42話 なんでだ?
42話 なんでだ?
センエースは、『敵との闘い』であれば、どんなに苦しくても、歯をむき出しにして、心を強く燃やすことができる。
自分を奮い立たせるために、あえて、強い笑顔を浮かべることもあるだろう。
けれど、十席相手に、『本気の死闘をこなして、最後には殺されなければいけない』という現状は、さすがに、笑っていられない。
――『こんな状況でも笑っていられるだけの胆力』というのが理想なのかもしれないが、しかし、今のセンは、その理想を追求することができずにいる。
折れてこそいないが、しかし、折れかけているのは事実。
「……絶対に……折れてやらねぇ……」
『絶対に折れてやらない』という心の叫びは、
いうまでもないが、『折れそうな時』にこそ口をつくもの。
ギリギリィッと歯ぎしりをする。
奥歯をかみしめて、今の痛みに耐える。
何度でも言うが、
センエースは、絶望に耐性があるわけではない。
いや、あるっちゃあるが、それは、『必死こいて磨き上げてきたもの』でしかなく、決して、『生まれつきのギフト』なんかじゃない。
ずっと、ずっと、我慢してきただけ。
『耐性らしきもの』が出来ている今だって、
『絶望が効かない』というわけではなく、
『誰よりも頑張ってきて、かつ、今も誰よりも頑張っているから、我慢できる容量が他人より多い』というだけ。
センエースは、ずっと苦しみ続けている。
ゆえに『もう、全部投げ出して、ちゃんと死にたい』と、わりかしマジで思っていたりする。
「それでも……叫び続ける勇気を……」
けれど、折れない。
投げ出さない。
――なんでだ?
口では『それでも』と叫び続けつつ、
心の中では『なんでだ?』と自問自答を繰り返す。
なんで、頑張る?
もういいだろう。
十分やってきた。
これ以上は、もう、過剰だって。
あとは、トウシとかに任せればいいじゃない。
なんで、そんなに、かたくなに、お前が頑張る必要がある?
もういいよ。
もう十分だ。
ここで逃げても、誰も文句は言わない。
『逃げてもいい』という証を、この世界で、お前だけがもっている。
――センエースの奥にも存在している『弱いセンエース』が、ずっと叫んでいる。
叫んでいるというか、もはや、泣き崩れている。
もう勘弁してくれ、とずっと、すがりついてきている。
心も体もボロボロになって、
頑張るために頑張っている、という、なんとも悲惨な状況に落ちぶれて、
――それでも!!
「ぶっ壊れて、ゆがんで、腐って……それでもなくさなかった全てをあつめて……最後の最後まで、抗い続けてやる」
そのセリフを吐き続ける。
惰性じゃない魂の慟哭。
痛みも弱さも全部飲み込んで、
センは、
「……ヒーロー見参……」
道化の仮面をかぶり続ける。
★
気合いを入れなおしてから、
センは、ヨグに、最初の話の続きを促した。
『――念願のボーナスタイムだ。貴様を殺したことで、カンツは大量の経験値を得た。お前は、『この上なく尊き魂の系譜』の長として、その経験値を割り振り、十席たちを好きに強化することができる』
この件の詳細を求めたところ、
どうやら、センは、『十席たちが得た、センエース殺しの経験値を、自由に分配する権利』をもっているらしい。
「カンツだけに殺され続けても、経験値を均等に分けることも可能ってことか……楽で助かるね。全員に平等に殺されるとか、必要な作業が多くなりすぎてやっていられないし」




