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半人の魔姫  作者: duce
一章「使い物の命」
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12話「架け橋」

 調査団と共に重い足取りで村から退いていく黒髪の少女、ラティファの後姿をコレットは自室の窓からのぞいていた。


 「ゆっくり休めた?」

 様子を見に来たフローラの言葉でコレットは窓から視線を戻した。


 「うん。おかげさまで」

 コレットは微笑みながら答える。その笑顔を見てフローラも嬉しそうに笑った。

 

 コレットは続いて自分の部屋を見渡す。そこにはベッドしかない殺風景な空間が広がっていた。部屋の隅には埃を被ったタンスが置いてあるだけだ。

この部屋に家具は一切ない。いつでも村を離れることができるようにと生活に必要最低限なものだけを揃えた結果、年頃の少女の部屋とは思えない風景になってしまった。久しぶりの自室の風景に少しだけ寂しさを覚える。


 もし、人間の調査によってこの場所が突き止められてしまったらまた逃げ惑う日々が続くのだろうか。そんな弱腰な考えが浮かびかけた。


 だが、今のコレットにはあの時とは違い、抵抗する力がある。そう考えると不安はすぐに消え去った。むしろ、今の自分と姉ならどんな相手だろうと負けることはないと確信していた。


 「心配しなくても大丈夫よ、ここはばれていないから」

 コレットの送っていた視線に気づいていたのかフローラが安心させるように言葉をかける。


 その言葉を証明するかのようにフローラの瞳が淡い光を放つ。

 それはフローラの能力が発動したことを証明していた。ラティファがここでの一件を報告しようとした時、彼女の心に埋め込んだ命令が自動的に彼女の行動を制限する。それはフローラの意思では行われず、事後報告という形で、フローラの瞳に現れる。



 「…あまり酷いことはしないでね?」

 そんな様子を見て、姉が手を回したのだということはコレットにも察しがついた。

 人間に対しては非常に冷淡な側面をあらわにすることが多い姉にコレットは軽く注意を促す。



 「大丈夫。コレットが望む限りは私も手出しはしないわ。私はあの子を背中を押す手助けをしてあげただけ。道を選ぶのはあの子の意思よ」

フローラの言葉を聞いて、そういうことじゃないんだけどと思いながらも、コレットはそれ以上何も言わなかった。


 「私も非情になったのかな…」

 コレットは自虐を含めてそうつぶやいた。以前のコレットであれば必死に頼み込んででも姉に釘を刺したのだろうが、今ではそこまでの気持ちにはならない。


 「いいえ、貴女は優しいままよ。誰が何と言おうとそれは変わってないわ」

 妹から暗い影を読み取ったフローラは優しく包み込むように語りかける。

 「ありがとう…姉さん」

 その言葉を聞いてコレットは嬉しそうな表情を浮かべた。たとえ根拠のない詭弁であったとしても、姉が自分の事を認めてくれている。その事実だけがコレットの心を解きほぐしてくれるのだ。


 「姉さんの言葉には本当に不思議な力が込められてるみたい、何もしてなくても、姉さんが言うだけで全部本当のことを言われている気持ちになるの」

 「ふふっ、それじゃあもっと言ってあげましょうか?」

 「もう…ありがとう、姉さん」

姉の冗談交じりの言葉にコレットは感謝を込めて笑顔で答えた。しかし、その頬は僅かに紅潮しており、隠しきれない照れくささはフローラの庇護欲を刺激する結果に落ち着いたのだった。


フローラはそんな妹の頭を撫でると、再び口を開く。


 「さっきの子の事だけど……。コレットはどうするつもり?」

 フローラから投げかけられた質問にコレットは即答できなかった。


 コレット自身、ラティファのことをどう思っているのか、自分自身でもわからなかったからだ。

 最初はいずれは相対するものだと思っていた。彼女は人間で、魔の血が通う自分達とは相容れない存在なのだ。あの夜、ラティファの対話に応じたのも何か情報が得られるのではないかという単純な理由だった。


 しかし、ラティファと話していくうちに彼女への興味が湧いてきていた。魔族に対して問うた時のラティファの表情が脳裏によみがえる。何かのためにフローラの痕跡を追い求め、そして彼女もまた何かに追われているかの焦りを含んだ表情。

 過去の自分によく似たラティファの事を思うと胸の奥がきゅっと締め付けられるような感覚に襲われる。


  もし、その何かから彼女を解き放つことができれば、自分たちの事に理解を示してくれるかもしれない。


 「私は…ラティファさんの力になってあげたい」

 気が付くとコレットの口からは自然とそんな言葉が出ていた。それを聞いたフローラは優しく微笑む。


 「それがコレットの望みなら」

 フローラはそれだけ言うとコレットを抱きしめた。

 「姉さん……」

 突然の姉の行動に戸惑いつつも、姉の温もりを感じながらコレットはその身を預ける。

 しばらくの抱擁の後、フローラはコレットの頭を撫でながら話しかける。


 「それじゃあ、やるべきことも決まったし、そろそろご飯にしましょうか」

 「…うん!」

週に一回(2週間ぶり)になりました…

…次こそは1週間に1度はお見せできるように頑張ります!



良かったら評価してやってください!筆者が飛んで喜びます!

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