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89話 大きくなったなぁ、カンツ。


 89話 大きくなったなぁ、カンツ。


「もう、終わりだろう! そこらでやめておけ! このままだと、いずれ、底をつきるのは見えている! 無駄に殺されるのは、もういいだろう!」


 と、このに及んで、まだ、そんなことを叫ぶ。


 どれだけ、意識に悪意をもったテコ入れをかまされていたとしも、

 カンツの精神力は、その手のたぐいをぶちやぶって、自分の理念をぶちかましてくる。



「……」



「それ以上、無意味に死ぬ必要はない! 諦めて、投降しろ!」


 警察官のトップ。

 それが、元の世界におけるカンツの役割。

 拷問官でも暗殺者でも死刑執行人でもない。

 ――警察官。

 犯罪者を無力化することを職務とする者。

 カンツは、ずっと『その立場』を徹底してきた。

 警察官としての理想の姿。

 悪を絶対に許さない正義の化身。

 最強格の権威を有しながら、しかし、その権力に溺れることは絶対にありえない高潔さを持ち合わせている。

 優れた才能を持って生まれ、それなのに、おごることなく、狂気の努力を続け、この世の不条理を知りながら、しかし、それでも、一切ゆがむことなく、弱い命を守るために、全力で、その命と覚悟を世界に捧げ続けてきた修羅。


 カンツの根底にある『優しさ』のようなものを、

 センエースは、理解している。

 カンツがいかに戦士として優れているか……そんなことよりも、カンツが、どれだけの深い愛を胸に抱いているか。

 そこの部分を、正式に理解している。


 センは、

 この期に及んで、まだ、センを殺すことを是としていないカンツに、



「……大きくなったなぁ……カンツ……」



 と、ゆがみのない感想を口にした。

 そんなセンの発言に、カンツは、


「今のワシは究極超神だからな! まあ、大きいだろう!」


「そんなもんはどうでもいい……そんなちっせぇ肩書きを、いまさら、大きいとはおもわねぇよ……ナメんな、ボケ」


 センは、苦笑しながら、そうつぶやいた。

 それに対し、カンツは、


「……」


 一度、含みのある無言をクッションにしてから、


「なぜ、そんなに悲しい顔をしている、センエース」


 と、真摯な質問を投げかけた。

 その間、周囲のメンツは、黙って見ている。

 一応、センが動けばいつでも迎撃できるように、準備はしているが、

 しかし、みな、カンツの『想い』は理解できているので、

 黙って、趨勢を見守っている。

 ここに空気の読めないバカは一人もいない。


 ――『なぜ哀しそうな顔をしているのか』というカンツの問いに対し、

 センは、再度、苦笑を浮かべて、


「……死ぬのが嫌だからに決まってんだろ。当たり前のことを言わせるなよ」


「……」


「いやぁ……しかし……ほんと……ほんとに、でかくなったなぁ、カンツ……はじめて会ったときは、片手で持てるくらい、小さかったんだけどなぁ」


「初めて顔を合わせた時と今で、サイズ的な違いは、まったくないと思うが?」


「……お前は、生まれた瞬間から、別格でなぁ。赤子の時から、とにかくオーラがハンパなかった。抱っこしたら、重くてなぁ」


「同級生なんだから、ワシが赤子の時は、お前も赤子のはずだが? それは、いったい、どういうタイプの妄想だ?」


「桁違いの魔力とオーラを誇る赤子が、間違った道に進んだら大変だから、3歳になるまで、ずっと、隣の家に住んで、見守ったんだよ。せがむから、何度もおんぶしてやったんだぜ。髪掴まれて、ひっぱられて、痛かった。まわりの子より、常に一回り以上大きくて、3歳児なのに、握力がハンパなくてなぁ。なつかしいなぁ」


「……何を言って……」


 『妄言も大概にしろ』と言いかけて、しかし、そこで、カンツの脳裏に、何か、『名状しがたい記憶のようなもの』が走った。

 『親よりも、隣のおっさんと一緒にいる時間の方が長かった幼年時代』……という、存在しない記憶が脳の深部でまたたいている。


(なんだ……この記憶は……いったい……)


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