71話 1000万ボーナス。
71話 1000万ボーナス。
「よし……1000万……ふぅうう……」
どうにか、サクサクと、この地獄をこなせるようになっていた。
慣れとは恐ろしいもの。
そんなセンエースに、衝撃のお知らせ。
「たたたーたーたー、たったたー。1000万回目ボーナスが解禁されましたぁ! 1000万ボーナスは、『オーバードライブ・ゼノ・サイコジョーカー』モードの解放! やったね、センちゃん。ここからが本当の地獄だよっ」
「……ちょっと……詳しく話を聞かせてもらおうか……」
流石に、今回ばかりは、腹を据えて話す必要があると判断したようで、
ライフワークである『経験値振り』の作業を完全に停止し、
「で、なんだって? 今、サイコジョーカーという単語が聞こえた気がしたが……もちろん、空耳だよな? 俺の耳がついにバグった……たったそれだけの、哀しい話でしかないよな?」
サイコジョーカーとは、『えげつない精神的負荷がかかるかわりに存在値が増す』というシステムのことであり、そのしんどさはハンパじゃない。
一般人なら、最小出力のサイコジョーカーでも、『転がり、のたうちまわって、全身の穴という穴から、液体を吐き散らかすハメになる』ほどの、地獄の中の地獄。
センエースは、これまでに、ありとあらゆる地獄を経験してきたが、その中でも上位にくいこむ拷問が、このサイコジョーカー。
「ここから先、常に、オーバードライブ・ゼノ・サイコジョーカーが発動するようになりましたぁ。おめでとうございます」
「……」
「なんか、感想、あるいは悲鳴があったら、黙って聞く構えやけど、どうする?」
「えっと、あの……え、マジで? カマシの一発ギャグじゃなくて、マジで言ってんの?」
シャレの要素ゼロのガチゴチテンションで、そう尋ねるセンに、
田中は、たんたんと、
「本来のサイコジョーカーは、出力の上昇が目的やけど、今回のサイコジョーカーは、経験値獲得率にブーストをかけるもの。だから、強くはなれん、というか、だいぶ弱くなるから、普通に、戦闘そのものが、だいぶしんどくなるやろうけど、まあ、なんとか頑張れ」
「……」
「もう、配下たちも、だいぶ仕上がってきて、ここから先は、存在値をちょっと上げるだけでも、必要な経験値がとんでもない値になってくる。普通にやっとっても、限界突破は不可能。ここらで、また、ガツンと、経験値を上げる必要がある」
「……」
「何度でも言うけど、イヤならやめろ。いつでも、やめてええ。お前が切に望む『諦めてもいい権利』を、ワシがお前にくれてやる。ここまででも、お前はようやった。痛みに耐えて、よく頑張った。感動した」
「……」
「で、どうする?」
「……」
★
その日の夜、センは、
「ぎぎゃぎゃぎゃおぉおおおおっ!」
爆裂な精神的負荷に、心と脳内と精神と魂をグチャグチャにされながら、
それでも、『悪役』としての役目をはたしきった。
精神的負荷がエグいので、完璧な悪役はこなせなかったが、
なんとか、闘いきり、平熱マンにとどめを刺されるところまでもっていった。
死に際、ギリギリのところで、
サイコジョーカーが鎮まったのを感じたセンは、
(……これ、ずっとは無理だろ……)
普通に、そう思った。
★
「――っ……」
意識を取り戻した時、センは、自室で、ゲ〇ムボーイ片手に、
ムーア最終の作成に取り組んでいた。
「……」
センは、頭を抱えて、
「いや、無理無理無理……これを、ずっとは、流石に無理……」
泣きそうになりながら……
というか、普通にぽろぽろと泣きながら、
「これをずっと 500億回……いや……いやいやいや」




