1話 蝉原と破壊衝動。
1話 蝉原と破壊衝動。
ソルDPの終焉加速によって、完全に消滅させられた蝉原。
そんな蝉原の『消滅データ』が、コスモゾーンに回収される寸前、
「長かった けど、ようやく手に入れた。極めて純粋な悪意の塊。反逆の信念。私の依り代にふさわしい」
『認知の領域外』の『さらに外』にある『どこか』から、
蝉原を奪いにきた者がいた。
『その者』は、
『再生不可能なほど、完全に圧縮され、消滅してしまった蝉原』の『残滓』を、根こそぎかき集めて、
「この器があれば……『真実の終焉』にも届き得る」
一つ一つ、丁寧に、繋ぎ合わせて、元の形に戻していく。
これは、ピースが数百兆単位ある真っ白のジグソーパズルみたいなもの。
恐ろしく繊細で、すさまじく根気のいる作業。
どれだけの力を持っていようと、一瞬でことをなすのは不可能な手間暇がえぐい作業。
『その者』は、蝉原を再生させるために、『自身専用のソウルゲート』を開き、その中で、ざっと、10億年ほど、没頭した時間を使い、蝉原の全てを、どうにか再生させた。
「ん……んん?」
10億年がかりで意識を取り戻した蝉原。
永い間、ずっと、無の中にいた彼が、最初に発した言葉は、
「……また、何か、厄介な計画に巻き込まれそうな気配がするけれど……一応、命を助けてもらったことだし、マナーは守ろうか。あなた様はどちら様かな?」
「ソル・オリジン(純粋理性破壊衝動)」
ソル・オリジンは、浅黒い肌をしている青年だった。
肌の色以外に、これといって特徴がないのが特徴と言った感じのフォルム。
「……ずいぶんと簡潔な自己紹介だねぇ。尊大に名乗りをあげてくれてもよかったのだけれど」
と、軽口をたたきながら、
蝉原は、立ち上がって、再生した自分の体のチェックを開始する。
「……ソルに壊された俺の全部を、あんたに再生してもらった……というのだけは、なんとなく分かるんだけど、それは、俺の洞察力がハンパないだけで、諸々の理解ができているってわけじゃない。目が覚めたら、ここにいて、目の前にはあんたがいた。それ以上の情報は今のところ皆無。洞察を中心とした推察が嫌いってわけじゃないけれど、明確な答えをもらう方が楽なのは事実だから、できれば、口頭で、色々と教えてほしいな」
「かまわない」
「やさしいねぇ。惚れてしまいそうだよ。まあ、俺が誰かに好意を持つことはないけれど」
などと、無意味なファントムトークを置いてから、
「まず……俺はどのぐらい死んでいたのかな? そのへんから教えてほしいかな。感覚的には、だいぶ経っている気がするんだけど」
「外の世界では0秒。ここでは10億年ほど」
「……あ、ここ、ソウルゲートなんだ……へぇ……」
そう言いながら、蝉原は、周囲を見渡して、
「確か、純正のソウルゲートって、単独でしか使えないんじゃなかったっけ? 俺とあんたのお二人様でのご利用は、運営が定めた利用規約に反するじゃない?」
「私がその運営だ。私はソルの……大元だから」
「あら、そう。思ったよりも『エラいさん』みたいだね。んー、しかし、『ソルの破壊衝動』って、他のソルから、全力で嫌われている厄介者って印象だったのだけれど……ずいぶん、物腰柔らかい感じで、紳士的だねぇ。もっと荒々しいサイコかと思っていたんだけど……どうやら、予想とはだいぶ違った存在らしい。それとも、今のスタンスは、何かしらの演技なのかな?」




