67話 俺がお前を嫌う理由はあっても、俺がお前に嫌われる理由はない。
67話 俺がお前を嫌う理由はあっても、俺がお前に嫌われる理由はない。
「十席連中の怒りも随時、増幅中や。『アホみたいな回数、お前を殺さなあかん』ということ対する怒りとしんどさを、お前への純粋な憎悪へと変換させてもろた」
「マイナスの感情を、すべて、俺への憎悪に変換できるのか。そのスキル、便利だな。やり方を教えておいてくれ。俺のことを高潔だのなんだのと誤解する『謎のサイコ』が稀によくいるから、そういうバカどものゆがんだ認知を正常に戻す術の一つとしてマスターしておきたい」
「……」
「どうした?」
「……教えることはできんな。これは、ワシにしかできん不可能や」
「ええ、そっち系のアレかよ。使えねぇなぁ」
――本当は、そうではない。
さすがに『簡単なこと』ではないが、しかし、やり方さえ知っていれば、センでも不可能ではない。
だが、田中は、あえて、『教えない』という選択肢をとった。
教えないどころではなく、今後、永遠に、『センエースでは、その手の技能が使えないよう』に、コスモゾーンにハックしておこうと考える始末。
その理由は純粋で無垢。
センエースならば、すべてが終わったあとで、
本当に、『配下たちの認知をかきかえてしまうだろう』と思ったから。
これほどまで『弱い命のため』に尽くしてきた王が、
修行を終えた後も、ガチで嫌われ続けるなど、
そんな胸糞な未来を許容することは、
田中にはできなかった。
実のところ、田中は、結構、感情論で生きているところがある。
――そんな、田中の配慮など知ったことではないセンは、渋い顔で、
「……お前にしかできないような難しい方法じゃなくてさぁ。こう、俺の頭でも、パっとできる感じのお手軽な方式はないのか?」
「ないけど、あっても教えへん」
「あ? なんでだよ」
本当の理由を言えるほど、田中の精神は成熟していない。
田中は『破格に演算速度が速い』というだけで、『感情レベルの厨二度』でいえば、じつのところ、センエースと大差ない。
ゆえに、
「ワシは、お前のことが嫌いやから」
と、まるで、センエースのような戯言で、世界をケムにまこうとする。
「あ? ふざけんな。俺がお前に何したってんだ。俺がお前を嫌う理由はあっても、俺がお前に嫌われる理由はない」
「なんか、それ、本気で言うてそうやから、怖いわぁ。一応、言うとくけど、ただの逆恨みかて、しつこくぶつけられたら、ちゃんとムカつくんやで」
「能力高いやつが、能力低いやつから嫉妬されるのは、有名税系のアレと一緒だ! つまりは、ノブリス・オブリージュ! お前が、俺からの怨嗟を黙って受け止めるのも義務! これは、正当な義務であり、俺サイドにとっては、まっとうな権利! お前が背負っている社会的責任! だから、貴様は、俺に……俺に……俺に殺されるべきなんだぁあああああ!」
ファントムトークの応酬は、不毛の塊。
ゴミみたいな時間だけが刻々とすぎていく。
センは気づいていないが、田中とファントムトークを交し合っている間だけ、『家族に殺され続ける』という痛みを忘れることができていた。
★
それから、センエースは、平熱マンに殺され続けた。
平熱マンは、センエースの一番弟子といっても過言ではない存在。
少なくとも、『剣の才能』という一点だけでいえば、ぶっちぎりで最強のポテンシャルを誇る一番弟子。
永遠童貞ゆえに、子供を残せなかったセンは、
養子や弟子のことを、『我が子』のように思っている節がなくもない。
山ほどいる『我が子』の中でも、センは、特に、平熱マンのことをかわいがっているところがなくもない。




