72話 だいぶきてる。
72話 だいぶきてる。
「いや、無理無理無理……これを、ずっとは、流石に無理……」
センは、普通にぽろぽろと泣きながら、
「これをずっと 500億回……いや……いやいやいや」
グラグラっと視界が歪んで、
「はぁ、はぁ、はぁ、はぁ、はぁ」
何もしていないのに息が切れる。
胸が詰まって、呼吸が苦しい。
本当に、ずっとクラクラしていて、頭痛がひどい。
これでも、闘っている時と比べれば、まだマシだというのが心底恐ろしいところ。
戦闘中のサイコジョーカーの牙の向き方は、ガチでハンパない。
「無理だ……10回や20回ならともかく、こんな、頭おかしい地獄を、500億回は……絶対に無理」
などと、弱音で溺れそうになっていると、
そこで、
ヨグナイフが、勝手に、センの目の前に顕現して、
「さあ、ボーナスタイムだ。今回獲得した経験値を割り振っていけ」
「ちょっ、今は、そんなことやっている場合じゃない。俺の全部が壊れるかどうかの瀬戸際だ。黙ってろ。はぁ、はぁ……ああ、やべぇ。呼吸が上手くできねぇ。ちょっと、ほんと、頭おかしくなりそう」
心底しんどそうにゼーゼーと息を切らして、
「きつい、きつい、きつい、きつい、きつい」
あまりにしんどすぎる現状を前にして、センは、頭を抱えてうずくまり、『きついきつい』と語彙力ゼロで連呼することしかできない。
そこで、ハスターが、背後から近づいてきて、
「……センエース、契約の時間だ」
と、前置きもなく、そう言った。
センは、子供みたいにイヤイヤと首を横に何度も振って、
「うっさい、うっさい、うっさい。お前の相手ができる余裕は皆無。もういやだ。もう無理」
その様を見てハスターは、
「……だいぶきているな……」
ぼそっとそう呟くと、以降は、『うずくまっているセン』を黙ってじっと見つめていた。
センの荒い息が一定間隔で空気を震わすだけの重々しい空間。
少しの間を置いてから、
田中が、
「タイムリープ、どうやった? うまいこと、いけた? いい感じに殺された?」
と、軽やかな言葉を投げかけてきた。
そんなトウシの問いかけに対し、
センは、頭をかきむしりながら、
「無理だ! もう無理! 折れた! もうできない!」
本音を叫ぶ。
完全に切羽詰まった状態のセンを横目に、田中は、センの目の前に顕現しているヨグナイフに、
「今、何回目?」
「前回が記念すべき1000万回目だった」
「ああ、なるほど。サイコジョーカーが解禁されたから、こうなっとんのか」
そうつぶやきながら、田中は、センのベッドに、どかっと寝転んで、
「どうする? やめるか? ワシはそれでも――」
と、いつもの方法でハッパをかけようとしてくる。
しかし、どうやら、ここでセンの許容量が限界を迎えた模様。
センは、田中の胸倉を力一杯掴み上げて、
「もう聞き飽きたぁあああああああ!!!」
田中の耳元で、腹の底から大声を上げる。
田中は、耳がぐわんぐわんしているが、
それを表に出さず、フラットな声音で、
「やかぁしぃわ、ボケ。耳元で叫ぶな、カスぅ」
「カスもボケもテメェだぁ! アホの一つ覚で、何度も何度も何度も何度も何度も何度も同じこと言いやがってぇ!!」




