35話 ランク8000の呪縛。
35話 ランク8000の呪縛。
――翌日の夜も、神話生物研究会の面々と田中は、夜の学校を探索していた。
休まないウサギとはよく言ったもので、全員、世界のために、己の体をイジメぬいている。ここにいる全員、世界の守り手としての覚悟が違った。
とにかく少しでも強くなるために、ダンジョンやアイテムを探索している。
そんな中、今夜も、田中たちは、ダンジョンを発見する。
難易度無理級のダンジョン。
田中がいるため、みな、強気でダンジョンを潜っていく。
警戒はもちろんしているわけだが、
『田中がいる』という安心感から、
『田中がいないとき』と比べると、やや緊張感にかけているのも事実だった。
その安心感に、全力で応えていく田中。
今日も、あっさりと、無理級ダンジョンの最下層までたどり着いた。
いつもように、宝箱を開けようとする田中。
そこで、事件が起きた。
宝箱を開けた瞬間、中から、『奇妙な鳥』が出てきたのだ。
馬の頭と蝙蝠の羽を持つ、かなり気色の悪い形状の鳥。
その鳥は、宝箱から出てくると同時、
田中の体に、
「呪縛ランク8000」
えげつないほど強烈な魔法をかけた。
当然のように動けなくなる田中。
鳥が出てきて、魔法をかけるまでの一連が、あまりに爆速すぎて、神話生物研究会の面々は、まったく対処できなかった。
最初に、カンツが、動けなくなった田中にダッシュでかけより、
「おい、大丈夫か、田中ぁ!」
と、叫びながら、田中の呪いを解除しようと、あれこれ動いてみるのだが、しかし、どんな解呪方法も、『話にならない』といった感じでけちらされてしまう。
――最奥にセットされている宝箱がワナだったケースはこれまで一度もなかった。
だからこその油断をつかれた形。
動けなくなっている田中に、ドナが、近づき、
「ただの呪縛なら、動けなくなるだけだから、ゆっくり解く方法を見つけてもいいのだけれど……もし、毒系の何かが混合されていると厄介ね」
「毒は……ないっぽいで。普通に動けんだけや」
田中がそう答えた直後、
ヒッキが、
「あのさ……さっきの鳥……『ランク8000』って言ってなかった? ランク8000の魔法とか……あ、ありえんの?」
と、オロオロしながらそう言うと、
冷静沈着なアクバートが、
「ただのフェイクだろう。無詠唱で魔法をかけておいて、口ではテキトーなことを言うのは、悪魔系のモンスターがたまに使う手の一つだ」
狡猾なモンスターだけではなく、普通に、人間同士でも、『無詠唱で魔法を使いつつ、フェイクの魔法名や数字を口にする』というのはよくある戦法。
魔法だけではなく、グリムアーツでも、その手のフェイクを使う者はいる。
命の鉄火場では、嘘も立派な武器の一つ。
ちなみに、彼らが使える魔法のランクは、25前後が精々。
8000というのは、あまりにケタが違いすぎて、フェイクとしては成立しないレベル。
彼らの常識的感覚の上では、
『ランク8000の魔法』というは、
あえてたとえると、『偏差値2000』みたいなもの。
もし、『私の偏差値は2000です』とかいうやつを目の当たりにしたら、『偏差値の意味、しってる?』と鼻で笑ってしまうだろう。




