55話 これからセンエースが積み重ねていく分。
55話 これからセンエースが積み重ねていく分。
「……ん? こ、こんなもんか? もちろん、しんどかったけど……え、こんなもん? 1300億やろ? もっと、しんどいと思ったんやけど……」
「ぜんぶをぶち込んだら流石に壊れるから、大事な上澄だけを丁寧に抽出して薄く塗りたくった! どうやら、もう少し厚く塗っても大丈夫だったっぽいが、お前の正確な限界なんか知らん! だから完璧な調節なんかできん!」
「まあ、そらそうやろな」
そう言いながら、1002号は体に気合を入れた。
先ほどまでとは次元の違う質量の推進力で、蝉原との間にある距離を殺すと、
蝉原の眼球目掛けて、右手のピースサインをぶち込もうとする。
「目潰しとは無粋だねぇ」
そう言いながら、サラっと回避する蝉原。
1002号は、そのままの勢いを殺すことなく、体を急速反転させて、左のエルボーで、蝉腹の鼻先を叩き潰そうとした。
その動きも蝉原にはよく見えているようで、最小限のスウェーで回避される。
その様を見た1002号は、
「ちっ おどれ、思っとったよりも、戦闘力高いな、蝉原ぁ」
高い次元で闘うことができるようになったことで、
蝉原の資質の高さをデジタルに理解できるようになった1002号。
蝉原の戦闘センスは、1002号を置き去りにしている。
「無能のセンくんとは違って、俺は天才だからねぇ。『純粋な頭の良さ』では田中トウシに負けているが、『戦闘中の視野の広さ』や『こだわり』や『執念』なんかでは『大勝している自信』がある」
そう言いながら、丁寧に武を構えて、
「センくんが必死に積み重ねた1300億年を、それよりもはるかに少ない『わずかな時間』で追い越す。それが才能という理不尽だよ。センくんには耳が痛い話だろうねぇ」
などと、自分の才能を誇る蝉原の視界の隅で、
カミノが、
「もどれ、1002号! まだ積み終わってねぇ! 勝手に攻撃するな! ハウス!」
などと、ふざけたことを言われた1002号は、
普通に、イラっとした顔をしつつも、
カミノの近くまで戻り、
「……まだ、積み終わってないて……ここから、まだ、何をする気やねん。上澄み以外も流し込むとか?」
「さっき、お前にぶちこんだのは、これまでにセンエースが積み重ねてきたぶん! そしてこれは! これからセンエースが積み重ねていく予定のぶんだ!」
そう言いながら、
1002号のこめかみに、今度は左フックを、ぶちこんでいくカミノ。
不意打ちでもなかったので、よけようと思えばよけられたが、
すでに覚悟を決めている1002号は、黙ってカミノの一発を受け止めた。
ガツンと脳天をゆさぶられる。
「どっぶごぉえええええええ!!」
またも、のたうちまわる、可哀そうな1002号さん。
そんな1002号を見下ろしつつ、
蝉原が、
「これから、閃くんが積む予定の分をぶちこむって……それは、流石に、反則じゃないかな?」
「ここまでの俺らの闘いに、反則じゃなかった箇所とかあるか? てか、ここにいる全員が、漏れなく、『道理から完全に外れまくっているチーター』だと思うんだが」
「くく……違いないね」




