54話 こんなもん。
54話 こんなもん。
「具体的にやり方を教えてくれや。『どうにか』とか『なんとか』とか そんなゴミみたいな装飾がついとる発注書は承ってへんねん」
「がんばれ、ザンク。お前がナンバーワンだ」
「ちゃうねん。ナンバーツーやねん。ナンバーワンはお前の中におるから、そいつにオーダーしてく――」
「うらぁあ!」
と、カミノは、1002号の文句を一切シカトして、
1002号のこめかみに向かって、ゴリゴリの右フックを叩き込む。
完璧に入った不意打ち。
えげつないほど脳天が揺れた1002号。
衝撃とめまいの直後、全身に激しい精神的負荷が襲いかかった。
「っっっ! どぎゃああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああ!」
と、超神水を飲んだカカロ〇トのように、
のたうちまわりながら、ぎゃーぎゃーとわめく1002号。
そんな彼を尻目に、ヌルと殴り合っている蝉原が、
「うわぁ ヤッバいコトしているねぇ。今の1002号には、サイコジョーカー級の負荷がかかっているんじゃない?」
ドン引きの顔でそういう蝉原に、
カミノは、
「サイコジョーカーが昼下がりのコーヒーブレイクに思える そういうレベルの地獄を、いま、1002号さんは体験していらっしゃるのだ。ひかえをろう」
「そんな地獄、1002号ごときに耐えられるものだとは思わないんだけど?」
「1002号単騎じゃ当然無理だ。2秒ともたねぇ。だが、今のあいつは狂気を背負った愛の戦士。ならいけるさ。昔から言うだろ。最後に愛は勝つって」
「その手の言葉が、本当に嫌いだ。ゲロ吐きそうになるからね。この辺の感覚は、センくんも同じじゃないかな」
「お前に同調したくないけど、そこに関してはマジでそう。愛、友情、絆、チームワーク、ワンフォアオールオールフォワン、この辺全部、死ぬほど嫌いだ。聞くだけで、虫酸が脳のあちこちでパラパラを踊りはじめる」
ちょっと何言っているかわからないことをほざきつつも、ヌルと蝉腹はボッコボッコと純粋な殴り合いを続けている。
お互い、山ほど魔法もスキルもグリムアーツも使えるはずなのに、しかし、頑なに、まっすぐな拳だけをぶつけ合う。
そんな彼らの視界の片隅で、
1002号はずっと、ギャーギャー喚き続けている。
とにかく、苦しくて仕方ないらしい。
死んだ方がよっぽどマシだと思うほどのバグった苦悩の中で、
しかし、1002号は、
「く、くそがぁあああああ! 絶対に壊れてやらねぇええええ! ぜってぇえええにぃいいいいいいいい!!」
破格の根性を示し続ける。
愛を知ったから?
テラスの因子をもっているから?
もともと、ザンクの根性がハンパないから?
理由は無数にある。
いま、ザンクが覚悟を叫んでいられている理由は山ほどある。
それら全部を背負って、飲み込んで、
そして
「ぁ」
意識が唐突に定まった。
視界がクリアになる。
ゴクリと、最後に一度だけ唾を飲む。
そして、
「ぷはぁ!!」
まるで、水の中から顔を出したみたいに、全力で息を吸うザンク。
「……ん? こ、こんなもんか? もちろん、しんどかったけど……え、こんなもん? 1300億やろ? もっと、しんどいと思ったんやけど……」
と、不思議そうな顔をしているザンクに、
カミノが、
「ぜんぶをぶち込んだら流石に壊れるから、大事な上澄だけを丁寧に抽出して薄く塗りたくった! どうやら、もう少し厚く塗っても大丈夫だったっぽいが、お前の正確な限界なんか知らん! だから完璧な調節なんかできん!」




