76話 600はいける。ぶっちゃけ、余裕で超えられる。
76話 600はいける。ぶっちゃけ、余裕で超えられる。
今回の件で、センは、認識をあらためることができた。
『センエースには、田中ですら不可能なことを可能にできる……部分もある』
――本当は分かっていたところではあったのだが、
しかし、その『事実』を、
あらためて、ちゃんと、正式に受け止めることが出来た。
『600という少ない回数で折れてくれたこと』が、
本音の部分で言えば、めちゃくちゃありがたかった。
『それだけは超えよう』という明確な目標になった。
『1億ぐらいはやってみせろよ』と文句を言ったセンだったが、
しかし、実際に、田中が1億回を軽々とクリアしていたら、
……マジで折れていたかもしれない。
『頭脳』では絶対に勝てないが、『根性という点では、自分の方が上だ』と、今回の一連で、再認識できた。
そして、500億は遠すぎてビジョンが見えないが、600回なら、現実的だから、目前の目標としては優秀だった。
ゆえに、口では『10回もむりかも~』などとほざいているが、
実際のところは、
『600ならいける。俺なら確実にいける。その程度なら、普通に超えられる。そして、そこを越えたら、俺は田中以上を名乗れる。いいねぇ。悪くないねぇ。とりあえず、600回は絶対に超えよう。うん、そこだけは絶対』
と、目の前の目標に対して、普通にやる気が湧いていた。
――そんな、センの、『ゆがんだ心境』を、ヨグは完全に見通している。
『察するだけ』なら別にいいのだけれど、ヨグは、
「……『ライバルの無様を目の当たりにした優越感』を原動力にするとは……とても主人公とは思えないゲスで鬼畜な諸行。そんなザマで、よくもまあ、命の王を名乗れるものだ。恥を知れ、恥を」
「うっさい、うっさい、うっさぁああああああああい! 黙れぇえええええええ!」
心の隙間をナイフでエグってくる、アウターゴッドの王様。
むき出しになった『人間の弱い部分』を的確に攻撃されたことで、センは、『全力反抗期の中学生』ばりの勢いで、
「絶交! お前とは絶交! もう二度と話しかけてくんな! 俺とお前との間には、もはや人間関係は存在しない! 俺、お前、嫌い! マジで生理的に無理!」
「私は邪神で、貴様は凶神。どちらも人間ではないから、当然、人間関係など存在しない」
「揚げ足ばっかりとって嬉しいですぁ?! ほんっと、性格悪いよな、お前ぇえ! 嘘つきで、性根が腐っているとか、マジでないわぁ!」
などと、ワーワー騒いでいると、
そこで、いつものように、
ハスターが、背後から近づいてきて、
「……センエース、契約の時間だ」
と、前置きもなく、そう言った。
そんなハスターに、センは、
「なあ、ハスター、お前も、ヨグのことを最低だと思うよな? あ、やっぱり? だよな。お前も同意見だよな?」
「何も言っていないが――」
「やっぱなぁ、お前は分かっていると思ったよ。そうそう。ヨグはおかしいんだよ。ちょっと、頭がおかしいっていうか、完全にキチっているというか。見えないものを見ようとしているっていうか、幻覚と幻聴に悩まされているというか……もう、ほんと、なにがどうとは言えないけど、とにかく、全部が酷いんだよ。あんなやつ、これから、無視しようぜ。な、そうしよう。無視っていうか、記憶から消そうぜ。うん、それがいい。あれ? 今、誰の話してたっけ? 全然、記憶にないわぁ。なんか、性根が腐ったクソうそつきの知り合いがいた気がするけど、もう、顔も思い出せないわぁ」




