかな?エイベル!」
カミラがエイベルをにらみつけていた。
「そうです。あなた以外に誰がいるんです?アーロンを100%安全に護衛できる人間が他にいましたか?剣聖としてお願いしますね。」
「そういう事なら、私以外に居ないな。任せておけ。」
「なぁー、アーロン!」
カミラは腕をブンブン振り回しながら自信満々で答える。
アーロンは明日の休みに何をしようか考えている。
この世界で覚醒して二週間が過ぎていたが、まだ一度も王宮以外を目にしていないアーロンは王都の街が、ずっと気になっていた。
記憶の融合で知識は有るがやはり、生で実感したかったのだ。
「よし!明日は城下巡りをするぞ。カミラ護衛を頼むぞ。」
カミラからの返事が無い。カミラは、明日何をしようか思案中のようだ。
顔の表情をコロコロ変えながら何やら計画をねっている。
「アーロン今日はもう結構ですよ!後は私がやっておきますのでお部屋に戻られてください。出来ればカミラも連れて行っていただければ助かります。」
エイベルにそう言われてカミラを連れて部屋を出ようとしたが、カミラはまだ思案中みたいなので放置して、一人で部屋に戻ることにする。
久しぶりに、身も心も解放されたアーロンは部屋に帰る前に城の中を見て回ることにした。
オフィス(執務室)を出て初めに向かったのは、中庭である。
中庭の中央には立派な噴水、その傍の藤棚にテーブルと椅子があったのでアーロンは腰かけた。上を見上げるとフジの花が綺麗に咲いていて、その隙間から優しい陽の光が降り注いでくる。心地よい風がアーロンを包み込んだ。アーロンはしばらく目を閉じで全身で自然を感じていた。しばらくそうしていると風に乗せられて甘くて良い香りが運ばれて来た。
「ん?なんか甘い匂いが。」
甘い匂いにつられてアーロンが周りを見渡していると、ある者を見つけた。
植木の向こうで、小さい女の子が中庭に面した窓から部屋の中の様子を覗き見している姿だ。気になったアーロンは椅子から立ち上がり幼女に近づいて行った。藤棚からは植木が邪魔で上半身しか見えていなかったが、全容が見えた時アーロンが大笑いをした。
「ぷっ、あはははは!何をやっているのだ二人とも?」
その笑い声に二人が同時にこちらを見てくる。
「父上ーー!」
「アーロ・・陛下!」
そこにいたのは次女のアンジーと、アンジーの下で馬のように四つん這いになっているカミラだった。
アンジーが覗いていたのは調理場で、甘い匂いが気になったアンジーが部屋を抜け出し一人でここまで来たようだ。
来たまでは良かったが、背の低いアンジーでは窓に届かなくて困っていたら、ちょうどアーロンを追いかけてきたカミラと遭遇し、アンジーがカミラを台座にすることにしたらしい。
「よく似合ってるじゃないかカミラ。」
カミラは赤い顔をしてすぐに立ち上がる。
「陛下一人で行動されては困ります。」
カミラに起こられてしまった。
「でもどうしてコソコソ隠れて中をのぞいていたんだ。アンジー」
アンジーがモジモジして何も言わない。何か言えない訳があるんだろうな、どうしようかと考えてると。
カミラは理由を知っているようで淡々と話し始めた。
「それはですね、つまみ食いが出来ないか伺ってたんですよ!アンジー様は姫様ですから、覗き見がはしたない事だと理解はしていたのですが。この甘い匂いの前では我慢することが出来なかったのです。しかし、仕様がありません!これがフローラ様であっても同じ結果だったでしょう。ねーーアンジー様」
アンジーはブンブン頭を縦に振つている。
「そうか・・!」
アーロンもその匂いにつられて周りを見回したのだ。その気持ちはすごくわかる。
アーロンもお菓子が食べたくなっていたので、この際アンジー達の計画に乗っかって甘いお菓子をゲットすることに決めた。
「よし。アンジー、その計画に父も入れてもらえないかな?一緒にお菓子を手に入れようではないか!さぁ!まずはこの甘い匂いの正体を暴いてやろうぞ。」
「それでこそ、アーロンです。私もお手伝いしますよ。アンジー様もよかったですね。」
アーロンの反応にカミラはテンションが上がったのか楽しそうに乗っかってきた。もう敬語すら忘れている。アンジー様もテンションMAXで嬉しそうにピョンピョン跳ねて喜んでいる。
「ちちうえ、こっちからなかがみえるです。!」
「冒険者アンジーよ案内ご苦労である。」
アーロンは冒険者に憧れているアンジーに合わせた設定を追加してみた。
アンジーは益々テンションが上がって笑顔がこぼれている。
窓から中を覗いてみるとそこは厨房で、たくさんの焼き菓子があった。クッキーやマドレーヌ奥のオーブンでは特大の棒に刺さった状態のバームクーヘンが焼きあがっている。この匂いはあの特大バームクーヘンかな。
「冒険者アンジーよターゲットはどれだ!父はあの大きいバームクーヘンが良いと思うのだがどうかな?」
「あたちも、ばーむくーへん?がいいー。」
「私もあのバームクーヘンが良いかと思っておりました。」
アーロン達の気持ちは一緒である。アーロンはあの特大バームクーヘンをターゲットに決めた。
先程まで厨房で作業していた料理人がタイミングよく部屋の奥に入っていった。
その隙をアーロン達は見逃さない。素早く窓から中に入ったアーロンとカミラはバームクーヘンの前まで行くと、どこから用意して来たのか大きい風呂敷みたいなものを広げて準備している、アーロンはすぐに特大バームクーヘンを棒のまま持ち上げその風呂敷で素早く包み、二人であっという間に運び出したのだ。
息の合った素晴らしい身のこなしだったので、アンジーはその早業を見てビックリしていた。
「冒険者アンジーよ!悪者に見つからないうちにこの場から離れよう!」
「はいです。ムフフ。」
バームクーヘンを盗み出した三人は藤棚の方に駆けていく。
三人は藤棚にある椅子に腰かけて特大バームクーヘンをテーブルの上に置き何処から見つけてきたのか分からない風呂敷を開いた。
目の前で見ると本当にデカい、アンジーよりも大きいサイズである。
アンジーもカミラもすぐにでも食べたいようでよだれを垂らしている。
「冒険者アンジーよ、この獲物はそなたが初めに見つけたのだから一番最初に食べるのだ!」
アーロンの言葉に少し戸惑っていたが、アンジーは特大バームクーヘンを手で掴み取って口いっぱいににほうばった。
「モグモグ・・・ちちうえとてもおいしいですー!」
「おいしいか!それは良かった。アンジーが喜んでくれて父も嬉しいよ。」
アーロンは、小さな手でバームクーヘンをおいしそうに食べているアンジーの姿が可愛くてずっと見ている。
それを見ていたカミラは待ちきれずに、大きな手で豪快にバームクーヘンを食べ始めた。
「アーロンは変わりませんね、学園時代に学園の厨房に忍び込んだのを思い出しましたよ。あの時はエイベルと三人でしたが。アンジー様はアーロンによく似いますね。」
三人でバームクーヘンを堪能していると。
『カチャカチャ』
紅茶の入ったティーカップがテーブルに置かれた。三人が振り返るとエイベルがお茶の準備をして来ていたようだ。
「陛下何をされているのですか?お部屋に帰らずこんな所で楽しそうですね。私もご一緒させていただいてよろしいですか?」
「もちろん。さぁ座ってくれ」
その後、みんなでお茶会をして解散することになった。
アンジーは、部屋から抜け出したのがばれてメイドに連れていかれた。アーロンがフォローしていたので大丈夫だろう。
調理場の方ではちょっとした窃盗騒ぎが起きていたが、エイベルが上手く誤魔化してくれていたので、第一王妃の耳に入る事は無いだろう。




