69話 頑張った結果、家族から、生理的に無理なゴキブリと思われるようになりました。
69話 頑張った結果、家族から、生理的に無理なゴキブリと思われるようになりました。
「ぱんぱかぱーん。10万回目ボーナスとして、配下全員の『センエースに対する憎悪と殺意』が爆裂に底上げされましたぁ! やったね、センちゃん。随分と殺されやすくなったよ。みんな、お前のことが、嫌いで嫌いで仕方がない。生理的に無理。という状況に、精神性がカスタムされた。もう、無駄に煽らなくても、あいつらは、嬉々として、お前を殺してくれるだろう。あいつらの視点だと、お前は、ゴキブリの中でも、特に嫌われているタイプのエリートゴキブリだ」
「……」
センは、渋い顔のまま、しばらく、田中の顔をジっと見つめていた。
言いたいことが、腐るほどありそうな表情。
あまりにも言いたいことが多すぎて、まとまらず、こんがらがってしまっている、といった印象を受けた。
その間も、田中は、延々と、規定事項のメッセージをセンに伝える。
「何か質問があるなら受け付けるけど、どうするぅ?」
センは、言いたいことを、全部飲み込んだ上で、
「……カンツは、『生理的に嫌い』って理由だけで、一般人を簡単に殺したりしねぇと思うんだが?」
「お前がお前のことを一般人と認定していることに対して、言いたいことが山ほどあるが……まあ、それに関してはいったん置いておいて、お前の疑問の中核にだけ、素直にこたえてあげよう。カンツの精神性には、特に強いメスをぶちこんだ。あいつの精神力は異常だから、なかなか厳しいものがあったが……お前が死ぬ気で稼いだ『10万回分のリソース』をぶち込むことで、どうにか調整できた」
「……俺が死ぬ気で頑張った結果……配下から、『生理的に無理なゴキブリ』だと思われるようになった、と。すごいな。頑張る気力を根こそぎ奪ってくれる」
「やめたければやめてもええで。この『お前に対するイジメ』の精度がエグいことは、ワシも、重々理解しとるから、『もう無理』っていうんやったら、その悲鳴を尊重したる」
「……」
「どうする? やめるか? 諦めて、全員で死ぬか? ワシはもう、その覚悟ができとるから、そっちを選んでくれても、全然ええで」
「……」
センは、黙ったまま、しばらく、田中をにらみつけていたが、
「……」
さらに、追加で10秒ほど押し黙ってから、
「はぁ……」
と、深いタメ息をついて、
経験値振りの作業に戻った。
★
その日の夜、
いつものように、配下たちに突撃をしかけたセン。
田中が言っていた通り、
確かに、明らかに、
配下たちの、センに対する態度に違いがみられた。
まず、センを見る『目』が違った。
本当に、ゴキブリを見る目だった。
心底からゴキブリを忌み嫌っている者が、ゴキブリに向ける視線。
戦闘中にかわす言葉の端々にも、これまでには感じなかった『強いトゲ』が見受けられた。
センのことを、『排除しなければいけない害虫』と、正式に認識していた。
それゆえに、確かに、『殺される』という作業は簡単になった。
ほんのちょっとだけ、悪役を気取って、煽ってみせれば、それだけで、ザクっと殺してくれた。
(ああ、これは確かに楽だな……)
かなり頭おかしい話だが、
今回のボーナスに、センは感謝した。




