40話 これは、きついな。
40話 これは、きついな。
まがまがしいナイフを召喚し、口にくわえて、
「ぐぅがげっげん(龍牙一閃)!!」
執拗に、徹底的に、田中の命を狙おうとするセン。
どうにか、力づくで、殺さずに止めようとするカンツだが、
しかし、センは、どうしても止まらない。
足を奪い、目を潰した。
魔法の鎖で地面に磔にしようともしたのだが、
しかし、それでも、センは、すり抜けて、執拗に、田中を狙い続ける。
止めるのも限界があった。
放っておいたら、マジで、田中が殺される。
センの、狂ったような『ほとばしる殺気』にあてられて、
カンツは、ついに、
「馬鹿やろぉがぁああ!」
右手にためたオーラを、
「異次元法ぉおおお!!」
センに向かって放った。
照射に焦がされている中で、
センは、
(ああ……これは……きついな……『敵に殺される』のとは訳が違う)
と、そんな感想を、心の中で口にした。
(これまでに、何度も死んできたが……こいつは、トップクラスにしんどい死に方だ……は、はは……)
意識が消えゆく中で、センは、
「……辛いな……」
ボソっと、ただの本音をこぼした。
★
「はっ……」
意識を取り戻した時、センは、
自室で、ゲームボ〇イ片手に、
ムーア最終の作成に取り組んでいた。
「はぁ……はぁ……」
軽く息を切らし、
センは、
「……はぁ……はは……」
と、軽く自嘲する。
いつものセンなら『はっ、夢か』ぐらいは言いそうなものだが、どうやら、今のセンに、その気力はないらしい。
力なく自嘲していると、
そこで、
呼んでもいないのに、ヨグナイフが、勝手に、センの目の前に顕現して、
「念願のボーナスタイムだ。貴様を殺したことで、カンツは大量の経験値を得た。お前は、『この上なく尊き魂の系譜』の長として、その経験値を割り振り、十席たちを好きに強化することができる。もともとの特質をいじることは出来ないが――」
「ヨグ」
「なんだ?」
「……非常に興味深い話をしてくれているところ、悪いんだが……ちょっとだけ、静かにしてくれる?」
「……いいだろう」
そう言って、ヨグは静かになった。
随分と、素直なものである。
しかし、それも、当然かもしれない。
今のセンの顔を見て、盛大にチョケられるほど、ヨグは無神経ではなかった。
ヨグの中に芽生えた心も、順調に成長している。
それぞれが、ちゃんと、前に進んでいる。
今回の件で、十席連中は大きく成長する。
センを殺した経験値で、十席は、加速度的に膨らんでいく。
全部、分かった上で、
センは、
「……うっ……」
涙を流した。
ボロボロと、あふれる涙をそのままにする。
止めようと思えば、ギリ行けなくもない感じだったが、
今は、ちょっと泣いておきたい気分だった。
数分かけて、涙をからしてから、
「……悪いな、ヨグ……無様な姿を見せてしまった。今まで、こんな弱いところは見せたことがなかったから、驚いただろう」
「記憶の改竄力が凄まじいな。貴様のみっともない姿など見飽きている」
「……改竄しているんじゃない。覚えていないだけだ。夢って忘れるものだろ? 『お前と一緒に銀の鍵を使いまくった記憶』は、だいぶ薄れてきている。あの頃のことは、もはや、まったく覚えていない。確か、俺は……あの時のどっかのタイミングで、童貞じゃなくなった気がするんだが……間違っていないよな? な」




