8話 最低でも320億年と言ったな。あれは嘘だ。
8話 最低でも320億年と言ったな。あれは嘘だ。
「勘弁してくれぇえええ! マジでかぁああああ! 本当に、最低でも320億年間、ずっとサイコジョーカー?! 嘘だろ?! 本当に、嘘だって言ってくれ! 頼むからぁああああああああああああ!」
蝉原が、うずくまり、頭を抱えて悲鳴をあげていると、
そこで、背後から、
「嘘だ」
という声が聞こえた。
バっと、振り返ると、
そこには、見渡す限り、ビッシリと、
このクソ広いソウルゲート全体を埋め尽くすぐらいの、
『えげつない大量のソル』が立っていて、
「最低でも320億年だと推算したのは、完全に間違いだった。貴様に対する目算に間違いはなかったのだが……私の膨張率を見誤っていた。センエースの成長に伴い私も成長するということを失念していた。思ったよりも、私の存在値と運命力が爆上がりしていた。貴様が私を扱えるようになるまで……おそらく、最低でも2兆年は必要だ」
「……」
「かなり長い旅路になりそうだな。これは大変だぞ。……まあ、しかし、私は、貴様を見守ると決めてしまった。どれだけ辛くとも、逃げ出すわけにはいかない。仕方ないから、最後の最後まで、つきあってやる」
「……」
「そろそろ始まるぞ、蝉原。覚悟はできたか? 私は出来ている」
「……いや、ちょっ……ほんっ……え……にちょっ……2兆……えっ……マジ?! まじで、2兆? ガチィイイイイイイ??!!」
黒いモヤモヤは加速度的に膨らんでいって、
ついには、蝉原の全部を飲み込んでしまった。
冷たい黒に触れた蝉原は、
「ぎゃあああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああっ!!」
ソルDPの『3万メテオに圧殺されかけた時』よりも、はるかに大きな悲鳴が世界にこだまする。
とてつもない地獄を体験して既に瀕死の蝉原。
秒で気絶してしまったが、すぐに強制的に『意識の再生』が行われる。
だから、また、
「ぎゃあああああああああああああああああああああああああああああああああああああ」
あまりの地獄に気絶して、意識を再生させて……
そんなことを、何度も、何度も、何度も、何度も繰り返す。
麻痺してしまえば痛みは感じなくなる。
だが、今の蝉原に、その甘えは許されない。
麻酔無しの心臓バイパス手術。
それが、今の蝉原の状況。
「ぎゃあああああ、ぎゃああああっっ!」
ガチでやるとしたら、『センエースじゃないと耐えられない地獄』。
その地獄をフルで満喫している蝉原。
そんな彼の様子を観察しながら、ソルは、ボソっと、
「心配しなくとも、いずれは慣れる。麻痺はしないが、慣れはする。人間とは、生命とはそういうものだ。環境が過酷であればあるほど、全力で適応しようと、『本質に対する大きな変化』――『進化』が起こる」
「うぎゃああああっ! ぎゃああああああっ!」
「今、貴様の細胞は、この過酷な環境に対して、単純な衝撃を感じている段階に過ぎない……しかし、いずれ気づくだろう。これが、『長期間にわたって続くのだ』ということに。すべての細胞が、『この状況に対応しなければならない』という気付きを経てからが、貴様の進化の始まり」




