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60話 ただのイジメ。


 60話 ただのイジメ。


「……はぁ……はぁ……助けて……」


 ボロボロと流れていく涙の量だけが増えていく。

 センエースの悲痛の叫びに応えようとする者はいない。


「……これは、まあ、キツいやろうなぁ。ワシやったら、普通に無理やな……」


 その言葉は、ただの俯瞰。

 慰めているわけでも、元気づけているわけでも、労をねぎらっているわけでもない……し、もちろん、共感でもない。

 これは、決して、日常会話でよくある『共感だけの生返事』とかではないのだ。

 ただ、純粋に、『思ったことが口からこぼれた』というだけの話。


「どうする、セン。やめるか? 皮肉とかやなく、ワシとしては、別に、それでもええと思うとる。今のお前を見とったら、続けられる気がせん。お前をイジメるんが目的ではないから、ただのイジメにしかならんのやったら、もうやめてもええと思う。世界全部が終わって、何もかもが綺麗になくなって……それでええんとちゃうかな、とも思う」


 世界に終わってほしいとは思っていない。

 どうにか、世界を救い出すために、田中も頑張って、ここまでやってきた。

 しかし、今、田中は、『半分』本気で、以下のように思っている。


「お前を助けてくれんもんのために、お前がここまで苦しむ必要ってあるんかな? いや、もちろん、ワシの都合上では、頑張ってほしいんやで。ワシにも大事なもんがある。守りたいもんがある。それをなくしたくない。それが本音。けど、無理なもんは無理やし……やっぱり、この現状は、さすがに、理不尽がすぎる」


「……」


「もういっそ、全員で死ぬか? なんか、もう、その方がええ気がしてきた」


「……」


「ここでの正解は、お前に、頑張れって言って応援することなんやろうけど、それが出来る資格があるやつなんておるかなぁ、とも思う。たぶん、この世界には一人もおらん。だって、誰も、お前以上に頑張ってないし、誰も、お前を助けてくれんやん? お前は――」


「……うっさい」


「ん?」


「ぐだぐだうっさい……」


 まだ、涙は流れている。

 セんは、苦しそうに、頭を抱えたまま、


「お前の声、キショいから、嫌いなんだ……しゃべんな……」


「……」


「はぁ……はぁ……」


 センは、苦しそうに、胸をかきむしりながら、


「……くそが……くそが……くそが……ぅ、ぅうう……ぁ、あああ……」


 センは、うずくまったまま、

 ぼろぼろと涙を流しながらも、

 ――経験値の振り分けを再開する。


 その背中を、田中は、黙って見つめていた



 ★



 その日の夜、重たい体をどうにか必死に引きずって、

 這いずるようにして、センは、十席たちに襲い掛かった。


 もう、本当に辛くて辛くて仕方がないのに、

 しかし、それでも、センは、奥歯をかみしめ、

 歯をむき出しにして、


「最強GOO・ハスターのコスモゾーンレリックを持つ俺こそが最強! 俺だけが、この世界の主役にふさわしい! 俺こそが命の全てを支配する王! 俺こそが絶対のヒーロー! 主役も王もヒーローも、たった一人しかいないからこそ、まばゆく輝く! 中心人物はたった一人だけでいい! そう、つまり、俺だ! 俺だけが美しく輝く世界! それだけが俺の、たった一つの望み! 俺が主役じゃない世界なんかいらん! 田中がいる限り、俺は、この先も、ずっと、ただのゴミ! 主役になんか、絶対になれない! だから、田中を殺す! 異論は認めない!!」


 悪意を叫び続け、

 憎悪を積み上げていく。

 ヘイトを高めて、十席たちの殺気をとがらせる。


 徹底的に、『最低』を魅せつけていくことで、『センエースを殺すこと』『センエースを憎悪すること』に対する心の抵抗を殺していく。



 センエースの抵抗は終わらない。


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