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90話 頑張ったやつが、ちゃんと愛される世界。


 90話 頑張ったやつが、ちゃんと愛される世界。


 『妄言も大概にしろ』と言いかけて、しかし、そこで、カンツの脳裏に、何か、『名状しがたい記憶のようなもの』が走った。『親よりも、隣のおっさんと一緒にいる時間の方が長かった幼年時代』……という、存在しない記憶が脳の深部でまたたいている。


(なんだ……この記憶は……いったい……)


 解像度は低いけれど、なぜか、輪郭だけはハッキリしている想い出。

 そんな記憶はないはずなのに、なぜか、狂おしいほどの『想い出』が胸の奥から、あふれかえってくる。

 気付けば、涙が出ていた。

 理解できない感情の昂り。


 カンツが不思議そうな顔をしている向こうで、

 センは、心の中で、


(心配する必要はなかった。お前は、生まれた時から、ずっと、正義の化身で在り続けた。どんなに辛い目にあっても、世の不条理を痛感しても……その手で救える命には限界があると理解してからも……お前は、絶対に折れることなく、弱い命のために、その身も心も奉げ続けた……)


 センの中で、『神の王』だった時代の記憶がふつふつと沸き上がる。

 そして、それは、『カンツに関する記憶』だけじゃない。


 ここにいる全員分の記憶が、頭の中で駆け巡る。

 全員の一生に付き添ってきた訳ではないけれど、

 各々の重要な局面は、それなりに見届けてきた。


(絶対に死なせねぇよ。シュブだろうと、カミノだろうと、運命だろうと、なんだろうと……絶対に、お前らを殺させはしない。……お前らは、命の希望だ……)


 この場にいる全員に対する想いが暴走していく。

 記憶と一緒に、覚悟も膨らんでいく。

 『積み重ねてきた全部』が、さらなる質量を獲得していく。


(……お前らみたいな『希望』を守るために……俺は力を求めたんだ……『弱い命のために、折れずに頑張り続ける清廉な命』が……正しく機能し、そして、報われる世界をつくるために……『頑張ったやつが、ちゃんと愛される世界』を継続するために……無粋な暴力に、大事なものを奪わせないために……ずっと、ずっと、頑張ってきたんだ……)


 センは、歯を食いしばって、


「だから、絶対に折れてやらねぇ……」


 とびっきりの覚悟で、世界を威圧する。



「……ヒーロー見参……」



 別に、それで、何か、特別な覚醒があったわけじゃない。

 何も変化はない。

 ただ、覚悟を口にしただけ。


 ――だが、明らかに代わった点が一つだけある。

 ザザザザザと、センは、平熱マンの剣で細切れにされた。

 これまでなら、それで死んでいた。

 しかし、センは、


「ははは……」


 一度、笑ってから、


「さあ、ここから、大変だぞ、お前ら……裏スペシャル『人間失格』が、これまで以上に、俺を穢していくのを感じる……『俺を殺す』のは『殺虫スプレー一本で、地球上からゴキブリを完全に殲滅する』ぐらいしんどいぞ……くくく……つまりは、不可能だ」


 細切れになったセンは、細切れになったまま、

 どこぞの、赤っ鼻みたいに、バラバラの肉体を自在に操って、

 『最後のあがき』を継続する。



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