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しーい

 

「いや、それ顔に出てますし。皆知ってますしぃ。でも、他にあの絵たちをなんと呼べばいいか謎ですしぃ。かわいいじゃないですか、絵獣かいじゅう


「……ドロテアが言い出したのを、私が知らないとでも? あと、私のこと、陰で『画伯』って呼んでることも知ってるわよ?」


「あらま。まあまあ」


 フィネはドロテアをジト目で見たが、ドロテアは涼しい顔でそっぽを向いた。


「まあ、いいわ。今日も手伝ってくれる?」


「はい、もちろん。これも秘密っちゃ秘密ですね?」


「サプライズは秘密なのかしら? ただの内緒、でしょう?」


「では、準備します。その前に警備の確認をしてきます。カール様が嬉々としてあっという間に突き止めるでしょう」


 そう言ってドロテアはフィネからくだんのカードを預かって退室していった。

 次兄カールは伯爵を継ぐ長兄クラウスの補佐を行い、伯爵家の騎士たちを束ねている警備責任者でもある。


「会いたいだけなんじゃないのかしら」


 ふふふとフィネが笑った。

 ドロテアとカールは恋仲なのである。

 身分を気にして必死に隠しているようだが、バレていないと思っているのは本人たちだけ。モロバレどころか、思春期を迎えたあたりからは「早よぅくっつけばいいのに」と周囲から心配されており、付き合いだした現在では、変に初心うぶなカールがいつドロテアに求婚するのか、邸内では賭けの対象にすらなっている。

 フィネはカールからではなくドロテアから猛攻すると見込んで、「カールは求婚しない」に結構な額を賭けていた。


 姉のようなドロテアが、義姉になる日をフィネは心待ちにしている。


 シェルテル家は堅実な伯爵家である。

 子どもたちが政略結婚をせずとも、家の存続も領地経営も揺らぐような要素はない。

 父も母も、願うのは子と領地の安寧であって、どこぞの家と繋がって更なる権力を強めようとかは一切無い。


 長兄クラウスは昨年学園の同級生と婚姻してまもなく第一子が誕生するし、妹のアリシアは庭師になったマテューにメロメロである。


 マテューも満更ではなさそうだが、アリシアが主家の娘であるために、表面上はわきまえた距離を保っている。


 ……耐えられなくなると、マテューはフィネの部屋に突入し、「アリシアたんかわいいぃぃぃぃ」と床に転がりながら一頻ひとしきもだええ、気が済んだら何事もなかったように帰って行った。


 私も主家の娘だが……とは、乳兄弟のよしみで言わないでおく。


 数ヶ月早く生まれただけで兄ぶるマテューが、義弟になる日もフィネは楽しみにしていた。


 兄弟の中で、フィネとダリウスの婚約が唯一政略っぽい要素を含んでいるが、それだけではないことをフィネはきちんと知っていた。





 ダリウスが十四歳の時だった。

 九歳のフィネの静かな微笑みに、ダリウスの心臓にタンッと恋の矢がクリティカルヒットしたのである。


 ちなみにこの時のフィネは、父親の膝の上でプルンプルンのプリンを「あーん」させられており、死んだ目で諦念して笑っていただけである。


 ダリウスは学園でクラウスやカールと一緒にいることが多かった。二人から妹たちが……という話を聞く度、兄二人と弟二人を持つ五人全員男子の真ん中っ子のダリウスは、「妹」という存在に惹かれた。

 そして学園が休みの日に伯爵家に遊びに来て、こっそりと見たフィネにガツンと一目惚れしたのである。


 白黒で平坦だったダリウスの心に色とりどりの花が一斉に咲き誇った瞬間だった。


 絶対にフィネを逃がしたくないダリウスは、無表情だがそれはもう必死に根回しをした。


 困難があっても「僕のフィネ」のためだと、己を鼓舞した。


 レーナー家とシェルテル家が結び付けば各種事業もはかどって良いこと尽くしであり、結び付きを強めるためには両家の婚姻が有効で、年齢が合うのはダリウスとフィネだとして、婚約の打診を自分の父親に提案した。


「……ダリウスや」


「はい、父上。何か疑義でもありましたでしょうか?」


 一通りレーナー家とシェルテル家について提案プレゼンをし終わったダリウスは、ドヤァと父親を見た。


「シェルテル家と縁続きになることに異存は無い。だが、年齢が合うとすれば、お前ではなく末子(まっし)のコンラディンだろう。お前はフィネ嬢の五つ上、弟のコンラディンは同い年でお前同様婚約者はおらん」


「いえ、同い年では婚姻後、妻とすぐ生まれるだろう我が子を養うことは難しいかと。その点、私は二年後に卒業したら王宮で魔法省に勤めることはほぼ確実です。そこで実績を積みますので、余っている伯爵位か子爵位をください。フィネ嬢が十六歳で学園を卒業したらすぐに婚姻します」


 必死に自分がフィネと婚姻するのだと訴える息子に、レーナー侯爵は見当違いな感動をしていた。


 この子はこんなに喋れるんだな、と。


 一方、側に控えていた家令や侍女たちは、すぐに妊娠させる気満々の十四歳のダリウスに内心ドン引きしていた。

 いや、十四歳が九歳と結婚するわけではないのは分かっているが、二十一歳が十六歳と婚姻……。ありか、ありだけど、ありなんだけれども、釈然としなかった。


 そんな温度差にも気が付かず、レーナー侯爵は沈思した。

 思えば、ダリウスが部屋に引きもってしまったのは、庭の白い花が綺麗だと言った瞬間、庭中にその白い花が咲き誇り、それが敷地を越え町をも飲み込んだ時からだった。

 自分の気持ちが勝手に魔法を発動させると分かると、ダリウスは心を平坦にして極力人とも会わずに過ごすようになった。

 神の性質は人間に制御出来るものではない。ダリウス自身、自分が恐ろしかったのだろう。

 それまでは、なんだか自分の思い通りに物事が進むなんて幸運ラッキーだな位にしか認識していなかっただろうダリウスは、とても感情豊かで活発な子どもだった。

 だが、一面の白い花を見て、コレは人間の力ではないと知るに至った。

 それからは『人間』として落ち着くまで静かに静かに生きてきた息子が。


 まあ、よく喋る。


「……聞いていますか? 父上」


 ずっと、ダリウスがフィネと婚姻することこそ正義であるみたいなことを喋り続ける息子を見て、レーナー侯爵は面白くなった。

 学園で良い友と巡り会ったことは既に知っていた。

 同じく『神還り』だったシェルテル家の兄弟。


 『鬼神』と周辺国と騎士団内部から恐れられているシェルテル騎士団長が、育児のために職を辞すると国王陛下に願い出た時、陛下はシェルテル騎士団長に抱き付いて引き留めた。……泣きすがったとも言う。(←現場にいた)


 しかしながら、『神還り』の神の怪力と神の心、しかも年子で二人授かるという、親としての正念場にシェルテル騎士団長の決意は固く、陛下を引きずりながら難なく歩き、帰宅した。


 驚いたのはシェルテル夫人である。

 夫が国王をくっつけて帰れば、それは驚くだろう。

 夫→国王→護衛→大臣どもがぞろぞろとやって来たのだから。(←ついて行った一人)


 渋るシェルテル団長を夫人が説き伏せ、辞職ではなく、子らが『人間』になるまでの休業となった。

 以来、シェルテル夫人は王宮内でひっそりと女神と呼ばれている。


 そのシェルテル家の娘を我が息子が望むとは、縁とは面白い。


「ふむ……、お前の主張は分かった。ならば、フィネ嬢と婚姻するのはコンラディンにして、お前が今述べた境遇を全て侯爵家で用意してやれば良かろう? それぐらい容易たやすかろうに」


 レーナー侯爵は、ダリウスの口からきちんと言葉として引き出したかった。

 自分が自らの意思でフィネを望むのだと。

 神の力を(おそ)れ、自分の望みを考えることも口にもしなくなった息子に対し、その殻を破り、真っ直ぐに手を伸ばして望んで見せろと父は暗に迫ったのである。


「……父上は、私ではフィネ嬢に相応しくないとお考えなのですね」


 ん?


「神の力を持て余し、他人との関わりを断った人間は、この侯爵家の一員としてシェルテル家と姻戚いんせきを結ぶのに相応しくないと」


 んん?


「……好きで還ったわけではありませんが、父上も母上も生まれた子が私で落胆されたのでしょう。……分かりました。私は侯爵家を離れます。シェルテル家との話は全て白紙にしておきます。既に動き出している事業もある程度丸めて収めます。レーナー家の者ではなくなりますので学園は退学します。……では、今まで世話になりました」


 やばいこじれたと焦るレーナー侯爵の「待て待て待て待て」という声も聞かずに、ダリウスは転移魔法でその場を去った。


 真っ青な顔のレーナー侯爵がダリウスの部屋や学園を探し回るも、ダリウスの転移魔法に敵う者はおらず、いつも追跡が後手に回り、自ら学園を退学したダリウスはとうとう行方知れずとなった。


 水面下で探しに探したレーナー侯爵が、ようやっとダリウスを発見したのは、およそ半年後のことである。


 シェルテル伯爵家の騎士団にいた。



 家令たち

 ↓

 家令や侍女たち に変更しました。


 家令をはじめ侍女や護衛たちが並んでいる感じでしたが、家令は一人なので「たち」は違和感ですよーと教えていただきました。


 ありがとうございましたm(_ _)m。

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