59話 究極の煩悩。
59話 究極の煩悩。
「君らは、存在値1京にすらギリギリ届いていない。散々、合体や融合や調和や強奪を繰り返していながら、まだ兆の領域でさまよっている。君たちは本当に酷いねぇ」
「そうだな、酷いな。そんな酷いパチモンの集合体でしかない俺にやられるオリジナルのお前は……もっと酷いわけだが」
と、最後に一言だけチクリと返してから、
蝉原との距離を詰めた。
そのまま、膨れ上がった拳で蝉原に殴り掛かる。
どうにかこうにか、『蝉原と同等に近いところ』まで引き上げた出力。
その拳は、直撃すれば、ちゃんとダメージになるものだったが、
しかし、蝉原は、
「よっと……」
さほど気負っている様子もなく、サラリと、最小限の動きで、1002号の攻撃を回避すると、
「よっ、ほっ」
過剰なオーラや魔力を込めることなく、
まるで、スレイザ〇パイアで攻防数の数値計算でもしているみたいに、
丁寧に、適切なリソースを裂きながら、
1002号を合理的に削っていっている。
そんな両者の闘いに、
ヌルは割って入っていく。
2対1の利点をフルに活用し、
それぞれが、常に、蝉原の死角にもぐりこめるように計算しながら、
しっかりと立ち回っていく。
そんな二人の優等生な立ち回りを、
蝉原は、余裕で読みつくして、
「――『フルを出し合う最善』しか選択できない『極限の状況』だと、テーブルゲームの天才が味方にいても、あまり意味がないねぇ」
「そうでもないで。ここから先は『間違えん力』が必要になる。その辺のヨセも、カミノは得意としとるところ」
ここまでで、既に、チートの『馬鹿試合(化かし合い)』は終わり、
ここからは、純粋な削り合い、ヨセの状態に入っている。
あとは、『どっちが先に尽きるか』という、
かなり複雑ではあるものの、正解の道は一本しかない詰めに入る。
派手な突貫力は不必要になるものの、しかし、その分、いぶし銀な底力が必要となってくる。
高い地力で、最後まで読み切った1002号は、
心の中で、
(これは、完全に勝った……ギリギリやけど……蝉原の生命力が先に尽きる……流石に、ザンクさんとヌルの両方をあいてに勝つんは無理……っ。2対1の超ハンデ状態やのに、ギリギリの削り合いまでもっていっただけ大したもん)
――蝉原は、
あえて、ここまで、ずっと、
『カミノ』が想定した範囲内で闘ってきた。
何度か『予想外』を繰り出したものの、
すべて、一応、『カミノ』が整えた舞台の上で踊ってきた。
――すべては、
ここでの一手をクリティカルにするため。
……蝉原は、
「今だ、ナイアァアアアアアアア!!」
腹の底からひねり出したような大声で叫ぶ。
すると、
空にでかいジオメトリが刻まれた。
そのジオメトリから、
「――煉獄・不滅彗星ランク9108」
声が聞こえた。
と思った直後、
天から、無数のメテオが降り注ぐ。
山ほど振ってきているというのに、
その一つ一つが、えげつないほどのオーラを纏っている。
この状況を前にして、1002号が、蝉原に、
「ランク9000のメテオぉ?!! はぁああ?! せ、蝉原ぁ! お前、バカか! これ、お前も死ぬぞ!」
と、叫びながら、蝉原に視線を向けると、
蝉原は、何やら、『豊穣』を想起させるゴージャスな『黒い盾』を空に向かって構えていた。




