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半人の魔姫  作者: duce
序章「半魔の少女」
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2話「悪夢(2)」

 次に目覚めたのは日が暮れる頃だった。

 眠りにつく前は太陽は上っている途中にあったことからかなりの時間眠っていたようだ。


 ――コレットの寝顔、すっごくかわいかった!しっかり堪能できてよかったなー


 ずっと前に起きていたであろうクララは純粋な笑顔を向けていた。「堪能」という言葉を聞いて、眠っている間にフードの中を見られなかったかと一瞬ヒヤリとしたが、クララの態度が普段と変わっていなく、フードも外れた形跡がなかったようでコレットは安堵する。

 目を覚ましたのにも関わらず、コレットの身体はいつも以上に重く感じられ、その頭の中では眠る前のやり取りが何度も繰り返されていた。

 

 帰る際にもクララは楽しげに話していたが、コレットは無理やり笑顔を作るだけで精いっぱいだった。村に戻り、クララはコレットに別れを告げるとそのまま家の方向へと走り去っていく。コレットはその背中を複雑な思いで見送ると、重い足取りで帰宅するのだった。

  

 眠っていた時間が長すぎたのか、その日は全く眠れなかった。静かな自室はコレットの心の内で響く苦悩を拡大するかのようで、心細く感じられた。


 翌日、一睡もできなかったコレットのもとにクララの両親が慌てて訪ねてきた。

 そこでコレットは衝撃の事実を知ることとなる。


 あの日、クララは家に帰っていなかった。


 それを聞いたコレットは頭を殴られたような衝撃を感じた。

 今までの幸せだった日々のしわ寄せが一度に来たのだろうか。この身に課せられた残酷な運命は友人との未来だけでなく、友人自体をも奪おうとするのか。

 

 すぐさま村中でクララの捜索が開始されることになった。

 建物の裏から一つ一つの木の上まで、日が暮れるまで探した。しかし、その努力を裏切るかのように痕跡すら見つけることはできなかった。


 村の外へ捜索の範囲を広げても何の成果も得られぬまま捜索も十日目を迎えた日、相変わらず手がかりすら見つけることができなかったコレットは村へと戻ると、何やら村の住民がざわついているようだった。


 半人半魔の身分でのうのうと暮らしていたことに対する天罰か、現実はコレットを不幸な運命へと引きずり込もうとしているかのように追い打ちをかける。


――魔族が子供を襲っていたんだ!


 そんな噂が村の中に流れていた。

 どこから流れた噂なのか、嘘か真実か、魔族とは誰のことを言っているのか、謎に包まれた噂ではあったが、クララの失踪の直前に会っていたのはコレットだということは知れていた。それに加えて、そんな少女はいつもフードを被っているときた。まるで何かを隠しているかのように。

 そんなコレットにに疑惑の眼差しが向けられるのはある意味必然とも言えた。


 「そんな…私じゃない…!」

 過去の自分を見ていたコレットの口からも同じ言葉が漏れた。


 疑惑を受けた姉妹はすぐさま拘束され、村に隔離されることになった。

 クララがいなくなったあの日、二人はいつも通り村の中で別れている。その後家に帰るとフローラは夕食を作っており、家を離れた形跡もない。姉妹が行ったことはあり得ないのだが、村人には苦し紛れの言い訳だと一蹴され、信じてはもらえなかった。

 昨日までは村全体が一丸となっていたのに、今はその団結に姉妹は含まれていない。


 数日後には討伐隊が派遣された。人が変わっても状況は変わらず、彼らはコレット達の言い分を聞こうともしていない。

  討伐隊の戦士になすすべもなくフードをはがされた姉妹の頭部には小さな角が生えていた。


 ――やはり魔族だったのか!


 それを見ていた村人は口々にそう言い放つ。

 まるで獣を見るような視線を姉妹に向ける人々の中には今まで仲が良かったはずのクララの両親の姿まで見られた。

 

 ――お前が襲ったんだろ!


 「違う…私はクララを襲ってなんかない…!」


 コレットは叫んだ。


 「姉さんも…私も…何も悪いことはしてない…!」


 何度も何度も無実を訴え続けた。喉から水分がなくなるまで何回も。しかし、コレットに向けられる視線は変わらない。唯一反応を示したのは、隣で拘束されているフローラだけだった。姉はかすれた声で叫ぶ妹を悲痛な顔で見つめていた。


 人間の村に迷い込んだ魔族は、理由はどうであれ、殺害される。それはコレット達も例外ではない。

 討伐隊や、村人にとってはコレットがクララの失踪の犯人なのかどうかは、もはや関係なかった。

 派遣された戦士の中でもひときわ恰幅のよい男が、腰に携えた剣を抜刀した。よく研磨された刃は鏡のようにコレットの姿を映し出している。


 「ぁ…」

 

 コレットの口から漏れ出したかすれた声が部屋の中に響いた。男はそんなコレットを一蹴するように鼻を鳴らす。夢の中であってもコレットは死への恐怖をはっきりと感じていた。


 ――悪いがこれも仕事なんでね


 男はそういうとその剣を振り上げた。罪人を裁く処刑人のように大きく。その刃がコレットの首に向け振り下ろされる瞬間。


 間に割り込む影があった。その影は男に飛び込み、そのまま男を突き飛ばす。

 

「コレット!逃げるわよ!」

 

 影の正体はさっきまで隣で拘束されていたはずのフローラだった。その身体はいつの間にか拘束を解いている。

 純粋な人間よりも少しだけ優れた力で、コレットの拘束していた縄を引きちぎるとコレットを抱きかかえる。フローラは扉を蹴破り、外へと逃げだした。

 それと同時に夢の世界もガラスが割れるように瓦解していく。崩壊寸前のコレットの心を救ってくれたのはずっと一緒に育ってきたフローラの柔らかく、温かい手だった。


 そうして姉妹の長い長い逃亡劇が始まったのだった。

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