75話 きっと、永遠に分からない。
75話 きっと、永遠に分からない。
『もう無理だ』と、『魂魄の芯』が叫んでいる。あまりにも辛すぎて、これ以上は頑張れない。お願いだから、もう諦めてくれ。――と、『命の全部』が、必死になって懇願してくる。それら全部と、真正面から向き合った上で、センは、
「……ヒーロー見参……」
――痺れる覚悟を口にした。
ぶっ壊れて、歪んで、腐って、
『それでもなくさなかったもの』をかき集めていく。
ここから先は言葉にすることなく、
センは、心のまま、テメェ自身に問いかける。
『なぜ、まだ頑張るのか』と。
「……」
目を閉じて、息を吸う。
答えは出てこない。
自分の奥から、引っ張り出そうとするのだけれど、
『答え』らしきものが、まったく見当たらない。
わからない。
ずっと。
――きっと、永遠に分からない。
死んでも、終わっても、狂っても、
『それでも見えてこない何か』のために、
――今日も、センエースは、階段をのぼる。
★
「――っ……」
意識を取り戻した時、センは、自室で、ゲ〇ムボーイ片手に、
ムーア最終の作成に取り組んでいた。
「……」
折れた田中と交代して、
サイコジョーカーと向き合いながら、
地獄に抗ってきた。
サイコジョーカーモードでのループを2回経験して思ったことは、
「……あいつ、600回も、よく耐えられたな……」
ループ前、田中のことをクソヘタレ野郎と罵ったセンだったが、
「……現状の心境だけで言えば、10回も耐えられる気がしねぇ……」
この感情は、あえて例えるなら、超絶ブラック企業に務めることになった新卒サラリーマンの心境。
『この生活が毎日続くとか、信じられない。十日ももつ気がしない。1年後、2年後とか、想像もできない。イメージしようとすると気が遠くなる』――そんな感じの心境。
「ふぅうううううううううううううううううううううううううう……」
と、深く、深く、深く、深く、息を吐く。
どうにか、自分の心を整えようと必死。
あまりにキツすぎる地獄を前に、折れてしまわぬよう、全力で自分の魂のバランスをとろうとする。
ほんのちょっとでも空気が揺らいだら崩れてしまうトランプタワーよりも繊細な心境。
「ふぅう……ふぅうう……」
どうにか、こうにか、なんとか、自分の中のバランスを調整していると、
そこで、
ヨグナイフが、センの目の前に顕現して、
「ボーナスタイムだ。今回獲得した経験値を割り振っていけ」
「……」
「どうした? 随分と幸せそうな顔をして。なにか、いいことでもあったのか?」
「……すぐに眼科いってこい。いや、今の俺がハピネスに見えるとか……もはや、視力の問題じゃねぇな。だいぶやばい幻覚が見えているっぽい。となると、眼科じゃなく、精神科だな」
「田中が弱ったところを見るのは、そんなにも痛快か?」
「……嫌なことを言うな、お前……人の心の隙間をいじくって楽しいか? 笑ゥことが日課のセールスマンだって、そこまで、エグいことはしてこないぞ」
ぶっちゃけた話、
田中の失態を見たことで、
センの心は、救われた部分が確かにあった。
シャーデンフロイデとは、少し意味合いがことなる。
田中の絶望を喜んでいるわけではない。
どこかで、ずっと、
『もう、田中がやればいいじゃん。こいつだけでいいじゃん。俺いらないじゃん』
という卑屈な想いを抱いて生きてきた。
――そのぐらい、田中は凄すぎた。
天才すぎた。
『彼に対する劣等感』を原動力にすることも出来たが、
しかし、同時に、『俺いらんなぁ』という現実をつきつけられて苦しんできた。
だが、今回の件で、センは、認識をあらためることができた。
『センエースには、田中ですら不可能なことを可能にできる……部分もある』
――本当は分かっていたところではあったのだが、
しかし、その『事実』を、
あらためて、ちゃんと、正式に受け止めることが出来た。




