65話 ソルのダブルはシャレにならん。
65話 ソルのダブルはシャレにならん。
「大人気ないぞ! ちゃんと、同じ土俵で戦ってくれ!」
「本当なら究極超神化8とのトリプル運用まで行きたかったんだけど、まだまだ発展途上のゼンとゴートの器じゃ、ダブル運用がギリ」
「暴露いらんから、とりあえずダブルをやめてくれ!」
固有神化のダブル運用。
それは、ベースシステムを二基同時に発動させることにより、爆発的な出力を可能とする反則技。
当然、不安定であり、燃費がゴミ。
なんだってそう。
大いなる無茶には大いなる代償が伴う。
ダブルの運用に相当慣れていないと、デメリットを補うほどの出力上昇は見込めない。
『合体』に近い欠陥の覚醒。
――現時点で、もし、誰かが、ダブルに覚醒したとしても、運用が難しすぎるため、そのシステムのスペックを十全にいかすことは不可能。
……だが、ソルだけは別。
そして、『ソルだけは別』であることを、蝉原は理解しているため、
「お前らのダブルは流石にシャレにならん! わかった! 降参! 話し合おう! 俺達ほどの超高次知的生命体が、原始的に殴り合って物事の結末を決めるなんて、どうかしている! 戦争は、すべからく話し合いで解決すべき! 平和的かつ愛のある言葉を交わし合えば、双方の誤解を払拭することも、きっと出来る! というわけで、さあ、手をとりあおう! 愛と友情と多様性で世界を救おう」
全力で、『ノーカン、ノーカン』と、叫び続ける蝉原。
あわれなものである。
そんな、哀しいバカ男を横目に、
ソルDPは、
「……おとなしく、まっとうに『蝉原勇吾』をやっていればよかったものを……そうすれば、『前世のお前』が心底から願った『センエースのライバル役(ガチ敵)』という、世界最高峰に美味しい役をくれてやったのに。『己が頂点に立ちたい』だなんて、妙な色気を出しやがって。……死んでろ、蝉原。お前はもういらない」
「ちょ、待っ――どぐぅぇっ!!」
知覚できない速度での接近。
その勢いのまま、重たい拳を腹部にねじこまれる。
蝉原の現在の肉体は、おそろしく強固なのだが、
ソルDPの拳は、まるで『指で障子を破る』ぐらいのたやすさで、蝉原の腹をぐしゃりと貫通。
肉が弾け、内臓は粉砕。
極悪なダメージを受けて失神寸前。
ギリギリのところで、気絶は免れたが、
局部に追撃をくらったことで、
「ぎゃあああああああああっ!!」
これは、もはや戦闘ではない。
ほとんど拷問。
一方的に、ぐちゃぐちゃにされていく蝉原。
まったくもって相手になっていない。
ソルDPに、まっすぐな圧力をかけられて、
蝉原は、バキバキに削られていく。
『ゼンゴートを活用するソルDP』が、あまりにも強すぎて、
蝉原は、何もできずに追い詰められていく。
ただでさえ、戦力差がえぐいというのに、
なんと、ここで、ソルDPにボーナスタイムが訪れる。
ソルDPの指にはまっている指輪が、ふいに、カっと光ったのだ。
それに気づいた蝉原は、真っ青な顔で、
「でぇえ?! 嘘だろ?! ちょっ、待っ――」
絶望に染まる。
が、待ってくれはしない。
世界は蝉原にあまくない。
――ソルDPの指輪は放つ深い輝きが、一瞬、空間を埋め尽くす。
複数のジオメトリが連鎖して、空間の中で幻想的に織り合った。
すべての線が揺らぎながら重なって、
立体的な美しい幾何となって、それが淡いだけの光になる。
モヤモヤとした光が、瞬時にかわいらしい女の子の形になって、
そして、
「テプ0時を過ぎたよぉー」




