61話 準備。
61話 準備。
センは、わかりやすい悪意を叫び続け、憎悪を積み上げていく。
ヘイトを高めて、十席たちの殺気をとがらせる。
徹底的に、『最低』を魅せつけていくことで、『センエースを殺すこと』『センエースを憎悪すること』に対する心の抵抗を殺していく。
――繰り返し続けてきたから、センはうまくなっていた。
大事な家族に嫌われるプロフェッショナルになっていく。
そうして、お互い、覚醒しあう。
ステップ1、センが、圧倒的な力で、十席を軽くボコボコにする。
ステップ2、十席が覚醒して神化する。
ステップ3、ハスターがオメガバスティオン化する。
お決まりの角交換。
既定路線を、そのままなぞっていく。
十席の面々は、自分達が過剰に大きなパワーを得たことを不思議がっているが、すぐに、自分自身と折り合いをつけて、センエースを止めるために全力をつくす。
ここまで、散々、十席たちと戦い続けたセンエースは、
既に、十席全員を相手にしてもノーダメで処理できるほどに、
『十席たちとの闘い』の『スペシャリスト』になってしまっていた。
あまりにも華麗に闘うセンを見て、
ヒッキが、真っ青な顔で、
「ちょっと待って! センのやつ、強すぎる! ハスターって、こんなに凄まじい神格なの?! やばすぎるくない?!」
絶望を叫ぶ彼を、カンツは叱咤する。
怒られても、しかし、だからって心が整うわけではない。
ヒッキは、頭を抱えて、
「勝てるビジョンが見えない! どうしたらいい!」
と、絶望を叫び続けるヒッキ。
カンツは、そんな彼の視線の先で、
センの猛攻に耐えながら、
「勝てるビジョンが見える闘いに勝つのは最低条件! 勝てるビジョンが見えない運命をねじ伏せるのがヒーローの仕事! 世界は貴様に問いかけている! 貴様はヒーローたりうる器か、ヒッキ・エイストレイジ!」
「……ヒーローなんて……そんなしんどい職業につこうと思ったことなんて、産まれてから一度もないよ」
と、本音を吐き捨ててから、
「でも……なくしたくないものならある……大事なものが、私にはある……だから、どうしたらいいと問うている! 方法があるなら……『こうすればいい』って対処法があるなら、死ぬ気でノルマをこなすから、だから、教えてくれよ! どうすれば、この絶望をどうにかできる?!」
まっすぐな目でカンツをにらみつけるヒッキ。
そんな彼に、カンツは、
「そんなもん知るか! 対処法なんかなくても、叫び続けるんだ! 絶対に勝てない敵を、当たり前のように殺す! それがヒーローの仕事だぁああああ!!」
理不尽を叫ぶ。
パワハラもここまでくれば清々しい。
カンツは、最前線で叫び続けている。
誰よりもボロボロになって、
誰よりもセンの攻撃をその身に受けて、
――そんな彼の叫びだからこそ、
皆の心に突き刺さるのだ。
『安全圏で理想論を叫んでいるだけの頭でっかち』についていく者はいない。
『最前線で、一番の地獄と向き合っている者』の言葉だから、皆の心の奥に届く。
全員の心が、『何がなんでもセンを倒す』という方向性でかたまる。
一致する。
合致する。
そうやって一つになった魂が、
『可能性(ゼノリカの上澄み)』を呼び寄せる。




