63話 本気の殺気。
63話 本気の殺気。
(……『本気の殺気』がこもった攻撃だな……は、はは……なんというか、もう……)
心の中で、無意味に嘆く。闘う前からわかっていたことではあったが、しかし、ゾメガと平熱マンから、マジの殺気を向けられたことに、ちゃんと、普通のショックを受けるセン。
この狂った現状で、普通のショックを受けるなど、ばかばかしいとは思いながらも、『心の働き』を『理性だけで完全に制御すること』は不可能。
センは、奥歯をかみしめて、
彼らの猛攻を受け止める。
ゾメガと平だけではなく、
その背後からは、
五聖の三姉妹がサポートとしてついている。
彼女たちのサポート性能は恐ろしく高い。
センにとっては孫同然――というか、戸籍上は、ちゃんと普通に孫の彼女たちからも、ガチの殺気を向けられて、また、普通にショックを受ける凡人セン。
わかっている。
己の現状は理解している。
『これは、そういう修行である』――そんなことは、もちろん、わかっている。
けれど、わかっているからと言って、傷つかないわけではないのだ。
人心とは、合理性とかけ離れた矛盾の塊。
三姉妹の脇を固めている、九華十傑の面々。
どいつもこいつもハンパではない性能。
四方八方から、深みのある殺気を向けられて、一瞬、クラっとするセン。
その隙をついて、
平熱マンが、センの心臓に剣をつきたてた。
「ぐえっ……」
平熱マンの剣の串刺しを受けて動きが鈍ったところに、
八方から、重たい攻撃が飛んでくる。
ボッコボコにダメージを受けるセン。
その途中で、
「とてつもない生命力ですね。これだけの猛攻を受けて、まだ死なないとは」
平熱マンは、そう言いながら、
さらに、何度も、何度も、センを切りつける。
激しい痛みの中で、
「は、はは……」
つい、笑ってしまったセン。
「何がおかしいのですか?」
と平に問われたセンは、
「……」
数秒だけダンマリを決め込んでから、
「いやぁ……もちろん、それなりに『愛している』って自覚はあったんだが……ここまでとは思っていなかった……」
「はい?」
(ゼノリカのことを大事に思っていた……そういう自覚は確かにあった。守りたいと思っていた。奇跡のような組織だとも思っていた。愛していると認識していた。……けど……壊れた変態でしかない俺が、まさか、ゼノリカのことを、ここまで深く愛しているとは思っていなかった……)
自分のことをニヒルでダーティと称したのは、
実のところ、ただのボケではなく、
そう言う、『冷めた部分』が自分の中にある、
と、本気で確信している部分があったから。
どこかで、冷めた視点を持っている。
常に一定以上の距離感を保っている。
それが、己の悪癖の一つである、というのがセンの自己分析。
人間失格なんてスペシャルが発動する前から、性格的には、ちゃんと終わっているクズ野郎。
とても聖人なんかじゃない。
高潔と言えるほど清涼な魂なんて持ち合わせていない。
『人間関係』に対しては、常に、『感情のブレーキレバー』に手をかけている感じ。
何かあれば、すぐにレバーを握りしめて急ブレーキをかけられるように、慎重に、周囲をうかがっている。




