36話 主役(悪役)の登場。
36話 主役(悪役)の登場。
彼らの常識的感覚の上では、『ランク8000の魔法』というは、あえてたとえると、『偏差値2000』みたいなもの。
もし、『私の偏差値は2000です』とかいうやつを目の当たりにしたら、『偏差値の意味、しってる?』と鼻で笑ってしまうだろう。
『アホな嘘をついている』という以外の感想を抱く方が『頭が悪い』というレベル。
ゆえに、ランク8000に対して警戒の反応を示したのは心配性のヒッキだけ。
ほかのメンツは、アクバートと同じで『アホなフェイクを口にしただけだろう』としか認識していない。
ヒッキだって、別に、本気で信じたわけではない。
ただ、メインサポーターとして、すべての厄介事に対してアンテナを張っているだけの話。
――『数分を超える時間』をかけて、全員で、必死になって、田中の呪縛を解除しようと奮闘している……のだが、しかし、
「この呪縛、マジで、解除できねぇじゃねぇか」
ダリィが額の汗をぬぐいながら、しんどそうに、そうつぶやいた。
ヒッキも、同じ、疲労感に包まれた顔で、
「まさか、本当に、ランク8000の呪縛……とか言うんじゃないだろうな……」
ボソっと、そうつぶやく。
その発言に、グレイが、
「ありえないって」
と、反応を示す。
とにかく、全員で、どうにか、田中を解放しようと頑張っているのだが、どうにもならず、
途中で、クウリュートが、
「これ、すごくない? こんな強力な呪縛とか見たことないんだけど。魔力つきるぐらい、全力で解呪しようとしているのに、ピクリともしないとか……」
魔力の使いすぎで、その場にへたりこむ。
そういう状態になっているのはクウリュートだけではない。
田中を救出するために、あまりにも力を使いすぎた。
今、強大な敵に襲われたらヤバイ。
というレベルまで、しっかりと疲弊したタイミングを狙って、
――『主役』が、颯爽と登場した。
「馬鹿どもがぁあああああ! 無駄な徒労、ごくろうさぁああああん!!」
と、叫びながら、
突如現れた男――センエースは、
強大なオーラを放つ剣を片手に、
突撃してきた。
「田中ぁあああああ! 死ねぇえええええええっ!」
と、『本気の殺気が灯っているとしか思えない声音』で叫びながら、
センは、田中に切りかかった。
その明確な殺意を感じ取ったカンツが、
「なにやっとんだ、セェエエエン!!」
と、全力で、センを殴り飛ばしていく。
カンツの拳が、カウンター気味にクリティカルヒット。
本来の力量差を考えると、センは吹っ飛ぶしかないわけだが、
しかし、
「疲れ切ったその拳で、俺を飛ばせるなんて夢みちゃダメダメぇ!!」
そう叫びながら、センは、カンツのカウンターに豪快な返しをいれていく。
カンツは、誰よりも多くの魔力を田中にぶち込んで、
どうにか、こうにか、解呪しようと必死こいていた。
カンツにとって、傑出した英雄は希望。
田中シャインピースは、カンツにとって、願望の具現。
世界を包み込む光。
ゆえに、全力で守ると決めている。
何があろうと、絶対に。
その覚悟の重さが仇となる。
現状のカンツは、田中の呪縛をとくために、あますことなく魔力を注ぎ込んでしまっていて、普通にガス欠状態。




