50話 センエースのガチ戦法。
50話 センエースのガチ戦法。
「ハスターが凄いだけで俺はゴミのままだ。それに、放っておけば、田中は、ハスターを遥かに超えていくだろう。あいつほどの天才なら、いつかは、シュブやニャルのような、最高位のアウターゴッドにも届き得るかもしれない。すべての命が平伏する究極の頂点に君臨し、下界を睥睨する田中。それを見上げるだけの俺。……そんな地獄のような未来を拝む羽目になるぐらいなら、全部、まとめて吹き飛ばした方がマシだ」
「……っ」
センの田中に対する劣等感は、カンツたちが田中に対して抱いている期待や安堵感を遥かに超越していた。
対話する時間が増せば増すほど、センエースの田中に対する感情がガチであると理解できていく。
冗談や演技の類ではない。
センエースは、ガチ中のガチで、田中に対して殺意を抱いている。
――『センエースとの交渉に意味はない』と悟った十席のメンツは、
それぞれ、膨れ上がった神気と真正面から向き合いつつ、
センエースを止めるために全力をつくす覚悟を決めた。
激しい死闘になった。
ハスターのオメガバスティオン化にともない、
センエースも、本気を出した。
「オーラドール・アバタァアラァアア!」
9体の分身を出現させて、
全員で、
「裏閃流秘奥義、カース・ストライクフリーダム!!」
存在値2000万級のバケモノ召喚獣『カースソルジャー』を召喚。
10体のカースソルジャーは、召喚されるやいなや、
ランダムな動きで、あちこちを、ウロチョロしはじめる。
いっさい、攻撃は行わず、ただひたすらに、うろちょろ、うろちょろと、十席たちの周囲を走り回るだけのカースソルジャー。
最初は、『カースソルジャーからの攻撃』を警戒していた十席たちだが、
「うぐっ……」
最初に、『グレイ(十席の中で、総合耐性値が最も低い)』が、毒をくらってフラついたタイミングで、
みな、カースソルジャーのヤバさに気づく。
カンツが、全員に、
「デバフ散布型だ! 放置は悪手! その召喚獣どもを、先に潰せ!!」
全力の号令。
プライドの高い十席のメンバーは、こういう高圧的な命令に対して反発的な態度を示すのが常なのだが、しかし、今だけは、そのオーダーに対して素直かつ迅速に従った。
『プライドの高さ』に比例して『頭もいい』ので、現状の最善がちゃんと見えている。
全員、必死になって、カースソルジャーを潰そうとするのだが、しかし、カースソルジャーは、すさまじい俊敏性を誇っているので、なかなか捕まらない。
そんな、ヤバすぎる鬼ごっこをしていると、
グレイ以外のメンツも、だんだん、重たいデバフにからみつかれていく。
麻痺・混乱・バラモウイルス・睡魔・凍傷・火傷・石化・老化・魅了・出血・スタン・暴走・呪縛・盲目・幻覚・寄生・狂気・恐怖・憑依・沈黙・空腹・忘却……
節操なく、容赦なく、ありとあらゆるデバフがおそいかかってくるというウザさ。
カースソルジャーは、戦闘力の視点でみるとゴミなのだが、
正しく運用した場合、とてつもなく高いアドバンテージをもぎとれる。
大半のメンバーは、動きが鈍くなっているが、
しかし、カンツだけは、
「どんぐらぁあああああああっっ!」
血走った目で、歯をむき出しにして、
なんだったら、デバフを喰らう前よりも俊敏に暴れ散らかしている。
自分で、『召喚獣を先に潰せ』とオーダーを発令しておきながら、
しかし、それが難しいと悟るやいなや、
『親玉であるセンエースを先に潰す方がはやい』
と決断し、実行にうつす。




